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最終章 【愛の法則の最終証明】「お断りします」〜王国の地位を蹴り、女王は騎士の腕の中の『揺るぎない真理』を選ぶ〜


アイリスが消滅し、戦場となった領主館の庭園に静寂が戻った。





レナはクライヴに抱きかかえられながら、呪縛から完全に解放されたエドワード王子たち数百人の男たちと対面した。





王子は深く頭を下げ、その表情には心からの後悔が滲んでいた。






「レナ様……我々はアイリスの呪いに操られていたとはいえ、あなたとクライヴ様にした仕打ちを深く恥じております」






王子は震える声で、レナに新たな提案をした。






「あなたはこのような辺境にいるべきお方ではない。もしよろしければ、どうか私と今度こそ結婚し、この国の王女になってください。我々はこの国を、あなたの知性で導いていただきたいのです」






レナは、クライヴの腕の中から静かに王子を見つめた。





その瞳には、もはや過去の冷たさも、計算もなかった。






「お断りします」






レナの答えは明確だった。






「私には、私が愛する民がいます。そして、私を心から支えてくれる愛する仲間がいます」






レナは、傍らに立つゼフィール、セーラ、ヘンリーに視線を送った。彼らは揺るぎない忠誠を瞳に宿してレナを見ていた。






そして、レナはクライヴと熱い視線を交わした。






「何より、私には、私が心から愛し、私を心から愛してくれる人がいます」






レナの「愛の法則の証明」は、王国の地位や権力よりも、ボルンラントの真実を選び取った。






王子は、レナの揺るぎない愛と意志を理解した。






「……わかりました。レナ・フォン・ヘルメス伯爵。あなたこそ、真の女王だ。これからもボルンラントとは、友好な関係をお願いします」






王子たちは、レナの神々しい姿を焼き付けながら、静かに去っていった。









数ヶ月後。






レナの法則の力と、領民全員の愛の献身により、荒廃した領地は驚異的な速度で再建された。






ボルンラントは、レナの「豊穣の法則」が結実した場所として、『エタクロ』の世界で一番美しく、最も豊かな領地へと変貌していた。






ゼフィールは、元の世界へ帰るための扉は開かれたと悟りながらも、この世界に留まることを決めた。






「フン、アイリスが消滅したことで、私の呪いは消えた。しかし、この世界は私が設計したシステムだ。最高の効率で世界を運用するには、私が必要だろう。それに、この世界にはマナという無限のエネルギーがある。あのつまらない現世よりも、私が『法則』を極めるには適している」





彼はそう(うそぶ)いたが、レナは、彼が行政官のセーラに複雑な『最適化の数式』を熱心に教えているのを知っていた。






セーラは、ゼフィールと研究室で過ごす時間が増えていた。






彼女が提出する行政報告書には、ゼフィールの知見による「システムの最適化」に関する数式が、以前よりも多く組み込まれていた。





レナとクライヴは、時折、研究室のドア越しに、ゼフィールがセーラに複雑な数式を説明し、セーラが真剣な表情で頷き返す光景を目撃した。




それは、口数は少ないながらも、「知性」と「信頼」という彼ららしい「静かな法則」で結ばれた、穏やかな甘い雰囲気を醸し出していた。








穏やかな日常。





午後の日差しが、明るい窓からレナの研究室に差し込み、柔らかな心地よい風が室内に入ってきた。





レナは、ゆったりとしたソファーで、再び研究に夢中になっていた。






書きかけの羊皮紙には、「愛の法則の新たな応用」というタイトルが記されている。





その時、リラックスした服装のクライヴが、マグカップを二つ持って入ってきた。






「飛鳥先輩、疲れたでしょ。甘いものでもどうですか?」






クライヴは、レナの好きなチョコレートと淹れたてのコーヒーをテーブルに置いた。






彼の絶対的な献身は、最強の騎士の法則であると同時に、自分だけに見せる子犬のような愛らしさだと知っている。





「ありがとう。佐伯君」






レナは微笑み、コーヒーを受け取る。






クライヴは、レナの隣にそっと腰掛け、躊躇なくレナの腰に手を回し、優しく抱きしめた。






「ちょっと休憩しませんか?」






クライヴが、レナの耳元に囁く。






彼の声は、戦闘時とは違う、佐伯亮としての甘い熱を帯びていた。





レナは、彼のこの低く甘い声が好きだと思う。





彼女は、彼の胸に顔をうずめると、彼の穏やかで温かい香りが好きだと気づく。






今まで、「法則」や「演算」以外の感情で心が満たされることはなかった。






レナは、胸いっぱいに広がる「彼のことが好きでたまらない」という満たされた感情に浸る。






(人を愛するって、こういうことだったんだわ)






レナは、彼の腕の中で、愛という名の法則が、自身の人生を最高の効率で満たしていることを知り、満ち足りた気持ちで目を閉じた。






「愛」こそが、レナ・フォン・ヘルメスが見つけ出した、この世界で最も美しく、最も揺るぎない真理の法則だった。



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