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価値ゼロと判定された俺が、誰もやらない仕事で世界を裏側から変えていく話  作者: 空城ライド


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第16話 記録に残らない成功

 仮置き区域では、何も変わらないように見える。


 人の数。

 仕事の内容。

 扱われ方。


 だが、水面下では、確実に何かが動いていた。


 事故案件のあと、

 エルナが回してくる仕事が、微妙に変わった。


 難易度が上がったわけじゃない。

 危険度も、表向きは同じ。


 ただ――

 失敗すると困る仕事が増えた。


 止まると、下層の生活に影響が出る。

 遅れると、別部署の責任問題になる。


 それでも、

 正式に依頼できない仕事。


 俺は、黙ってそれを引き受けた。


 結果は、同じだ。


 壊れない。

 止まらない。

 事故が起きない。


 だが、記録は残らない。


 作業報告には、

 いつも同じ文言が並ぶ。


「原因不明のまま、安定化」

「自然復旧を確認」

「担当者・未記録」


 誰かがやったことだけが、

 分からない形で残る。


 昼休み、

 仮置き区域の端で、男たちが話している。


「最近、事故減ってねえか」

「気のせいだろ」

「いや……前は、月に一回は爆発してた」


 俺は、聞こえないふりをする。


 聞かれない。

 呼ばれない。


 それが、今の立場だ。


 だが、全員が気づいていないわけじゃない。


「……レイ」


 エルナが、低い声で呼ぶ。


 周囲に誰もいないのを確認してから、

 彼女は端末を閉じた。


「仮置き区域の事故率、

 ここ一月で三割減っています」


 俺は、答えない。


「公式記録では、

 あなたの名前は一度も出ていない」


 彼女は、静かに続ける。


「それでも、

 あなたが関わった案件だけが、

 確実に“無事に終わっている”」


 胸の奥が、静かに反応する。


 これは、評価ではない。

 分析だ。


「普通なら、

 偶然で片づけます」


 エルナは、俺を見る。


「でも……

 私は、もう無理です」


 はっきりとした言葉。


「あなたは、

 運がいいだけじゃない」


 それは、踏み込んだ発言だった。


「質問を変えます」


 彼女は、少しだけ声を落とす。


「あなたが行く仕事には、

 共通点があります」


 俺は、黙って聞く。


「誰もやらない」

「失敗しても責められない」

「成功しても評価されない」


 その三つ。


「……なぜ、

 そこに行くんですか」


 俺は、少し考える。


 答えは、前から決まっていた。


「価値がないって言われたから」


 エルナは、息を止めたように見えた。


「……それだけ?」


「それだけだ」


 俺は続ける。


「価値がないって判断された仕事は、

 “誰も正解を考えない”」


「だから、

 正解が残っている」


 エルナは、しばらく黙っていた。


 やがて、端末を胸に抱く。


「……あなたは、

 この世界の評価基準の“外”で動いている」


 それは、核心に近い言葉だった。


 その日の夜、

 仮置き区域の外が騒がしくなった。


 兵士の数が、増えている。


 研究員が、出入りしている。


 ただし、

 誰も俺を呼ばない。


 呼べない。


 公式記録上、

 俺は“何もしていない”からだ。


 だが、

 エルナの個人端末には、

 別の記録が積み上がっていく。


 未公開ログ。

 未申請の成功例。


 それは、

 表に出せば危険なものだった。


 だからこそ――

 価値がある。


 エルナは、最後に一つだけ言った。


「近いうちに、

 あなたの名前を、

 “上”が聞くことになります」


 警告だった。


 そして、予告だった。


 俺は、空を見上げる。


 仮置き区域からは、

 相変わらず何も見えない。


 だが、分かる。


 ここで積み上げた

 “記録に残らない成功”は、

 いつか必ず、

 誰かの都合を狂わせる。


 それが、

 俺がこの場所で果たしている役割だ。


 価値がないとされた行動が、

 世界を、静かに動かしている。


 誰にも気づかれないまま。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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