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価値ゼロと判定された俺が、誰もやらない仕事で世界を裏側から変えていく話  作者: 空城ライド


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第20話 価値の拡散

 何かを壊すより、

 増やす方が、よほど制御できない。


 それを、俺はよく知っていた。


 仮置き区域に戻ってから、

 俺は目立つ行動を一切しなかった。


 危険な場所に行かない。

 結果が分かりやすい仕事をしない。

 事故を“止めない”。


 表向きは、

 ただの無階位に戻った。


 だが、

 裏では違うことをしていた。


 仕事の前後。

 休憩の合間。

 誰にも気づかれない時間。


 俺は、

 言葉を残していった。


 配管の横に。

 制御盤の裏に。

 古い端末のログに。


 やり方ではない。

 正解でもない。


 残したのは、

 考え方だ。


「危険だから触らない、は理由にならない」

「失敗前提の仕事ほど、正解が残っている」

「誰もやらない理由を、まず疑え」


 署名は、ない。


 誰が書いたか、分からない。


 だが、

 読む者はいる。


 最初に変わったのは、

 仮置き区域の古参だった。


「……これ、

 前に誰か言ってなかったか」


「知らねえ」


「でも……

 やってみる価値はあるな」


 小さな変化。


 だが、確実な変化。


 次に、

 第二層の下級兵士が、

 危険区域の前で立ち止まった。


「回避、って書いてあるけど……

 一回、中、見てみるか」


 結果、

 事故は起きなかった。


 名前は残らない。

 だが、

 成功体験だけが残る。


 それが、

 最も厄介な形での拡散だった。


 エルナは、

 すべてに気づいていた。


 だが、止めなかった。


 端末の個人記録に、

 短い一文を追加するだけだ。


「特定個体によらない、

判断基準の共有による安定化が確認される」


 誰の名前も、ない。


 だが、

 “方法”は記録された。


 数日後、

 管理部が気づく。


「仮置き区域だけじゃない」


「同じ傾向が、

 複数の下層で確認されている」


 研究部は、首を傾げる。


「原因は?」


「不明です」


 いつも通りの答え。


 だが、今回は違う。


「……再現性がある」


 それは、

 個人の異常ではなく、

 構造の歪みを意味していた。


 俺は、

 その様子を遠くから見ていた。


 関わらない。

 説明しない。


 もう、

 俺が出る幕じゃない。


 価値がないとされた仕事が、

 少しだけ、

 “考える対象”になった。


 それだけで、十分だ。


 その夜、

 エルナが、俺の前に立つ。


「……これで、終わりですね」


「そうだ」


「あなたは、

 何も得ていない」


 事実だ。


 階位もない。

 名前もない。

 報酬もない。


 俺は、少しだけ考える。


「一つだけ、得た」


「何を」


「……戻れなくなった」


 エルナは、

 それを聞いて、微かに笑った。


「ええ」


「でも、

 それでいいんでしょう」


 俺は、頷く。


 翌朝も、

 仮置き区域は変わらない。


 だが、

 誰もやらない仕事の前で、

 立ち止まる人間が増えていた。


 価値がないとされた行動が、

 少しずつ、

 他人の選択肢になっていく。


 それは、

 世界にとって、

 最も扱いづらい変化だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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