第27章 【最終法則の覚醒】「私は、あなたを一番愛しています!」〜醜悪な魔物と化したヒロインを前に、魂のキスで女王が神聖な光を放つ〜
アシュヴァルツが消滅した戦場に、アイリス・ルクスブルクの甲高い絶叫が響き渡る。
「クライヴ様! アシュヴァルツまで! 私の愛の法則を否定するなんて、絶対に許さない!」
アイリスは、全身から禍々しいピンク色のマナを放ち、直接攻撃を仕掛けてきた。
クライヴは即座に聖剣を抜き、その攻撃を受け止める。
剣に纏わせた「献身の法則」がアイリスの攻撃と激しく衝突し、空間に火花を散らす。
「レナ! 奴の攻撃は、周囲の愛の法則をねじ曲げ、無作為な座標の崩壊を引き起こしている!」状況を観測していたゼフィールが解析する。
「愛をねじ曲げた、最も非効率な法則ね」
レナが冷徹に返す。
彼女はクライヴに、敵の攻撃座標を予測する演算結果を瞬時に伝達する。
攻撃が通じないと知ったアイリスは、激しい憎悪に身を任せた。
彼女の肉体が、忌まわしい音を立てて変形し始める。
白く輝いていたヒロインのドレスは黒ずみ、瞳は黄色く濁り、口元は裂け、その美貌は醜悪な憎悪を具現化したものへと変わった。
「姿を醜くしてまで? 私が、そんなに憎い?」
レナは、その変貌を冷静に見据えた。
「憎い!憎い憎い憎い!私の世界を奪い、佐伯君を奪い、私を唯一攻略できた最強の騎士まで奪った!飛鳥、貴女の法則すべてが憎い!」
(私は、ヒロインなのに!あの世界では誰も私の輝きを認めてくれなかった!誰も私を見てくれなかった!佐伯亮も!あの世界でヒロインの法則が使えない絶望……!この苦しみから逃れるには、世界の全てを私一人が承認する法則で支配するしかない!)
レナは、その憎悪の奥底にある「孤独なヒロインの絶叫」を冷静に解析した。
「あなたは、愛される法則に囚われすぎた。哀れね」
アイリスは、その圧倒的な憎悪の力で三人を攻撃した。
クライヴは、聖剣にレナの演算を乗せ、アイリスの変容する法則を『固定』しようと試みる。
アイリスの放つピンク色のマナは、クライヴの心臓に「飛鳥を裏切れば世界は元通りになる」という偽の法則を直接叩きつけたが、クライヴの『献身の法則』はそれを即座に弾き返した。
「僕の法則(献身)を、偽りの法則で打ち消すことはできない!」
クライヴはアイリスの攻撃をすべて無効化しながら、その聖剣でアイリスの変貌した肩を切り裂いた。
ダメージは浅かったが、その「かすり傷」から流れ出たのは、血ではなく、禍々しいピンク色の法則エネルギーだった。
(効いていないのではない。法則そのものへの攻撃は、彼女にとって致命的な恐怖だ!)
クライヴの攻撃が、アイリスの物理的な肉体ではなく、彼女の『ヒロインの法則』という根源を脅かしていることを、レナは瞬時に理解した。
苦戦の中、アイリスの変容は止まらない。
愛を貪り、そして裏切られた者の無数の恨みを吸い込み続けた結果、アイリスの姿はもはや人の形を留めない悍ましい魔物へと変貌した。
清純なヒロインなどではない、法則を弄んだ代償だった。
「飛鳥!憎い!憎い!憎い!」
アイリスの攻撃は、レナただ一人に集中する。
クライヴとゼフィールが援護しようと動く。
「手出ししないで!」
レナが叫び、二人を制した。
「これは、私とアイリスの法則の落とし前よ。あなたがたの力を借りるわけにはいかない」
その時、避難していたはずの領民たち、そしてセーラやヘンリーたちが、レナを取り囲むように戦場の境界に集まってきた。
「危ないから下がりなさい!あなたたちは私が愛する領民よ!」レナは彼らに下がるよう命じた。
しかし、領民たちはその場に留まり、叫んだ。
「レナ様を私たちは愛しています!」
「私たちの豊穣の法則は、レナ様が作った!」
領民たちの純粋な感謝と忠誠の法則(真の愛)が、一斉にレナへと注がれた。
レナの体が、一瞬、温かい光に包まれる。
それは、アイリスが奪い続けた「愛の力」とは違う、「献身と信頼」に基づいた真の愛のエネルギーだった。
ゼフィールは、その光景に目を細め、法則の美しさに感銘を受けた。
「わが女神よ!私もあなたを愛す!」
ゼフィールからの「システムの開発者としての承認(愛)」という、法則外のエネルギーが、レナの法則に加わる。
そして、クライヴが動いた。
彼はレナに駆け寄り、その体を抱きしめた。
「飛鳥先輩! 僕が、僕が誰よりも何よりもこの世界中で、この宇宙中で、この世で、あなたを一番愛しています!」
クライヴの絶対的な献身の法則が、レナの魂に直接注ぎ込まれた。
そして、クライヴはレナの唇に、魂の法則を完成させる熱烈なキスをした。
レナの顔は一瞬で真っ赤に染まったが、その羞恥と同時に、全身に絶対的な力の奔流が満ち溢れるのを感じた。
「何をいちゃ付きやがって!許せない!許せない!許せない!」
アイリスは、二人のキスと、レナに注がれる圧倒的な愛の法則の力に、ヒロインとしての法則が崩壊するのを感じた。
彼女の憎悪は最高潮に達し、その魔物の姿をさらに巨大化させた。
しかし、レナはもはや怯まなかった。
クライヴとのキスで、レナは愛という「感情」を、「絶対的な力の法則」として完全に定義し直した。
レナの体は、純粋な論理と真の愛が融合した、銀色の輝きを放ち始めた。
それは、真のエタクロの愛の女神(レナの法則)の降臨だった。
もはや純潔なヒロインではない、醜悪な化け物と化したアイリスと、愛と知性の法則を完成させたレナとの、法則の最終対決が、今、ボルンラントの地で始まろうとしていた。




