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価値ゼロと判定された俺が、誰もやらない仕事で世界を裏側から変えていく話  作者: 空城ライド


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第18話 観測対象

 呼び出しは、命令ではなかった。


 だが、拒否権もなかった。


「無階位・番号四七二。

 指定区画へ移動せよ」


 機械音声が、淡々と告げる。


 “連行”ではない。

 だが、護衛はつく。


 俺は、何も言わずに歩いた。


 通されたのは、

 仮置き区域よりも上、

 だが研究棟ほど奥ではない場所。


 白い壁。

 整った床。

 感情を感じさせない空間。


 机の向こうに、三人いた。


 階位章は、全員第四層。


 研究部。

 管理部。

 記録部。


 役割の違う三人が揃うのは、

 結論が必要なときだけだ。


「着席を」


 命令ではない。

 だが、選択肢もない。


 俺は、椅子に座る。


 拘束はされていない。

 それが、逆に不気味だった。


「無階位・番号四七二」


 研究部の女が、口を開く。


「君は、

 仮置き区域で発生した

 複数の“安定化事象”に

 関与していると推定される」


 推定。

 確定ではない。


「だが、

 君の名は、

 公式記録に存在しない」


 記録部の男が、端末を操作する。


「行動履歴も、

 意図的に薄い」


 それは、

 エルナの“防御”でもあった。


「質問する」


 管理部の男が言う。


「君は、

 自分が何をしたか、

 説明できるか」


 俺は、少し考える。


 正直に答えても、

 理解されない。


 だが――。


「説明は、できない」


 静かに言う。


「ただ、

 誰もやらないことをやっただけだ」


 三人の視線が、俺に集まる。


「それが、

 なぜ結果を生む?」


 研究部が問う。


「結果が出たのは、

 “やらなかった理由”が

 間違っていたからだ」


 少しだけ、

 空気が動く。


「危険だから」

「失敗するから」

「価値がないから」


 俺は続ける。


「その判断は、

 “正解を探さない”ための理由だ」


「俺は、

 探しただけだ」


 沈黙。


 管理部の男が、

 ゆっくりと息を吐く。


「君は、

 自分が何を意味しているか、

 分かっているか」


「分かっていない」


 即答だった。


「だが、

 このままではいられないことは、

 分かっている」


 三人が、視線を交わす。


 そして、

 研究部の女が言った。


「君を、

 観測対象とする」


 その言葉は、

 処刑宣告でも、

 昇格でもなかった。


「階位は付与しない」

「所属も与えない」

「だが、行動は記録する」


 それは――

 檻だった。


「拒否は?」


 俺は尋ねる。


 管理部が答える。


「拒否すれば、

 異常事象として処理する」


 つまり、

 消される。


「受け入れれば?」


「安全は保証しない」


 正直だった。


 だが、

 一つだけ、

 俺は聞かなければならなかった。


「条件は?」


 研究部の女が、少しだけ目を細める。


「仮置き区域に戻り、

 これまで通り働け」


「ただし、

 意図的な隠蔽は禁止だ」


 それは、

 エルナの防御を剥がす宣言だった。


 俺は、考える。


 ここで受け入れれば、

 俺は“管理される”。


 拒否すれば、

 存在ごと消える。


 どちらも、

 俺が選んできた道じゃない。


 だが――。


「……一つ、条件がある」


 俺は言った。


 三人の視線が、揃う。


「俺の名前は、

 記録に残すな」


 空気が、張り詰める。


「無階位として扱え」


「番号のままでいい」


「成果は、

 俺のものにするな」


 管理部が、低く言う。


「それは、

 前例がない」


「だから、意味がある」


 俺は、目を逸らさない。


 沈黙が、数秒続いた。


 やがて、

 研究部の女が口を開く。


「……条件付きで、受諾する」


 その瞬間、

 何かが決まった。


「君は、

 名を持たない観測対象だ」


 昇格しない。

 だが、消されない。


 利用されるが、

 独占はされない。


 最も、扱いづらい存在。


 俺は、立ち上がる。


 拘束は、最後までなかった。


 部屋を出る直前、

 記録部の男が、ぼそりと呟く。


「……価値がないはずの存在が、

 最も高いコストを生んでいない」


 俺は、振り返らなかった。


 仮置き区域へ戻る通路で、

 エルナが待っていた。


 何も言わない。

 だが、目を見れば分かる。


 ――始まった。


 俺は、無階位のままだ。


 だが、

 もう“無視できない存在”として、

 世界の中に置かれている。


 それが、

 この物語の分岐点だった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結になります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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