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第7章 【演算チート、敗北】法則外の支配者に誘惑された悪役令嬢を、聖剣の力で命懸けで取り戻す


祠の中に静かな緊張感が満ちていた。




レナとクライヴは、目の前に立つゼフィールから目を離せずにいた。





闇から生まれたにもかかわらず、その容姿は完璧に美しく、レナの知るどの貴族よりも魅惑的だった。







クライヴは即座にレナの視界を遮るように一歩前に出た。






「無用の存在です。レナ様、下がってください」






ゼフィールはクライヴを見下ろし、冷たい笑みを浮かべた。





「やはり犬は吠えることしかできない。君は、彼女の法則さえ理解できないだろうに」







レナは二人の間に割って入った。






「ゼフィール、あなたの正体は何?『法則外』とは、具体的に何を指すの?」






レナは恐怖を隠し、科学者としての探究心を露わにした。






ゼフィールはクライヴを無視し、レナだけに語りかけた。





「私は君と同じ、この世界の歪みだ。君の演算は、分子と熱の運動を支配する物理の法則に特化している。だが、私は感情、記憶、そして呪いといった、魂の法則の具現化だ。君の光は、私を構成する要素を通り抜けるだけ」





ゼフィールは、レナの孤独な知性を称えるように微笑んだ。





「理解しているさ。君が誰にも心の内を見せないこと。君が男の愛を信じず、利用価値だけで人を見ることも」







レナは言葉を失った。






彼の言葉は、レナが最も隠したい前世からのトラウマを、正確に突き刺していた。









クライヴが、激しい嫉妬に駆られた目でゼフィールを睨みつけた。






「レナ様から離れろ!」






クライヴは音速の如き速さで剣を振り上げた。






聖剣は白銀の光を迸らせ、祠全体を聖なる法則の力で満たす。







「法則の外だろうと、霊的な存在には聖剣の力は通じる!」








ゼフィールは笑った。





その笑いが空間を震わせる。






「原始的で退屈だ!」






クライヴの剣が振り下ろされる直前、ゼフィールは手を上げ、漆黒の闇の鎖をクライヴの剣と胴体目掛けて放った。







カキン!






聖剣と闇の鎖がぶつかり、祠の壁が砕け散る。






クライヴは渾身の力で鎖を断ち切ったが、その反動で体が大きく吹き飛ばされ、レナの足元の壁に激しく叩きつけられた。







彼の口から鮮血が零れる。






ゼフィールはクライヴを一顧だにせず、レナに手を差し出した。






「レナ。道具は消耗品だ。私は違う。私は君の孤独を理解する、運命の伴侶だ。私と共に、永遠の法則を打ち立てよう。私が、君の孤独な頭脳の、唯一の安息所となる」







レナは、ゼフィールの圧倒的な力、そして心の奥底を見透かす言葉に、激しく動揺した。





彼の誘惑は、レナの研究への渇望と人間不信を同時に満たす、抗い難い罠だった。




(研究……永遠の真理……私はただ、すべてを解明したいだけ……彼と共にいれば、私の演算は、この世界のすべての法則を書き換えることができる……)







レナの理性が麻痺し、彼女の体がゼフィールの手に向かって一歩踏み出した。






その瞬間、血に染まり、膝をついていたはずのクライヴが、絶叫と共に立ち上がった。






彼の体から、白銀の光が、もはや制御できないほどの暴発的なエネルギーとなって噴き出した。





それは、聖剣の力というより、彼の命そのものを燃焼させているかのようだった。







「行かせるか!」






クライヴは自己の限界を超えた速度でゼフィールに肉薄した。






彼の剣が発する光は、祠の闇を完全に焼き払い、レナの瞳には、彼の顔には血管が浮き上がり、命を燃やすような凄絶な表情が刻まれていた。






「僕の愛は、お前の法則では支配できない!」






聖剣はゼフィールの胸を貫いた。





ズズズ……と、ゼフィールの体が空間そのものに否定されるような音を立てる。






「馬鹿な……その力は、聖剣の……真の力、だと……?」





ゼフィールは苦痛に顔を歪ませたが、次の瞬間、嘲笑に変わった。





「君の命を削るほどの力で、私を追い返すか。だが、君の命も、その光も、すぐに尽きる。そして、彼女は再び孤独になる」







ゼフィールは、貫かれた体を闇の粒子へと変え、霧散した。








彼の声だけが残った。







「いつでも歓迎する。孤独な女王」











静寂の中、クライヴは聖剣の柄に寄りかかるように立っていた。






全身から湯気が立ち上り、白銀の光はすぐに消えた。彼は今にも倒れそうだった。







レナは、崩れ落ちるクライヴの元へ駆け寄った。







「クライヴ!なぜ、そこまで無茶を……!」






レナは彼の胸元を強く掴んだ。






「なぜ、あなたは私を庇うの?演算が効かないと分かった瞬間、あなたは命を捨てた。あなたの行動は、あなたのロジック(生存法則)を完全に無効化している!あなたは、なぜそこまで忠実なの!?」







レナの瞳は、恐怖ではなく、初めて感じる喪失の危機と、自らの演算では解明できない真実を求める狂気的な光を宿していた。







クライヴは、レナの初めて見せる感情的な動揺に、自身の心の奥底にある秘密を打ち明けるべき時が来たことを悟った。





彼が柔和な仮面の下に隠し続けていた苦渋と決意が、一気に顔の表面に滲み出た。






(もう、隠しきれない。このままでは、彼女はあの法則外の魔物に奪われてしまう……)








「レナ様……それは、私の前世からの、定められた運命だからです」






クライヴは意を決し、レナの瞳を見つめ返した。








「私は、あなたを二度と失うわけにはいかない」





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