第8話 価値逆転
無階位の仕事は、減らない。
誰かが死んでも、
誰かが処分されても、
翌日には、同じ数の作業が並ぶ。
ただ一つ違うのは、
昨日まで一緒にいた顔が、もういないことだ。
俺は、ミアのいなくなった区画で、瓦礫を運んでいた。
重い。
埃が舞う。
空気が悪い。
それでも、手は止まらなかった。
止まれば、
また「価値がない」と判断される。
――違う。
胸の奥で、微かな違和感が生まれる。
昨日までの俺は、
価値がないから使われていた。
だが今は――
価値がない仕事を引き受けるほど、生き延びている。
瓦礫の山の奥から、呻き声が聞こえた。
倒壊した壁の隙間。
誰かが、挟まれている。
「……助けは、来ない」
近くにいた無階位が、ぼそりと言う。
「崩落区域だ。
触れば一緒に潰される」
正しい判断だ。
誰も、責められない。
俺は、一歩、前に出る。
「おい、やめろ」
声がかかる。
「無意味だ。
価値がない」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が、はっきりと反応した。
――価値がない。
その判断が下された行動ほど、
今の俺には、近い。
俺は、瓦礫に手をかける。
崩れかけた石材。
本来なら、一人で動かせる重さじゃない。
だが――。
踏み込んだ足が、沈まない。
腕に力が、素直に伝わる。
軋む音。
瓦礫が、動いた。
「……は?」
周囲の無階位が、目を見開く。
俺自身も、驚いていた。
重い。
確かに重い。
だが、不可能じゃない。
瓦礫の下から、血だらけの無階位が引きずり出される。
「た、助かった……」
礼を言う声は、すぐに途切れた。
次の作業へ連れていかれる。
感謝も、報酬もない。
それでいい。
むしろ――。
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
その後も、危険な作業が続いた。
毒素が残る区画。
不安定な床。
誰も近づかない場所。
俺は、そこへ回されるたび、
生存率が上がっていることを感じていた。
疲れにくい。
判断が速い。
体が、迷わない。
だが、周囲は違う。
「無階位のくせに、しぶといな」
兵士の視線が、変わり始めている。
好意ではない。
警戒だ。
昼過ぎ、ガルドが近づいてきた。
「……お前」
低い声。
「最近、運がいいな」
俺は答えない。
ガルドは、俺の手を見る。
腕を見る。
そして、目を細めた。
「いいか」
声を、さらに落とす。
「目立つな。
無階位が“役に立つ”と思われた瞬間、
別の使われ方をする」
それは忠告だった。
そして、警告だった。
俺は、初めて理解する。
――これは、力じゃない。
誇れるものでも、
振りかざすものでもない。
ただ、
価値がないと切り捨てられた場所で、生き残るための歪みだ。
夕方、作業が終わる。
体は疲れている。
だが、倒れない。
昨日の俺なら、もう動けなかった。
瓦礫の上に座り、
空を見上げる。
上層都市の光は、ここから見えない。
それでも、分かる。
あそこは、
価値がある者の場所だ。
そして、
価値がないとされた行動は、
確実に、俺をそこから遠ざけながら――
同時に、近づけてもいる。
俺は、拳を握る。
まだ、何も分からない。
名前も、仕組みも。
だが、一つだけ確信していた。
この世界の判断基準は、
俺の中では――もう、逆になり始めている。
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