第12話 第1層、継続
整理は、夜明け前に始まった。
警報は鳴らない。
怒鳴り声もない。
ただ、廃区画の各所で、
静かに兵士の数が増えていく。
――来た。
俺は、瓦礫の影から通路を見下ろす。
無階位たちが、いつもより素早く集められている。
抵抗はない。
抵抗できると、誰も思っていない。
予定より少し早い。
だが、誤差の範囲だ。
俺は、背中の袋を確かめる。
食料、簡易工具、識別札。
ガルドが用意したもの。
彼の姿は、もう見えない。
今日、この場にいれば――
巻き添えになる。
搬出路の入口は、いつもと同じ場所にあった。
価値がないものを、外に出すための道。
死体。
廃棄物。
失敗作。
――無階位。
俺は、闇の中へ滑り込む。
空気が冷たい。
足元は不安定だが、進める。
数歩、数十歩。
順調だった。
だが――。
胸の奥が、嫌な形で軋んだ。
足を止める。
次の瞬間、
通路の奥で、淡い光が灯った。
「……検知」
機械音声。
「未登録行動を確認」
しまった。
管理装置だ。
使われなくなったはずの監視系。
俺は、引き返そうとする。
だが、遅い。
光が、通路全体をなぞる。
逃げ場は、ない。
「対象特定」
冷たい声。
「無階位・番号四七二」
名前は呼ばれない。
だが、確かに――俺だ。
通路の奥から、兵士が現れる。
数は多くない。
捕らえるための人数。
殺すためじゃない。
「動くな」
命令。
俺は、動かない。
抵抗しても、意味はない。
今は、まだ。
拘束され、地上へ引き戻される。
廃区画の中央。
無階位たちは、すでに半分以上が消えていた。
実験棟側。
処分場側。
俺は、そのどちらにも行かなかった。
連れて行かれた先は、
簡易の管理区画。
白い壁。
記録端末。
無機質な机。
研究員が、端末を操作する。
「……妙だな」
小さな呟き。
「この個体、
異常検知が複数回ある」
別の研究員が言う。
「だが、数値は基準内だ」
「行動履歴だけが、歪んでいる」
会話は、俺を見ないまま続く。
物としての評価。
「処分対象にするには、惜しい」
「だが、昇格条件も満たさない」
沈黙。
そして、結論。
端末が、短く音を立てる。
「無階位・番号四七二」
機械音声が読み上げる。
「階位未付与」
「実験対象・除外」
「処分・保留」
俺は、顔を上げる。
「――経過観察対象とする」
その言葉で、すべてが決まった。
殺されない。
だが、自由にもならない。
俺は、
“判断を先送りされた存在”になった。
管理区画を出される。
外は、もう朝だった。
廃区画は、静かだ。
人が減った分、音が少ない。
俺は、壁にもたれ、息を吐く。
逃げ切れなかった。
だが、失敗でもない。
この世界は、
俺を切り捨てきれなかった。
それだけで、十分だった。
空を見上げる。
上層都市は、相変わらず見えない。
だが、確かに思う。
――見られている。
無階位のまま。
価値がないとされたまま。
それでも、
俺はもう、完全な“無視”の対象じゃない。
拳を、ゆっくり握る。
第1層は、終わらない。
だが――
続いてしまった。
価値を持たない朝は、
まだ、終わらせてもらえない。
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