第29章 【真理の愛、世界再定義】「私の愛が、否定された!?」〜女王の究極法則が、ヒロインの呪いの成立条件を根源から破壊する〜
レナは、全身に領民たちの「献身と信頼の愛」を、そしてクライヴとゼフィールの「絶対的な愛とシステムの知識」を注ぎ込んだ。
その光景は、もはや戦闘ではなく、世界の法則を書き換える儀式だった。
「クライヴ! ゼフィール! 最後の演算を始めるわ!二人の力を、私の法則に、すべて注ぎなさい!」
クライヴはレナに触れず、ただその心に「愛の法則」の全エネルギーを解放した。
ゼフィールは、両手を広げ、「エタクロ」の世界のすべての構造を瞬時に解析し、そのシステムの欠陥(アイリスの力の根源)をレナに伝達した。
レナの銀色の輝きは、ついに白色の絶対的な光へと変貌した。
対するアイリスも、巨大な魔物の姿を最大化させ、すべての憎悪を凝縮した最後の攻撃を放った。
「――終焉技:ヒロインの呪詛」
それは、レナの存在そのものを、世界から無かったことにしようとする、原初の法則の歪みだった。
レナは、アイリスの究極の呪詛に対し、静かに、そして圧倒的な力で応えた。
「――法則極点:真理の愛、世界再定義」
レナの白い光が、アイリスの黒い呪詛に激突した瞬間、現象が起こったのではない。
法則が上書きされたのだ。
レナの「愛の法則」は、アイリスの「呪いの法則」を根源から解析し、その『成立条件』を破壊した。
アイリスの力の根源は、「皆の愛を奪い、独占することで生まれる力の増幅」にあった。
レナの『世界再定義』は、その成立条件を「愛は奪うものではなく、与えるものである」という新たな真理で置き換えた。
「あああああ!私の、私の愛が、否定された!?」
アイリスの魔物の体は、内側から急速に崩壊し始めた。
彼女の体に蓄積されていた無数の恨みと奪われた愛のエネルギーが、レナの「真理の愛の法則」によって強制的に解放され、世界へと還元されていった。
巨大な魔物の姿は、崩壊と共に元のアイリスの姿へと戻った。
彼女は地面に崩れ落ち、かつて愛したクライヴを見上げた。
「なぜ……私は、ヒロインなのに……愛されるべきなのに……」
「あなたは、愛を法則ではなく、呪いとして使った」
レナは静かに、しかし断固として言った。
「私の法則は、与える愛、信じる愛よ。あなたの法則は、世界に必要ない」
アイリスは、最後に一筋の涙を流し、そのまま光の粒子となって消滅した。
その光は、呪いという負の要素を失い、純粋なマナへと還元され、ボルンラントの豊穣の大地へと注ぎ込まれていった。
アイリスが完全に消滅した、その瞬間だった。
ゼフィールの漆黒のオーラが、一気に収束し、激しい光を放った。
彼の体が、呪いという法則外の縛りから解放されたのだ。
光が収まると、そこには以前のような半透明な存在ではなく、漆黒の髪と蒼い瞳を持つ、息をのむほど美しい青年が立っていた。
彼は、元の世界でエンジニアだった頃の、肉体を持った姿を取り戻したのだ。
ゼフィールは、その手で自身の顔を触れ、長年の呪いからの解放に、苦々しくも静かな笑みを浮かべた。
「……忌々しい。これでようやく、この世界から弾き出される準備ができたな」
激しい戦いが終わり、クライヴはレナを抱き寄せた。
レナは、力の解放による疲労で、そのままクライヴの胸にもたれかかった。
領民たちが歓喜の声を上げていた。
そして、呪縛から解けた数百人の男たちは、アイリスの醜態とレナの神々しい戦いぶりを鮮明に記憶した。
彼らが愛し、心酔していた偽りのヒロイン(アイリス)は、最も醜い姿で、そして最も屈辱的な方法(本物の愛と知性)によって敗北し、消滅した。
王子たちは、我に返り、自分たちが醜い化け物のために、どれほどの愚行を犯し、どれほどレナに侮辱を与えたかを理解し、慚愧の念に苛まれた。
彼らは、レナの神々しい美しさと圧倒的な力の前に、ただただ頭を下げることしかできなかった。
レナはすべてを奪い返し、裏切り者を断罪し、そして愛の女神という最高の称号を手に入れたのだ。




