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呪われ剣士と、浮いてる神官  作者: porori
首無しの騎士編
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06 リベラはあげない

 深夜。

 ひとり、またひとりと神官が敗走して村に戻ってきます。命までとられていないのは、彼らの力ゆえではなく、力の無さゆえでしょう。


 神官が村娘に傷の手当てを要求しているようです。僻村に新たな血をもたらす者は、疫病と呪いももたらす。あれでは戦いで受けた穢れが村に伝染してしまいます。

 騎士団や神官団が悪しきものをばらまいた例は枚挙に暇がありません。

 しかし何にしろ、これ以上村で様子を見ていても仕方がないでしょう。


「……行く?」

「はい」

 頷いて、マノリア様の少し後ろに続きます。墓地へ。

 浮いてしまわないようにと気をつけて歩き出したところで、マノリア様が手を握ってくださいました。


 またひとり、傷ついた若い神官とすれ違いました。進むわたくしたちを見る、信じられないものを見る目。そしてすがるような目。


「大丈夫」

 短くつぶやいて、マノリア様が腰の短剣を左手で抜き軽く払います。怯えた若い神官の右腕のあたり。


「蟲が……。ああ、助かった……」


 虫も蟲も、そんなものは初めからいません。ただ怖気が彼の心を蝕んでいるだけなのです。


 二人で墓地へと進んでいきます。道中には点々と松明が落ちています。神官が取り落としたものでしょう。

 そのうちの一本を拾い上げ、墓地の方向にかざしました。


「――――」

 たたずむ首無しの騎士。馬も甲冑もほとんど傷ついていないようです。


『約束通り、来ました』

 古代の言葉でわたくしは不死者に語りかけました。マノリア様にはわからない言葉です。


 ――約束が違う。と騎士は返してきます。


『違いません。昨日の約束通りです。獣人族の剣士を見逃すかわりに、明日の夜わたくしを捧げると言いました』


 ――軽すぎる。神の力が失われている。

 しわがれているようなひゅうひゅうと風が鳴るような耳障りな声。


『それでもわたくしはわたくしです』


 どうなろうとこの魔物が欲しかったものは手に入らない。

 魔物や悪魔は契約に縛られます。それが彼らがこの世界にいられる楔だから。なので裏をかけばいい。わたくしの得意とするところです。


 数秒、首無しの騎士は佇むばかりでした。吟遊詩人が見ていれば、騎士は怒っていると歌ったかもしれません。

 それでも最後には諦めたように甲冑の手を持ち上げ、伸ばし、わたくしを指差そうとします。


 すべて注いでしまった今のわたくしには何の意味もないというのに。


 一閃。

『――――』

 甲冑の腕が伸びきろうとしたところで切断されました。手首が断面になり黒い靄が吹き出します。


 もう一閃。今度は甲冑の肘から先がなくなって。

 更に一閃。甲冑の右腕が完全になくなって、騎士は馬上でバランスを崩します。

 マノリア様の剣の三閃が、甲冑の腕を繋いでいた呪いを切断したのです。


「リベラ!」

 マノリア様が手を差し出しています。わたくしは意図を悟って、手に持っていた松明を投げ渡しました。

 マノリア様が走りながら松明を受け取って流れるように跳躍します。そして空洞になった甲冑の右腕のなかに燃え盛るそれを押し込みました。


 不死の騎士は苦しげにもがきながら落馬します。襤褸のマントにも火が移り、やがて黒い靄ごと燃えるかのように甲冑全体が火に包まれました。


「リベラはあげない」

 マノリア様が構える短剣と長剣、両方に祝福の燐光が浮かび上がります。燃えながらもマノリア様を覆おうと伸びる黒い靄は、光に払われ無残に散っていく。


 炎と祝福に巻かれながら、マノリア様は騎士の腹部に長剣を差し込みます。深く確実に。ゆっくりと。

 影ごと縫い付けるほどに貫通させた剣を、マノリア様が全身を使った回転で振り抜いて――。


 両断。

 不死の騎士は胴で真っ二つにされて動かなくなりました。


 数秒して、マノリア様が振り返ります。

 勝利を確信した表情で――でもすぐに慌てたようにぽかんと口を開けて、駆け寄ってきました。


「リベラ、浮いてる!」

「きゃ」


 膝を抱きかかえられ、地面まで下ろされました。どうやらいつの間にかかなり俯瞰してしまっていたようです。


 しっかり地に足の裏をつけられるよう、マノリア様が肩を軽く押さえてくれています。

「勝ったよ」

「ええ」

「……ありがとう。祝福のおかげ」

「いいえ。マノリア様の実力です」


 少し不満そうにマノリア様が上目遣いでわたくしの顔を見ています。ヴェールをしていて良かったと思いました。

「体があたたかい。多分リベラからもらった祝福がまだまだ残ってる」

「はい。ですからそれがマノリア様の実力――」

「……どうやって返したらいい?」


 真剣な瞳にわたくしは笑ってしまいそうになりました。やはりヴェールをしていて良かったです。


「手をつないでいてください」

「わかった」

「二日ほどすれば浮いてしまうことはなくなります」

「その間、私から離れないで」

「はい」


 見上げてくる瞳は真剣そのものです。

 じっと見つめていると、その瞳にやがて朝陽の朱色が映りました。


 戦いの火照り高ぶりか、あるいはまだ強く祝福が残っているせいか、朝陽に照らされた瞳は思ったより潤んでいました。

 暗視のために開いていた紫の瞳孔が、閉じて薄い黒に戻るさまを眺めます。

 長い時間。勝利の余韻とともに。

「村に帰りましょう」

「あ……うん。ごめん。ちょっとぼうっとして。綺麗で」

「ええ。今日は晴れですね」


 手を繋いでわたくしたちは来た道を戻りました。


「格好良かったですよ」

「リベラも」

「わたくしは何もしてないです」

「うそ。それくらいわかる」


 もっともっと信頼してもらう必要があるようです。たとえ意味などなくとも。


「昼まで眠りましょうか」

「うん。村が落ち着くまでそれくらいの時間はかかりそうだね」

「浮いてしまわないように、腕を絡めていただけますか」

「抱きしめたほうがいい?」

「……いえ、そこまでは」


 表は裏の裏であることを、マノリア様の言動でときどき意識します。

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