第28章 【真のラブパワー】「美しい……あれこそが、真の女神だ!」〜女王は不確定性原理で憎悪を避け、愛の法則で法則を打ち砕く〜
クライヴの熱烈なキスによって「愛の法則」を完全に定着させ、真の愛の女神へと覚醒したレナ。
その銀色の輝きは、領主館の庭園全体を照らし出した。
対峙するのは、憎悪と恨みを吸収し、醜悪な魔物の姿へと変貌したアイリス。
彼女の体からは、「呪いという偽りの愛の法則」が、世界を歪ませるほどの黒いオーラとなって噴出していた。
「何をいちゃ付きやがって!許さない!許せない!」
アイリスの叫びは、もはや人の言葉ではない、純粋な憎悪の法則の具現化だった。
「アイリス。あなたの法則は、愛ではなく、ただの負の感情の蓄積よ。私の真の法則が、その歪みを正すわ」
レナの瞳は冷徹な科学者の光と、愛の女神の温かさを同時に宿していた。
戦いは、アイリスの先制攻撃で幕を開けた。
彼女は全身の憎悪を一点に凝縮し、レナめがけて黒い波動を放つ。
「――呪詛技:プライド・スクラップ(自尊心の破棄)」
それは、レナの自尊心と存在の法則を破壊しようとする、粘着質な波動だった。
「無駄よ。私の献身の法則は、揺るぎない絶対座標にある!」
レナは動かない。
その背後、結界の中で戦いを見守っていたのは、呪縛から解けつつある者たちだった。
王子たち、数百人の騎士や軍曹たちは、アイリスの醜悪な姿を見て、戦慄した。
「な、なんだあの醜いのは?」
「あれが、私たちが愛したアイリスだと?」
「何かの呪いだ……」
彼らの「アイリスへの愛」が、「嫌悪感」へと反転した瞬間、アイリスの力は一気に減衰した。
そして、その数多の男たちは、銀色に輝き、圧倒的な美しさと力で立ち向かうレナの姿を見た。
「美しい……あれこそが、真の女神だ!」
数百人の男たちの「愛のエネルギー(ラブパワー)」は、アイリスから引き剥がされ、レナへと一斉に注がれた。
レナの銀色の輝きは、太陽のように強大になった。
レナは、数百人の男たちと、領民、そしてクライヴとゼフィールの愛が乗った力で、最初の攻撃を迎え撃った。
「――法則技:運動量保存」
レナはアイリスの攻撃のエネルギーを完全に解析し、それを「力のベクトル」として捉えた。
アイリスの破壊の波動は、レナの掌でエネルギーの保存則に従って吸収され、そのまま逆ベクトルへと変換されてアイリスにぶち込まれた!
「ぐあああ!」
アイリスは自らの力で吹き飛び、庭園の木々を薙ぎ倒す。
アイリスは逆上し、地面に巨大な亀裂を入れる。
そこから、憎悪の法則が練り上げられた無数の闇の杭を放った。
「――呪詛技:エターナル・ジェラシー(永遠の嫉妬)」
杭はレナの全身を貫こうと殺到するが、レナの演算速度はそれを凌駕する。
「――法則技:不確定性原理」
レナの法則が、杭の位置と運動量の両方を確定させない「法則の揺らぎ」を生成した。
杭はレナの体を通り抜ける直前で存在確率がゼロになり、レナには触れられなかった。
戦いは激化し、領主館の庭園は法則の衝突によって、大地の崩壊と光の爆発を繰り返した。
レナは、愛の力を知性に変換し、次々と高次元の法則を攻撃へと昇華させる。
アイリスは、全身の肉塊をさらに巨大化させ、レナを憎悪の瞳で見つめた。
「まだだ!私は愛を否定しない!私はヒロインよ!私は世界に愛される!憎い憎い憎い!」
アイリスは、全身の呪いのエネルギーを限界まで高める。
レナの演算をもってしても、この一撃は致死的な法則の崩壊を引き起こすだろう。
レナは、クライヴ、ゼフィール、セーラ、ヘンリー、そしてすべての領民たちを見た。
彼らの愛のエネルギーが、レナの体に温かい力を与える。
「私の法則は、あなたたちの幸福のためにある。私は、絶対に諦めない!」
レナは、自身のすべての演算力を、「愛の法則」という新たなマナ回路に注ぎ込んだ。
彼女は、最強の法則を放つ準備を整える。
「クライヴ! ゼフィール! 最後の演算を始めるわ!二人の力を、私の法則に、すべて注ぎなさい!」
レナの銀色の光が頂点に達した。女と女の戦いは、いよいよ決着の時を迎える。




