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価値ゼロと判定された俺が、誰もやらない仕事で世界を裏側から変えていく話  作者: 空城ライド


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第15話 事故案件

 事故案件、と呼ばれる仕事がある。


 表向きには、

 「調査中」

 「対応予定」

 と記録される。


 だが実際は――

 失敗することを前提に回される案件だ。


 責任を取りたくない部署が、

 時間稼ぎのために放り込む。


 成功すれば儲けもの。

 失敗しても、誰も責められない。


 仮置き区域は、

 そういう案件の終着点だった。


「今回の案件です」


 エルナが、簡易端末を操作する。


「旧エネルギー供給路の不安定化」

「原因不明」

「復旧見込み・低」


 周囲の人間が、露骨に視線を逸らす。


 供給路の事故は、

 爆発・感電・崩落の可能性がある。


 しかも、旧式。


「正式部署は?」


 誰かが聞く。


「撤退しました」


 淡々とした答え。


 つまり――

 見捨てられた。


 エルナの視線が、俺に向く。


 一瞬だけ。

 だが、確かに。


 俺は、前に出る。


「行く」


 仮置き区域が、静かになる。


「……理由は?」


 エルナが問う。


 昨日と同じ質問。


 俺は、同じ答えを返す。


「誰も、やらないから」


 彼女は、短く息を吐いた。


「……二時間です」


「それ以上戻らなければ、

 事故として処理します」


 つまり、

 助けは来ない。


 それでいい。


 現場は、地下深くにあった。


 古い配線。

 錆びた制御盤。

 低く唸る音。


 不安定なエネルギーが、

 空気を震わせている。


 俺は、一歩ずつ進む。


 ここは、危険だ。


 だが――

 誰も触れない理由が、

 “分からないから”であるなら。


 分かろうとする価値がある。


 制御盤の前に立つ。


 表示は、ほとんど消えている。


 だが、痕跡は残っていた。


 過去の補修。

 場当たり的な接続。


 原因は、

 一つじゃない。


 だから、誰も直せなかった。


 俺は、呼吸を整える。


 胸の奥が、静かに整列する感覚。


 価値がないと判断された場所。

 失敗前提の仕事。


 ――ここだ。


 配線を一本、外す。

 火花が散る。


 だが、爆発しない。


 次に、別の系統を遮断する。


 唸りが、少しだけ下がる。


 最後に、

 誰も触らなかった古い弁を回す。


 固い。

 だが、回る。


 音が、止まった。


 静寂。


 俺は、数秒、その場で動かなかった。


 崩落も、爆発もない。


 成功だ。


 だが――

 それを知るのは、俺だけだ。


 戻る途中、

 壁際の端末が微かに光る。


 自動ログ。


 作業時間。

 異常値、解消。


 だが、

 作業者名:未記録。


 俺は、端末を見つめる。


 そういう扱いだ。


 仮置き区域に戻ると、

 エルナが待っていた。


「……戻りましたね」


「終わった」


 簡単に答える。


 エルナは、端末を確認する。


 指が、止まる。


「……成功、しています」


 声が、わずかに低くなる。


「正式記録には……

 載せません」


 その判断は、

 彼女なりの“防御”だった。


「載せれば、

 あなたは回収される」


 研究対象として。


 あるいは――

 別の形で。


「ですが」


 エルナは、俺を見る。


「私の個人記録には、残します」


 それは、宣言だった。


 味方とも、敵とも言えない。


 だが、

 無視されるより、ずっと重い。


「レイ」


 彼女は、初めて、

 はっきりと名前を呼んだ。


「あなたは……

 何者ですか」


 俺は、少し考える。


 答えは、まだない。


「無階位だ」


 それだけ言った。


 エルナは、笑わなかった。


 ただ、静かに頷く。


「……そうですね」


 その目には、

 疑念と興味と、

 ほんのわずかな警戒が混じっていた。


 事故案件は、

 失敗として処理された。


 公式には。


 だが、その日から、

 仮置き区域の電力は安定した。


 誰も、理由を知らない。


 誰も、名を呼ばない。


 それでいい。


 価値がないとされた仕事は、

 今日も、静かに世界を支えている。


 そして俺は、

 その中心に、

 誰にも気づかれないまま立っていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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