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呪われ剣士と、浮いてる神官  作者: porori
首無しの騎士編
3/51

03 浮いてる神官

 かばったといっても何てことはない。私があの不死者に対して何かできたわけではないし、ただそこにいただけだ。


 リベラはあの虫たちを操る邪法に対抗するすべを知っていて、私は余計なことをしただけなのかもしれない。


「寝床を貸してくださるそうです」

「うん。こっちも同じ感じ。村の人は困ってて、歓迎してくれるみたい」

「はい」


 墓地の近くの村を訪れ、私とリベラは手分けして事情を聴いて回った。数ヶ月前からあの不死者の騎士の魔物が現れ、墓地を荒らしていたらしい。

 次は誰かが“指を差されて”連れていかれるかもしれない。戦々恐々として冒険者や神殿の庇護を求め、近々やっと神官団が派遣されることになっているとか。


 日が暮れて、貸してもらった村の空き家の一室。

 リベラと一緒に寝泊まりすることになった。


「……」

 小さくため息をついた。


「気分が優れませんか」

「ううん。そういうわけじゃない」

「しかし……」


 リベラがヴェール越しの視線を少し動かす。私を見るのではなく、私の後方を見るように。


「尻尾が下がっているようです」

「あ。これは」


 獣人族の特徴を指摘されて私は少し狼狽えた。


「ふさふさの立派な尻尾ですね」

「オオカミだから」


 この状況で誇るように言っても虚勢にしか思えないかもしれない。でも私がオオカミの氏族なのは本当だ。尻尾と耳は人間のものとは違う。夜目も効く。


 リベラがひとつしかないベッドのふちに座る。ちゃんと確かめたことはないけれど、人間は尻尾をほとんど持たないはずだ。座るときに気を遣わないで良いのは少しうらやましい。


 私は、同じくひとつしかない文机の椅子に逆向きに腰かけた。背もたれに腕と顎を乗せる。


「……正直ほっとしてる」

「はい」

「私じゃあの魔物と戦えないから」

「わたくしが剣に祝福を施せば」

「勝てるかな」

「きっと」

「そうだね……。街から神官団が来るまで、追い払うくらいなら」


 気分を奮い立たせようとしても尻尾は上がらなかった。椅子から垂れ下がってしまっている。

 虫が肌を這う感触が残っている。今晩の夢見は悪そうだ。


 私の考えていることが伝わったのだろうか。

「肌に痕が残っていないか、診ましょうか」

「大丈夫。すぐ治ると思うし」

 リベラの提案に私は首を振った。


「そうですね。今晩のところは。明日の朝にまた診ましょう」

「……わかった」

 断ったはずなのに微妙に言い包められたような気分になる。


「今晩はもう、アイツは来ないのかな」

「わたくしたちが居るのを知っていますから。来ないでしょう」

「じゃあ……、眠っていいのかな」

「ええ。お疲れでしょう」


 ベッドはひとつしかない。だから初めからリベラに譲るつもりだった。

「私は床で」

「いえ」

「そういうわけには。私のほうが野宿には慣れ――」


 言いかけたところでリベラが制す。

「ご覧ください、マノリア様」

「うん?」

「わたくしは体質でその……。このように浮いてしまうことがあって」

「え?」


 ベッドに腰掛けているリベラ。

 いや――よく見ると腰掛けていない。


 体は座っている形になっているのだが、その足とお尻は少しだけ浮いていた。

「浮いて……え?」

「旅と風の神の祝福で、無意識のうちに。このように」

「わ、わ――」


 リベラが言うと、その体は更に浮かぶ。座った姿勢のまま少しだけ傾いて、もう完全に宙に浮いて漂っていた。まるで体から重さがなくなったみたいだ。

「待って、天井に頭ぶつけるよ」

「では下に引っ張ってください」

「触れても大丈夫なの? っと」


 足首を掴んで引っ張ると痛いかもしれない。なので膝あたりを深く抱いて徐々に力をこめる。

 すると少しの抵抗の後、リベラの体がゆっくりと降りてきた。私は膝を抱きかかえたまま、慎重にリベラをベッドに座らせた。


「びっくりした。どうなってるの?」

「今日は神の奇跡をたくさん使ったせいでしょう。魂が軽くなってしまうのです」

「……? ……??」


 何のことだかわからない。けれどリベラのお尻はまた微妙に浮き始めている。奇跡と信仰のせいなのだろうか。


「寝てる間に浮いてしまうと、困りますから」

「そう、だね。確かに」


 怖くなってきた。とりあえず私は窓を閉めた。それから部屋の扉も確認してベッドの前に戻る。

 やっぱりリベラはちょっと浮いてる。

 神官の人は何人か見かけたことがあるけれど、浮いてる人はもちろん初めてだ。


「申し訳ありませんが、マノリア様」

「うん」

「夜中にわたくしが浮いていたら、戻してください」

「わかっ、た」

「ベッドは少々狭いですが……。わたくしの隣に。……来て」


 リベラがヴェールと首巻きを外してベッドの壁際に寝転がる。やっぱり少し浮いてる。

「上から毛布かけてても寒いね。隙間が」

「ええ」

 なんだかよくわからないまま私もリベラの隣に寝転がった。


「腰か肩に手をかけて重しにしてもらえると助かります」

「そっか。うん」

 言われた通りに、腰のあたりに腕を乗せて見る。すると少し浮いていたリベラの体がベッドに沈み込んだ。

 なるほど。すごい。何もかもよくわからないけれど。なんで浮くんだろう。神様の奇跡は不思議だ。


「このまま朝まで。重しをしていただけると」

「寝入ったら腕をどけちゃうかもしれないけど、努力はする」

「ありがとう存じます」


 目の前でリベラがまぶたを閉じた。あ、もう寝る感じなんだ、と思う。確かに蝋燭の火はもうすぐ消えるだろう。

 ヴェールを外した顔をまじまじと見る。よく考えたら顔と顔がかなり近い。

 まつ毛が長いなと思った。触れている腰は細くて柔らかくて暖かい。


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