05 祝福を
昼過ぎには街の神官団を迎える祭が始まり、村が喧騒に満たされていきます。居心地は少し悪くなりました。しかしわたくしたちのような余所者を置いてくれるだけでも寛容な村でしょう。
村はずれの空き家。
わたくしとマノリア様は何をするでもなく外の喧騒を聞いています。
「にぎやかだね」
「ええ」
窓からは、壮年の男の神官が、村の若い娘の手をとって踊っているのが見えました。相当に浮かれているようです。
二人でその様子を眺めます。
「生臭坊主だ」
「ええ」
しかし、とわたくしは言葉を続けました。
「新しい血を入れることも僻村には必要ですから」
何気なく言ったつもりでしたが、マノリア様は少しばつが悪そうでした。
巡礼の騎士団や神官団は貴重な人の資源であることは疑いようがないのに。
マノリア様はカーテンを閉じてからベッドのふちに座り直しました。
「この調子だと夜になる」
「ええ」
「彼らはそれから墓地に出かけるつもり?」
「恐らくは」
同じくベッドのふち、隣に座りました。二人分の重みでベッドが軋みます。
首を動かすと、すぐ横にマノリア様のお顔があります。物憂げに伏せた目のまつ毛は長く、鼻梁の線も通っています。
「……どうしようもないか」
「はい」
夜にあの不死者と相対する危険性について考えているのでしょう。
「わたくしたちに全てができるわけではありませんから」
「うん」
マノリア様の手に自分の手を重ねます。少しだけ不意打ちするように。
「……あ」
「?」
「なんでもない」
マノリア様は勘違いしていらっしゃるようですが、昼間は手に触れられたから驚いてしまったわけではありません。その証拠にこうして自分から触れることはできます。
「祝福を」
「祝福?」
「準備しておきましょう。夜に何かあったときのために」
そもそも手を触れるなど全然何でもない、自然なことだと思います。ではなぜ昼間は高い声を出してしまったのかというと、それは自分でもわからなくなるわけですが。
「何か……うん。そうだね」
「この手に呪いを断ち切る力を」
わたくしはいくつかの聖句をつぶやいてから、マノリア様の手の甲に口づけました。
「…………」
ぴくりと手が震えます。唇にじかに肌を感じます。
「……手が熱くなった」
「はい。呪いと不浄に抗する祝福です。これであの呪いにたかられても剣を取り落とすことはないでしょう」
「ありがとう」
マノリア様はまじまじと祝福のかかった己の手を見つめ、掲げて見せ、それから――またわたくしの手に触れました。
「きゃ」
「熱い……よね?」
「……ええ。祝福にはその効果が確かにあります」
また高い声が漏れて勘違いさせてしまったかもしれませんが、別に驚いているわけではありません。自然に声が出てしまうだけです。
「これから夜まで、できるだけ多くの祝福を施します」
「うん」
「不死の魔物に対抗するためには、神の奇跡が多く必要ですから」
「……わかった」
「わたくしのありったけの力を――」
リベラからあなたへ。
「――注ぎます」
ベッドの上、隣同士で腰掛けたまま、上半身は向かい合うようにして額と額を合わせます。
聖句をつぶやき注いでいく。わたくしを通して。奇跡の力を。
まつ毛とまつ毛が触れるのを初めて感じました。
「……あのね。リベラ。本当は悔しかった」
「ええ」
「追い払うだけじゃない。きっと勝つから」
「存じております」
火を抱くようにマノリア様の肩を抱きました。
奇跡を注ぎすぎて次第にわたくしの体は軽くなっていきます。神に仕えるために現世の魂の比重が小さくなってしまうのです。
「待って」
けれど今は抱き止めてくれる人がいます。
細い首筋に頭を埋めるとひどく落ち着きました。また勘違いされてしまうかもしれませんが、浮いてしまわないためには体を寄せ合うほうが良いというだけのことです。
「あつい」
寓話のウサギのように火に飛び込みます。旅人の役に立てるように。




