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第22章 【法則改変チート】「あと三日は稼げるはず!」〜ヒロインの法則は時間と移動速度を上書きし、最強の魔物を召喚する〜


研究室。





レナがクライヴの強化に取り掛かろうとした、その瞬間だった。






斥候からの報告は、レナの冷徹な計算を完全に裏切った。







「レナ様! 王子の軍がもうすぐそこまで!」







「馬鹿な!」






レナは驚愕を隠せなかった。






「私の演算では、天候操作と大所帯の移動速度を考慮し、あと三日は稼げると計算したはずだわ!」






ゼフィールは吐き捨てるように言った。






「言ったはずだ。あの女は『世界の法則を改変する力』を持っている。通常の移動速度というゲームの基本設定そのものを、彼女の愛の力(チート)で上書きしたのだろう」






レナは、領主館の屋根に駆け上がる。






双眼鏡を手に取り、領地の外を見る。






クライヴも隣に立ち、その光景に言葉を失った。







強固な結界を破ろうと、数百に及ぶ兵士たちが怒号を上げている。






その中心には、煌びやかな馬車に乗ったアイリスの姿があった。






レナが見たのは、あまりにも「ヒロインの法則」に忠実な光景だった。






エドワード王子を筆頭に、第二、第三、第四王子まで、攻略対象であるはずのすべての兄弟がアイリスの周りを固めている。






さらに大勢の軍曹、騎士たちも、皆アイリスに目を奪われ、骨抜きにされている。





その数は優に数百人を下らない。






彼らは、王都の規律と忠誠を完全に忘れ、ただただアイリスの涙と微笑みに従う、意思なき道具と化していた。








アイリスの煌びやかな馬車だけは、魔力によって揺れや疲労を完全に遮断する結界に護られ、優雅に停車していた。






しかし、その馬車を取り囲む兵士たちの顔は、極度の疲労と睡眠不足で、既に限界を超えていた。






「恐るべし、アイリス。その欲求の範囲の広さと、それを実現する能力には、ある意味感服するわ」





レナは冷徹に分析したが、その声には戦慄が滲んでいた。





「王子の軍は、私なら確実に設ける休息の法則を完全に無視し、アイリスの快適さという非合理的な法則だけを優先して移動した。その非効率的な法則こそが、彼女の力の証拠……そして、その最大の弱点だわ」






「全王子のデレと、これほど多くの男たちの『愛の法則』のベクトルが、ただ一人の女に集中しているなんて……」



クライヴは驚きを隠せない。







ゼフィールは顔を歪ませた。




「反吐が出る。アイリスは、自分のヒロインとしての法則を証明するためなら、世界のすべてを弄ぶ」







レナは即座に決断した。





「急いで佐伯君の強化を。結界が破られるまでに、まだ二日は稼げるはずよ」






三人は研究室に戻り、クライヴは特殊な演算用装置の前に座った。






レナとゼフィールが向き合い、能力の融合に必要なマナ回路の演算を開始する。






「佐伯君、四時間、動かないでじっとしていてね」






レナはクライヴの頬に一瞬のキスを落とした。





クライヴは一瞬赤面し動揺するが、すぐに顔を引き締めた。





「僕の献身の法則は揺るぎません、飛鳥先輩」






クライヴはそう答え、瞳を閉じた。






外からは、結界にぶつかる兵士たちの怒号と、魔力の衝突音が聞こえてくる。






レナとゼフィールは全神経を集中し、クライヴの魂に「システムの知識」と「高次の演算力」を融合させる作業に没頭した。









しかし、二時間が経過したその時、耳を劈くような警報と、ヘンリーの悲鳴が響き渡った!







「レナ様! 大変です! 結界が破られました!」






「どうして!?」






レナは即座に演算を中断した。






「分かりません! ですが、領地に魔物が大量に入り込んでいます! 王子の軍とは別の、法則外の敵です!」


セーラが焦燥した声で報告した。






レナはクライヴの肩を叩いた。






「佐伯君、絶対に動かないで。あなたの力が完成しなければ、すべてが水の泡になる」






レナはクライヴの頬にもう一度キスを刻み、踵を返して屋上へ向かった。






屋上から見下ろすと、レナは予期せぬ光景を目にした。







そこには、アイリスの姿はなく、先ほどまでアイリスを囲んでいた王子たち、騎士、軍曹たちが、異形の魔物たちに次々と襲われ、動けなくなっていたのだ。






「一体どういうこと……?」







レナは困惑し、研究室に戻ってゼフィールに状況を伝えた。






ゼフィールは、レナの報告を聞くと、苦々しく吐き捨てた。







「おそらく、王子たちでは結界を破れなかったことに腹を立てたアイリスが、チートの次の段階を実行したのだろうよ。彼女の愛の法則の力は、攻略対象の召喚にも及ぶ」






ゼフィールは続けた。





「ちなみに、『エタクロ』には、魔物の(カシラ)という攻略対象がいた。全キャラクターの中で最強だが、攻略にはラブレベル99を最高値まで突破しなければならない超レアキャラだ」






レナとクライヴは、ハッとして目を合わせた。






そうだ、あのゲームの最強キャラ。





自分たちが、レベル99に到達できず、その存在すら都市伝説だと思っていた、魔物の長。






ゼフィールが、その魔物の長の名前と、彼の法則を告げた。






「その魔物の長の名はアシュヴァルツ。『破壊と孤高の法則』を司る、この世界の現時点での最強の存在だ。アイリスは、愛の力を『最強の魔物のアシュヴァルツ』という名の『呪いの残滓』に変え、すべてを破壊しようとしている」






結界は破られた。





領地に侵入したのは、王子軍ではなく、アイリスの愛が生んだ、世界最強の魔物だった。





クライヴの強化は、まだ完了していない。


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