第２１章 【究極防御のボトルネック解析】「システムの裏側」を知る開発者と女王が共闘し、最強結界を光速で構築する
クライヴの強化計画が決まった瞬間から、領主館は極度の緊張と効率に支配された。
レナは即座に領地の保護演算と結界構築に着手した。
ゼフィールは、その「システムの開発者」としての知識を活かし、レナの演算のボトルネックとなる部分を瞬時に解析し、最適なマナ回路を提示した。
「ゼフィール、このマナの流れのショートカットは……極めて合理的だわ」レナの瞳が輝く。
「私の知識は、この世界の法則の裏側にある。君の演算と組み合わせれば、この程度の防御はすぐに完了する」
ゼフィールは傲岸不遜ながらも、その言葉には真実が伴っていた。
彼は、レナの圧倒的な演算能力に、純粋な知的な興奮を覚えていた。
その作業の合間、研究室にセーラが入ってきた。
彼女は冷静な頭脳を持つ共同検証者だが、今はどこか緊張していた。
「ゼフィール様」
セーラは深々と頭を下げた。
「この度は、レナ様とクライヴ様、そしてボルンラントのために、法則外の力をご提供いただき、心より感謝申し上げます」
セーラは、ゼフィールが持つ高次の法則の知識と、彼が抱える深い孤独を、レナの解析からある程度理解していた。
漆黒の髪と蒼い瞳を持つゼフィールの美しさは、肉体を失った存在であるにも関わらず、息をのむほどだった。
セーラは一瞬、その法則外の美にぽーっとしてしまい、すぐに理性を引き締めた。
「どうぞ、あなたの協力を、レナ様の計算だけでなく、ボルンラントの安定性のために尽力いただけないでしょうか」
セーラは、感情ではなく、領地の長期的な価値という、ゼフィールが理解できる言葉で協力を求めた。
ゼフィールは、この美しく誠実な女性の存在を初めて意識した。
彼の目の前にいるセーラには、愛理のような欺瞞や嫉妬がなく、純粋な功利性と献身があった。
ゼフィールは、セーラの誠実さにまんざらでもない様子で、小さく鼻を鳴らした。
「私の協力は、君たちの女王の演算を完成させるためだ。君の誠実さは評価するが、感傷は不要だ」
領民の避難は完了し、レナの演算とゼフィールの協力により、領地の周囲に強力な結界が張り巡らされた。
「完了。これなら王子の武力でも、最低でも丸二日は、時間を稼げる」
レナは疲労で額に汗を滲ませながらも、結界の最終演算を終えた。
その時、斥候からの急報が入る。
「レナ様！ 王子殿下の軍が、いよいよ領地へ向かっています。かなりの大所帯ですが、この領地まではあと二日から三日はかかるかと」
クライヴが安堵の息をついた。
「これで、ひとまず時間的優位が確保できた」
レナは頷いた。
「さらに、その間に天候の法則も改変したわ。王子の軍は道中で嵐に苛まれ、到着は予定より半日ほど遅れるでしょう。これで、合計で約三日間の安全な時間が得られた」
レナはクライヴを見た。
「クライヴ。結界と避難は完了した。いよいよ、あなたのイレギュラーな強化を始める。私の演算では、この融合プロセスは約4時間かかる。それが終わったら、残りの時間で、私はさらなる防衛法則の強化と、次の計画の演算を行えるわ。」
レナ、クライヴ、そしてゼフィール。
三人は、最終決戦の鍵となるクライヴの能力融合のため、静かに研究室の奥へと向かった。
不可欠な変数を護るためのレナの絶対的な法則と、ゼフィールのシステムの法則が、今、一つの器に注ぎ込まれようとしていた。
