第4話 実験失敗
光が、弾けた。
爆発音はない。
衝撃も、揺れもない。
ただ、装置の灯りが一斉に消え、部屋が闇に沈んだ。
「……っ!」
俺は思わず一歩下がる。
耳鳴りがする。頭の奥が、じんと痺れていた。
静寂。
次の瞬間、警報が鳴り響く。
「異常反応! 出力停止!」
廊下の向こうから、慌ただしい足音。
兵士と研究員の声が重なる。
「失敗だ、またか」
「被験体は?」
「生命反応、低下――」
俺は咄嗟に台の影に身を伏せた。
視線の先で、ミアの体がぐったりと垂れている。
光は消え、刻印も薄くなっていた。
……生きているのか?
確認する余裕はない。
研究員の一人が、台を覗き込む。
「反応値ゼロ。やはり無階位では耐えられないか」
「処分対象だな」
淡々とした声。
まるで、壊れた道具を片付けるように。
その瞬間、胸の奥が、強く脈打った。
――違う。
理由は分からない。
だが、強烈な否定だけが湧き上がる。
処分されるべきじゃない。
価値がないから、捨てていいわけじゃない。
頭の中で、何かが裏返る。
次に気づいたとき、
俺は台の横に立っていた。
どうやって移動したのか、分からない。
足の感覚が、少しだけ軽い。
「誰だ!」
研究員が叫ぶ。
兵士が振り向き、武器を構える。
だが、その動きが――遅く見えた。
俺は、ミアの拘束具に手をかける。
硬い金属。だが、力を込めると、きしむ音がした。
――外れる。
自分でも、信じられなかった。
拘束具が壊れ、ミアの体が俺の腕に落ちる。
軽い。
思っていたより、ずっと。
「止まれ、無階位!」
兵士が踏み込む。
刃が振り下ろされる。
避けようとしたわけじゃない。
ただ、体が先に動いた。
刃は、俺の肩をかすめるだけだった。
痛みは、ある。
だが、耐えられないほどじゃない。
俺は、そのまま走った。
警報。
怒号。
足音。
全部が、背後に遠ざかる。
通路を抜け、裏口へ。
空気が、外の匂いに変わる。
そこで、力が抜けた。
膝をつき、ミアを抱えたまま、荒く息を吐く。
「……レイ……?」
かすかな声。
俺は、はっとして彼女を見る。
目が、少しだけ焦点を取り戻している。
「生きてる……」
それだけで、胸が詰まった。
だが、安堵する暇はなかった。
遠くで、再び警報が鳴る。
今度は、さっきより多い。
俺は、理解する。
これは、失敗だ。
実験の失敗。
そして――俺という存在の、失敗。
もう、戻れない。
無階位として、黙って使われるだけの生活には。
ミアを抱え直し、立ち上がる。
体は、確かに疲れている。
それでも。
――動ける。
さっきまでの俺より、
ほんの少しだけ。
価値ゼロのはずの行動が、
確かに、何かを変えた。
俺は、暗い通路へと走り出す。
この世界で初めて、
自分の意思で――逃げるために。
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