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村娘に転生したんだけど、何だか様子がおかしい

作者: ひよこ1号

何処に転生したんや。


村にある普通の道でずべっと転んで私は前世の記憶を思い出した。

思い出したと言っても、何となくしか覚えていない。

高度な文明社会だった、くらいしか。

普通転生したらさ、豪華な部屋とかで、私貴族!?みたいになるよねぇ?

村娘なんですが。

転んで起き上がって、スカートに付いた土埃を払う。

振り返っても前を見ても、村。

上を見たら青空。

右を向いても左を向いても村。

地面は土。

村の周りは森だから、家の向こうには漏れなく森が見える。

わーい木が沢山。

空気が美味しい!


現実逃避してみたけど、状況は変わらない。

そうか。

やっぱり平凡な村娘に生まれたのか。

まあそれはそれでいいのかもね。

だって、婚約破棄とか断罪とか命を脅かすような事件には巻き込まれないもんね。


私は言いつけられた用事を終えたので、とことこと家へと帰る。

この世界での記憶もあるので、ちゃあんと家までの道も覚えてる。

兄弟姉妹はいなくて、一人っ子。

大工のお父さんと、仕立屋のお母さん。

兼業で農家もしてる。

小さな村だから大工って言っても、ほぼほぼ補修とかしか仕事がない。

お母さんも似たような感じ。

お店があるわけじゃなくて、家で繕い物をしてる。

晴着を仕立てたいだの、結婚式用の豪華な服が欲しいだの、そういう節目に活躍するのだ。

だから普段は糸を紡いだり、もっと大きな町で貰った刺繍の仕事をしたりしている。

子供達は案外自由。

遊び感覚で森の中のきのこや山菜や果実を取りに行ったり、男の子は狩りに行ったり。

ちゃんとした猟師さんもいるけどね。

あとは家の用事をする。

水汲みとかは井戸というか、水場があるからそこで汲んでくるし、薪を取りに行ったり。

洗濯は川でするんだけど、それはお母さん達の社交場なのでお任せ。

今日は、お母さんの仕立てた洋服を、町はずれのモーラさんに届けて来た。


「ただいまぁ」

「お帰りローズ。そろそろお婆ちゃんにお届け物して欲しいのよね。続けてで悪いけど行ってくれる?」

「いいよー」


別にやる事ないし。

貴族みたいに勉強とか礼儀作法マナーに追われないって楽だね!

生活は大変かもしれないけど、今のところ無問題。

毎日ご飯いっぱい食べられて幸せ。

特にお母さんの焼くパイはどれも絶品。

これ、町で売りに出したら絶対売れるって!

今度売りに行こうかな!?

涎を垂らしそうな顔してた多分。


「だめよ」


とお母さんに言われたから。


「あんたのはこっち」

「女神様~~!」


ちゃんと用意してくれてた!マジ女神!


大きめの編み籠(バスケット)に、お婆ちゃん用の食べ物や葡萄酒ワインを入れて、その上に私の分のパイも載せてくれる。

匂いだけで白飯いけそう。

そして、お母さんはフフフと含み笑いをしている。


「ちゃあんと用事をしてくれる良い子のあんたに、良い物作っちゃった~」

「え~なになに~?」


お母さんは後ろ手に持っていた赤い物を目の前にばーんと出した。

頭巾フード付きの外套ケープ


「ねー可愛いでしょー?」

「う、うん、か…かわいい」


思わずどもってしまった。

だってこれ赤ずきんやん。

赤い、頭巾だもの。

ねえ??!?


こ、これから狼に出会って、それでお婆ちゃん食べられてて、ええぇ???

このリアリティ溢れる肉体で、狼に食べられて生き残ってるとかある!??!?

分かんない、分かんないけど、助けに行かなきゃ。


「包丁も持って行っていい?」

「何でよ」


だって、武器が!必要なんだもん!!!


なんて言えない。

頭おかしい子になっちゃう。

それにほら、本当に赤ずきんの世界か分からないしね。


「パイとか切り分けるのに……?」

「じゃあ、この果物用の小刀ナイフでいい?」

「あ、うん」


無いよりはマシ。

本当はもっとこう……斧とかあったかな?


私がキョロキョロすると、お母さんは頭巾を勝手に装着し始めた。

顎の下でキュッとリボンを結ぶ。


「あらぁぁやっぱり似合うわ~~可愛いわ~~」

「あ、ありがとう……」


親にとはいえ、褒められるのは気恥ずかしい。

私はもじもじした。


「ふふふ。じゃあ遅くならない内に行ってらっしゃい」

「はあい。行ってきます」


本当はちょっとこの装備じゃ不安なんだけど。

欲を言えば日本刀位欲しかった。

でもそんなに切れ味良くてばっさりいけちゃったら、中のお婆ちゃんまで真っ二つになりそうだもんね。

刺し方も考えないとな。


なんて思いながらぽてぽて歩いていると、森に向かう門に辿り着く。

村とはいえ、獣や野盗対策に丸太の塀で村は囲まれているのだ。


「ローズちゃん、可愛いねー。お洒落してお婆ちゃんの所行くのかい?」

「そうなのー」

「暗くならない内に帰るんだよ」

「はあい」


顔見知りのおじさん達と挨拶を交わして、森へと入っていく。

お婆ちゃんの家までは一本道で迷う事は無い。

でも、話通りなら、狼さんが現れるんだよね?

獣の狼が現れたらそっこー逃げるけどな!?

二足歩行の狼とかいるんかな?

ファンタジーとはいえ、そこまで……うーん。

まあいいや、お花を摘むのがデフォだから、花畑に寄って行こう。

誘ってくる不審人物も狼もいないんだけど、一応。

何も無ければ何もないでいいし、私の頭がちょっとおかしいだけだし。


お花畑はちょっと道を逸れた所にあるんだけど、獣道は続いている。

木に囲まれた開けた場所に、色とりどりの花が咲いていて。


「わあ、綺麗」


本当に綺麗だった。

前にも来たことはあるけれど、記憶が戻ってから改めて見ても綺麗。

とりあえず、花を摘んでいると、背後から声がした。


「オイ」

「ヒィッ!?」


突然だったので、悲鳴を上げてしまって、振り向くと…狼が居た。

狼の獣人のロルフ君が。


「ああ、びっくりしたー」

「吃驚したのはこっちだ!」


最近越してきたばかりの獣人一家。

そうだった、この世界には獣人がいるんだった。

二足歩行の狼しか頭に浮かばなかったわ。

盲点、盲点。


「最近、森がキナ臭ぇから、あんまり奥に行くなよ」

「え?そうなの?」


改めてロルフ君を見て見ると、めっちゃ好みドンピシャです。

ありがとうございます。

神様、ありがとうございます!!

ピンと立った黒い耳と、浅黒い肌、眼は赤い。

思わず見惚れていると、気まずそうにロルフ君は踵を返した。


「じゃあな」

「ああっ!待って!」


私が純正赤ずきんじゃないからか!?

魅力50%減、当社比だからか!?

本物だったら接待してくれた?

とにかく待って、待ってつかあさい!!


「一緒に、ご飯食べない?」

「……俺なんかと居たら、仲間外れにされるぞ」


まあ、小さな村にありがちだけど、余所者には厳しい。

しかも獣人だから、ヒソヒソ言う人達はいる。


「言いたい人には言わせておけばいいんだよ。私は貴方と仲良くしたい」


服の上からでも分かるくらいに、しなやかな筋肉だし、めっちゃ好み。


「あわよくば結婚したい」

「ハァ!?」


思わず本音が出てた。

あっという間にロルフ君が真っ赤に染まる。


「頭おかしいだろ、お前」

「否定は出来ないです。突然すみませんでした……」


でも、立ち去るのは止めたようで、私の近くにどっかりと座った。

私は嬉しくていそいそと、編み籠(バスケット)の中を探って、包みを取り出す。


「こっちが林檎のパイ、こっちがお肉のパイ。お肉の方が好き?」

「いや、両方……」


何だか照れた様に言う姿がまたかっこかわいい。

あああ、ご飯頂けます。

写真撮りたい、カメラどうやって作ればいいんだ!?

今はとにかく網膜に焼き付けるしかない。

私は自分の分をロルフ君に渡して、お婆ちゃんの分から自分の分を切り分けた。

早速、小刀ナイフが役に立ったね。


「お母さんのパイは美味しいの」

「ふうん……うっま」


聞き流していた癖に、一口食べて信じられない様にこっちを見る。

はぁぁ、かっこいい。

結婚したい。


「でしょ?いつか作れるようになるからね」


そして、ロルフ君の胃袋を掴みに行くね。


「おう」


心の声に反応されたみたいで、もう結婚したつもりになれた。

はあ、幸せ。

でも、幸せな時間はあっという間に過ぎちゃうもの。

ていうか、ロルフ君が狼だとして、おばあちゃん先回りして食べるの無理くない?

寧ろ、違う意味でなら私を食べて欲しいんだけど。


「おい、一人で百面相すんな」

「あ、ごめん。ロルフ君、また二人でこうやってご飯食べてくれる?」

「……別に、いいけど」


首を傾げて聞いてみれば、そっぽを向きながらも了承してくれた。

他の村娘が偏見に凝り固まってる間に、先をいかせてもらいますわ!!

誰にも渡さんぞ!!

照れた顔もツンデレ風味も力いっぱい摂取して、私は離れがたいけれど花畑を後にする事にした。

何ならダッシュで行って帰ってきて、デートの続きがしたいくらいだ。


「じゃあ私、お婆ちゃんの家に届け物してくるね」

「気を付けろよ」


送り狼してくれてもいいんだけど、ロルフ君は村の方へと歩いて行った。

前世の記憶が無ければ、私も余所者……って遠巻きにしてたかもしれないけど、思い出して良かったしかない。

もう求婚プロポーズ済だしね。

無意識だけど。

森の奥まった場所へと歩いて行くと、道に人影がある。

狼さんじゃないけど、人間の悪い奴だ。

おっさん達がニヤニヤしているし、手には武器を持ってる。


「上物じゃねえか!」

「こいつは高く売れそうだぜ」


あああ、悪役の台詞だーー!

どうしよう、私の戦闘能力はゼロなのにぃ!


籠の中で小刀ナイフを握りしめながら、私は震える。

けれど、何処からか声がした。


「走れ!」


言われるまま、男達をすり抜けるようにお婆ちゃんの家に向かって走る。

捕まえようとした男達が悲鳴を上げた。

目の前に立射スタンディング射撃姿勢シューティングポジションのお婆ちゃんが、いたのだ。

背後の男は撃たれたのだろう。


「やれやれ、この森も物騒になってきたもんだねぇ」


いや、貴女が言いますか、お婆ちゃん。


「お、お婆ちゃん、それはなあに?」

「これかい?狙撃銃スナイパーライフルだよ」


そう……。

そうですか……。


私は半開きの扉の中から、家の中に入る。


「あいつら一旦は逃げたが、また来るだろうね。用心しておかないと」

「そ、そうだね。でも、お婆ちゃん、いつの間にそんな、ええと、銃なんて覚えたの?」

「昔、軍に居たことがあってね。鷹の目ジェーンとはあたしの事さ!」

「わあ……すごーい……」


いや、過去に色々あったにしても、あり過ぎでしょ!

猟師の出番奪ってない?!


「でも、猟師さん、居たよね?」

「ああ、そうだね。ニザムの奴を呼んでおくか。可愛い孫娘もいるからね」


お婆ちゃんは台所へと行くと、何やら通信機で連絡を取っている様子。

村には電話すらないのに、何でこんなにここだけハイテクなの!?


その時ドンドンッと扉がノックされた。


「ニザムにしては早すぎる。下がっていな、ローズ」


お婆ちゃんは私が欲していたような大きめの鉈みたいなのを背中に隠しながら、扉に近づいた。


「お、お婆ちゃん、それはなあに?」

「これはね、山刀マチェーテだよ。木を切るのにも人を切るのにも良い武器さ」


説明、ありがとうございます。

様式美をやらずには居られなかった。

それくらい私は混乱している。


扉を開ければ、そこにはロルフ君が居た。


「ロルフ君!どうしたの?帰ったかと思ってた」

「銃声がしたから、心配で……」


家の中に招き入れて、お婆ちゃんがそっと外の様子を窺いつつ扉を閉めた。


「おやおや、ローズの彼氏だったかい」

「まだだよ!お婆ちゃん。これから口説き落とすの!」


ロルフ君はまた真っ赤になってしまった。

でも、心配して駆け付けてくれたのは嬉しい。


「心配してくれてありがとう、ロルフ君。ロルフ君の言った通りだったよ。人さらいみたいな人達がいたの!」

「そうか。じゃあ村まで送って行く」

「いいや、今日は泊まりな。あいつらが何処に居るか分からないし、多勢に無勢だ」


鋭い眼でお婆ちゃんが言う。

ロルフ君も暫く考えた後で、頷いた。


「さあさあ、お茶でも飲もうかね」


お婆ちゃんは言いながら、編み籠(バスケット)からパイを取り出していく。

途中で少し食べてしまいましたすみません。

怒って山刀マチェーテでどつかれませんように。


けれど、パイの包みの下から箱みたいな物をお婆ちゃんが幾つも取り出している。


「お婆ちゃん、それはなあに?」

「ああ、これかい?これは弾薬だよ」


ああ、狙撃銃スナイパーライフルの……。


「こっちがニザムの分だね」

「お母さんが用意したの?」

「用意したのはデイジーだが、村の資金から出ているよ。村を守る守番の仕事さね」


え?

初耳なんですけど!?

お婆ちゃんそんな仕事するから森の中に家があったの!?


「カッコいい……」


えっ?

ロルフ君!?

ちょっとよそ見しないでくれますか?!

お母さんにパイ習うより先にお婆ちゃんに銃を習った方が良さそうだわ、これ!


お茶を飲んでいると、特徴的な音で扉がノックされて、お婆ちゃんがすっと立ち上がる。

扉を開ければ、ニザムさんが入って来た。


「よく来たね」

「久しぶり、ジェーン」


ハグ。

うんうん、仲良しさん。

からのキス。

ええええ!?

どゆこと!?

お婆ちゃんの方が二十歳は年上だよね!??!?


「お、お婆ちゃん?」

「ああ、ニザムかい?付き合っているんだよ」


まだ聞いていないけれど、察して答えてくれた。

二人はニコニコとしている。

まあ、うん。

そういう事もあるか。

お婆ちゃんが立射してた時の衝撃の方が大きいわ。


「お婆ちゃん、私にも戦い方を教えてくれる?」

「ああ、いいよ。まずは基本姿勢からだね」



そして、夜ご飯を四人で囲んだ後、私とロルフ君は屋根の上にいた。

初秋とはいえ、肌寒い。


「大丈夫か?怖かったら部屋に戻れ」

「大丈夫。私も戦う」


私は伏射プローンの体勢で答える。

ロルフ君は弓の方が得意だから、と横に弓を置いて座っていた。


「そうか。お前は強いな」

「ふふ。もっと強くなってロルフ君のことも守ってあげるからね」


闇の中で、ロルフ君の忍び笑いが聞こえた。

そして。


「来た。裏から五、正面七。俺は裏に回る」

「はい」


そこから先は無我夢中で覚えていない。

銃初心者の私の狙撃に巻き込まれないように、お婆ちゃんたちは白兵戦をしないで射撃のみで相手を倒していった。

私も何人か撃てたけど、仕留められたかは分からない。

手は震えるし、固まったまま動けなかった。

そっとお婆ちゃんが引き金から指を外してくれて、漸く終わったんだ、と安心したのは覚えてる。


死んだ人はそのまま森に埋めて、生き残りは捕まえて賞金に引き換えたそう。

それでまた、新しい武器や弾薬を買うんだって。


私はと言えば、ロルフ君と恋人になって、二人で守番見習いをしている。

ごり押した。

「パイの美味しいお母さんと、銃の上手いお婆ちゃんが付いてくるよ!」と言ったらOKしてくれた。

あれ?

私の魅力とか関係ないな!?

まあいいか。

二人揃って、お婆ちゃんの許で修行してる。

お婆ちゃんとニザムさんが嬉しそうに教えてくれて、お母さんとお父さんも応援してくれた。

ロルフ君の一家も、守番をしているお婆ちゃんと仲良しな事、私とロルフ君が付き合っている事、守番という大変な仕事を負う家族がいるという事で、村にも馴染んだみたい。

良かった、良かった。

滅茶苦茶幸せなんだけど、気になる事が一つだけある。

お婆ちゃんに勝手に決められた任務名コードネーム赤帽子レッドキャップ

そこはせめて頭巾フードにして欲しかった。

確かに赤いけどさ、レッドキャップって言われると、邪悪な精霊?怪物なんだよね。

自分の帽子を被害者の血で染めるのが至上の幸せ、って……。

私の頭巾、血で染めた訳じゃないんですよ?

発言権を得たら別名にして貰わなきゃ。

今はまだ蛆虫だからね!

まずは一流の狙撃手にならないと!

戦うおばあちゃんが書きたかった。反省も後悔もしていない。

赤頭巾はコードネームの通り白兵戦のプロになるのでは?という疑い……。

ーーーーー

戦うおばあちゃん好きな方多くて嬉しさで震えるひよこ。

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― 新着の感想 ―
赤い頭巾w 思ったよりバイオレンスだった。 サンタクロースみたい
鷹の目ジェーン、、、かっこいい。
読んでいて、おばあさんは脳内でドーラに変換されました(笑)。
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