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呪われ剣士と、浮いてる神官  作者: porori
無意味なくちづけ編
22/51

21 よく思われたい

「マノリア様、お口を開けていただけますか」

「どうして」


 私の正面に立っているリベラ。手には焼き立てのパンをちぎったもの。


「あーん……」

「しないよ」

「残念です」


 また少し寝入ってしまって昼下がり。リベラによると、回復の奇跡は受け取るほうも疲れるものらしい。体の治癒力を無理やり引き出してしまうから。


 きゅううぅぅ、とおなかが鳴った。

 ……眠気もだけど空腹もすごい。


 白身魚のサンドを受け取った。窓際に椅子を移動させて外を見ながら食べる。お腹の音が盛大過ぎて恥ずかしかった。


 正面にある通りと、酒場の入口が見える。何だかジャラジャラした格好で高い帽子の神官が酒場に入っていくのが見えた。


「珍しい格好の方がいましたね」

 リベラも椅子を持ってきて隣に座った。今は浮いてない。

 考えてみれば祝福を受け取るとリベラは軽くなるのに私は重くならないのが不思議だ。


 ……それとも本当は重くなっているんだろうか?

 ぺたぺたと自分の体を触って確かめてみる。変化は無さそう。少しほっとした。


「…………」

 ついでに左腕にも触れる。握りながら動かしてみる。もう痛みもほとんど無い。

 パンを咀嚼しながら立ち上がって短剣を手にとる。握ってもなんともない。

 短剣だけ腰に差して口元を親指で拭った。


「お行儀が悪いですよ」

「……わかった。ごめん」


 リベラの隣に座り直して、食べているところをなんとなく見る。

 ひと口が小さい。


 私も見られてるのを感じて――。

 ――パンにかぶりつくのではなくちぎって食べるようにする。

 ……肘掛けで頬杖をつくのも、椅子の上で膝を立てるのもやめておく。


「リベラはすごい神官だよね」

「マノリア様がそう感じるなら、わたくしも嬉しいです」

「尊敬してる」

「ありがとう存じます」

 今なんて視線だけで動かされちゃったし。


「でも、あの……。リベラは私といて、大丈夫?」

「……?」

「私には悪いところがある……と思う」


 こうして体が万全の状態になってきちんと向き合っていると落ち着かない。

 魂の欠け、リベラはそう言っていた。私も何か足らない感覚はずっとあった。それは神官のリベラにとって良くないものなのでは。例えば行儀の悪さなんかよりずっと。


「神はわたくしたちを否定していませんよ」

「そうなのかな……」


「それに――わたくしは悪い神官ですから」

 冗談めかして言う。

「ぷ……、ふふ。ありがとう」

 でもその一言が何より嬉しかった。

 

 ほっとして尻尾が動いてしまう。

 左手で付け根を押さえた。


 珍しくリベラの視線が動く。私の尻尾を見ている。

「どうしたの」

「いえ……」


「あ。尻尾、さわりたい?」

「……え。そう、ですね。ええ……」


 大怪我をした戦闘から丸一日以上が経って、治癒の奇跡をたっぷりともらった。その間に余剰の治癒力が働いたのか、尻尾の毛並みが良くなっている気がする。


「どうぞ」

「は……はい」

 リベラがたじろいでいる雰囲気なのが珍しいし面白い。椅子を並べて座ってるから、膝の上に尻尾を乗せてあげるのは簡単だ。


 パサ、と毛並みと布地が触れ合う音。

 尻尾にリベラの膝のあたたかさを感じた。


「髪の毛と同じ。外側は黒いけど、内は白いよ」

「そうなのですね」

 実はけっこう自慢の尻尾だ。髪の毛が長くて綺麗な人がひそかに自慢に思っているのと一緒だと思う。大きな尻尾は狼の特徴のひとつだし。


 軽く左右に動かしてみる。リベラの膝が半分以上隠れる大きさ。

「く、くすぐったく存じます」

「ごめん」


 少し考える。

 こんなふうに尻尾ならいくらでも見せてもいい。リベラには無いもので、人とは違うところだけど。さわるのだってリベラならいくらでも構わない。


 だけどあの悪夢が思い出させた、私の魂の欠け。あれは隠したい。

 弱さというのは傷ついてるところじゃない。人から隠したいと思うところだ。まだそこにさわられる覚悟はできていない。


「ね、パンはまだある?」

「…………」

「リベラ?」

「あ、申し訳ありません。何でしょう」

 リベラが尻尾をかきわけて指を埋めていた。


「ううん、何でもない」

 窓際に頬杖をついて外を見るふりをした。尻尾はリベラの膝に乗せたまま。


 撫でられる感触。おずおずと。

 細い指が悪くない心地よさだから、しばらく好きにさせておこうと思う。


 午後の光。眠くなる。

 階下の人通りは絶えない。酒場は昼間からかなり賑わっているみたいだ。生まれ育った場所のせいか、そろそろ静かな森を歩きたいと思った。


「リベラの神様は、旅の神様なんだっけ」

「……そうですね」

 返事が少し遅かった。細い指が動いていてくすぐったい。


「良いね。好き」


 まだリベラには出会ったばかりだ。よく思われたいという気持ちはあったと思う。だから隠したいところを意識した。

 でも今は、よく思われたいから長所を知ってほしい。剣よりも、尻尾みたいな。

 私のいいところを知ってほしいと思う気持ちは間違ってないはず。多分。


「リベラのことももっと知りたい」

「ええ――」

「どんなところが好きなの?」

「それは……ええっと」


「ひゃ!?」

 強く握られた感触が急に尻尾の付け根に伝わった。

「あれ、どうなさいましたか」


「尻尾をぎゅってするから……」

「――ごめんなさい。気が付かないうちに」


 尻尾をさわり始めてからリベラの受け答えが少しおかしい。

「話、聞いてた? リベラのこともっと知りたくて」

 さすがに体を起こしてリベラのほうに向き直った。じっと目を見る。


「だからリベラの神様のことも知りたい。教えのどんなところが好きなの?」

「…………」


 咳払い。そして深呼吸。

 

 そうですね。好きとか嫌いではなく――、と落ち着いた調子でリベラのお説教が始まった。


 リベラのお説教も聖句も、私には半分も意味はわからないけれど、声を聞くのは嫌いじゃない。


 椅子の上であぐらをかいた。尻尾は戯れに動かしてリベラの膝を撫でる。


 これからの旅のことを考えながら。

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