第13話 仮置き区域
連れて行かれた場所は、廃区画でも実験棟でもなかった。
薄暗い通路をいくつも抜け、
最後に通されたのは、鉄格子のある広い空間だった。
「ここがお前の新しい配置先だ」
兵士が、事務的に言う。
扉が閉まる音が、低く響いた。
中に入った瞬間、空気が違うと分かった。
廃区画ほど汚れてはいない。
だが、整ってもいない。
中途半端。
まるで、どこにも属していない場所だ。
「……仮置き区域、か」
誰かが、ぼそりと呟いた。
周囲を見る。
無階位。
だが、どこか雰囲気が違う。
視線が鋭い者。
腕に傷を残した者。
階位札を外された第二層の兵士。
――落ちこぼれ。
――問題児。
――処分しきれなかった存在。
俺は、その中に放り込まれた。
「新入りか」
声をかけてきたのは、
年上の男だった。
無階位の服装だが、姿勢がいい。
「……レイ」
一瞬だけ、名前を口にする。
この区域では、
誰も咎めなかった。
「へえ」
男は、少しだけ口元を歪める。
「名前を持ってる無階位、久しぶりだ」
それが、ここでは“異常”だと知る。
「ここは、仮置きだ」
男は言う。
「実験に回すほどじゃない。
でも、普通の仕事に戻すには、危ない」
俺は、理解する。
――使い道を、まだ決められていない。
「じゃあ、ここで何をする」
「何でも、だ」
男は肩をすくめる。
「誰もやらない仕事。
誰も責任を取りたがらない仕事」
それを聞いて、胸の奥が微かに反応した。
……慣れている。
しばらくして、扉が再び開いた。
今度は、研究員だった。
白衣。
だが、階位章は第三層。
「仮置き区域の管理を担当します」
淡々とした声。
「エルナです」
女だった。
年は、俺より少し上。
疲れた目をしている。
だが、こちらを見る視線は、
兵士とも研究員とも違う。
――観察する目。
「あなたたちは、正式な作業記録から外れています」
エルナは言う。
「だからこそ、
“例外的な案件”を回される」
例外。
その言葉に、何人かが苦笑する。
「拒否権はありません」
当然だ。
「生き残りたいなら、
割り振られた仕事をこなしてください」
視線が、一瞬だけ俺に留まる。
ほんの一瞬。
だが、確かに。
「……以上です」
エルナは、端末を閉じる。
その直後、
区域の奥で、小さな騒ぎが起きた。
「おい、あそこ……」
崩れかけた床。
下は、旧配管層。
誰も、近づきたがらない。
「危険度、未確認」
エルナが端末を確認する。
「……回避推奨」
その言葉が出た瞬間、
周囲の視線が一斉に逸れた。
誰もやらない。
いつものことだ。
俺は、一歩、前に出る。
「行く」
エルナが、こちらを見る。
「……理由は?」
俺は、少し考えてから答えた。
「誰も、やらないから」
その瞬間、
胸の奥が、静かに整う。
エルナは、しばらく俺を見ていた。
そして、小さく息を吐く。
「……記録します」
感情のない声。
だが、その指は、わずかに止まった。
俺は、崩れた床へと足を踏み出す。
仮置き区域。
どこにも属さない場所。
だが、ここは――
まだ、切り捨てられていない者たちの集積所だ。
そして、
価値がないとされた行動は、
また一つ、俺を生かす選択になる。
第1層は、続いている。
だが、物語は――
もう、別の段に足をかけていた。
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