第24章 【この世界の法則を破壊する愛】「馬鹿な……無効化だと!?」〜真の愛の法則を具現化した最強騎士、時間の破壊を無効化する〜
クライヴはレナの手をとり、領主館の屋上へと向かった。
ゼフィールも彼に続き、そこから戦場の状況を把握し、リアルタイムで演算を行う態勢をとる。
「法則の定着を確認。君の力は今、世界の法則を上書きする力を持つ。だが、世間はそれを『イレギュラーな法則破壊の力』と見なし、恐れるだろう」
ゼフィールは忌々しげにクライヴを見据えたが、その目には研究者としての純粋な期待があった。
「飛鳥先輩、もう大丈夫です。僕が行きます」
レナはクライヴの頬に手を添え、静かに命じた。
「無理はしないで。あなたの命は、ボルンラントの、そして私の最も重要な変数よ。私たちはここから、あなたの力の本質的な演算と誘導を行うわ」
「僕の法則は、あなたへの永遠の献身以外、あり得ません」
クライヴはそう言って屋上から飛び降り、甲冑を纏わずとも絶対的な力を帯びた体で、庭園に広がる魔物の群れの中央に着地した。
彼の体が放つ「愛の法則」のエネルギーは、彼に敵意を向けるすべての魔物を、一瞬で純粋な光の粒子へと変える。
剣を振るう必要すらなく、ただそこに「存在した」だけで、周囲の魔物は恐怖に支配され、塵と消えた。
彼は、圧倒的な静けさの中で、結界の破られた地点に進んだ。
そこにいたのは、闇色の全身甲冑を纏い、巨大な翼を広げた異形の騎士――魔物の長アシュヴァルツだった。
彼の周囲の空間は歪み、領民の攻撃はすべて虚しく消滅していた。
アシュヴァルツはクライヴの出現に気づくと、巨大な剣を地面に突き立てた。
「貴様……この世界に存在しないはずの、異物だな」
アシュヴァルツの声は低く、世界そのものを否定するような孤高の法則を帯びていた。
クライヴは一歩も引かず、その瞳に「真なる愛の法則」の静かな輝きを宿らせた。
それは、闇を打ち払う太陽の光のような、威厳と確信に満ちた輝きだった。
「僕は、あなたと同じく法則外の力を持つ。だが、僕の法則は破壊ではない。献身だ」
アシュヴァルツは鼻で笑った。
「献身? お前は、悪役令嬢のために存在する、低次元な存在だ。だが、私の愛は違う」
彼は憎しみに満ちた孤高の瞳を向けた。
「私の孤高の法則は、誰も寄せ付けず、世界の理を護る。アイリス様への絶対的な献身(世界の愛)こそが、私を成立させる。貴様の愛は、世界を乱す邪悪な執着に過ぎん。私の前では、すべてが無に帰す!」
アシュヴァルツは巨大な剣を引き抜き、世界を切り裂く一撃をクライヴ目掛けて放った。
空間が割れ、純粋な破壊のエネルギーがクライヴに迫る。
世界が崩壊するかのような、絶望に見えた。
屋上からその攻撃を観測していたレナとゼフィールが、同時に声を上げた。
「ゼフィール、解析! 彼の法則は、献身を装った『純粋な破壊』を伴うエネルギーの具現化よ!」
レナが叫ぶ。
「逆位相の法則を注入しろ!『愛の法則』で、彼の破壊の法則を『過去の時間軸』に切り離せ!実行しろ、愛犬!」
ゼフィールが、憎しみを乗せた指示をクライヴの意識に叩き込む。
クライヴは剣を抜かなかった。
彼は、迫りくる破壊の法則に対し、ただ静かに一歩前に踏み出した。
彼の「献身」が、世界を護る、いかなる力にも揺るがない物理的な盾となったのだ。
クライヴの体を取り巻いたエネルギーは、アシュヴァルツの破壊の法則に触れた瞬間、レナの演算による「時間と空間の法則」を上書きした。
破壊のエネルギーは、クライヴの目前、わずか数センチの空間で、唐突に色彩を失う。
「クライヴの存在する時間軸から切り離され」、その攻撃が発動する以前の無意味な時間へと巻き戻されて消滅した。
クライヴの髪一本、衣服の皺一つ、そのすべてが無傷だった。
「馬鹿な……法則を、無効化しただと!?」
アシュヴァルツの孤高の表情が初めて歪んだ。
彼には理解できなかった。なぜ、自分たちが否定したはずの「低次元の愛」が、この世界の法則を上書きできたのか。
屋上でその光景を観測していたゼフィールは、歓喜と驚愕に満ちた声を上げた。
「レナ! 見ろ! 君の演算と私のイレギュラーな力が、あいつの『真の愛』を通して、世界のルールを護りながら、偽りの法則だけを破壊した! これこそが、真の愛の法則が完成させた、最強のイレギュラーだ!」
クライヴは、無傷のままアシュヴァルツの前に立っていた。
その瞳の輝きは、「真なる愛の法則」が、偽りの法則に勝利したことを証明していた。
それは、最強の騎士が、愛という絶対的な法則を以て、この世界の理を乱す偽りの法則を完全に破壊した瞬間だった。




