救助屋ジョーの異世界㊉救助記録
とある国のとある町にあるギルドの昼下がり…騒がしいギルドの受付付近では日々様々な冒険者が集まる、冒険者とは依頼という形で雑用から危険なモンスターの討伐までするなんでも屋の側面がありそんな彼らは不安定ながら依頼の報酬で生活費を稼いでいた。
そんなギルドの建物の1階には飲み食いが可能な場所が設けられており依頼に向かう前に英気を養う者や依頼から帰還した冒険者がそこに寄って成功を喜び騒ぐ場所でもある、そんな場所ではいつものように騒いでいる冒険者が多い中で隅の席で酒ではなく水をチビチビと飲む2人組がいた。
その2人組を見かけた1人の冒険者がほろ酔いの状態でその2人へと話しかけに行く。
「おいジョー!Qちゃん!そんなところでまーた待機してんのかよ!」
「…悪いか?」
「悪かねぇけどよぉ、俺達が無事帰って来た飲みの席なんだからお前らも祝ってくれよ?」
「いいですネー!ミーも楽しみたいデース!」
「お前の世界では未成年は酒は飲めないんじゃなかったか、Q」
「うっ!何故それをおぼえてるのデスカ!」
「ははは!相変わらず仲がいいな!」
冒険者が話しかけた2人組…1人は茶髪の高身長な男、おっさんとも言える男の頬に大きな傷があり着込んだ服装と様々な道具が入れられた鞄を足元に置いてあり今から仕事に行くような格好をしている。
そしてもう1人も同じように着込んだ服だが男と違って長い黒髪をポニーテールにし眩しいほどの笑顔は他の冒険者を魅了する程の美貌をしていた、変な喋り方がそれらを近づかせないが…
そんな2人組、ジョーとQと呼ばれた2人は水を飲みつつも何かを待っているかのようにジッと受付の方を見ており冒険者はそれを見てため息をつく。
「おいおい、まるで死体を食い漁るシルエナみたいな顔になってるぜ?ジョー」
「即断即救、それが俺の信条だ…それが出来ないようじゃ救助屋はやってけない」
「って言ってもどれだけ救助ビーコンに早く気づいても遠ければ手遅れな事が多いじゃねぇか、お前も知ってるだろ?死体回収屋って呼ばれてるのよ」
「まぁギルドが依頼を受ける時に渡す救助ビーコンが起動するのはボタン押すか死んだ時ですからネー…普通なら手遅れになるデース」
「…辿り着くまでは分からんだろう、急いでいけばまだ生きてるかもしれない…そいつが諦めない限り俺も諦めない」
「……はッ…ジョーみたいな救助屋がいたら俺も最後の希望があるって戦えるもんさ、すまんな変に絡んでよ」
「いやいい、だが確かにQの言う通り難しい場合も…」
冒険者とジョー達が話しているその瞬間…ギルド内に響き渡る程の耳に残る甲高い音が響く、それはギルド受付に置かれている救助ビーコンという依頼を受けた冒険者に渡される物が起動したという音。
それを聞いた瞬間、ジョーとQは即座に立ち上がりジョーは受付の方へと走り出し受付のカウンターに張り付くように前のめりで受付のギルド職員に詰め寄る。
「何処だ!」
「南西にある草原地帯です!グレボアの討伐に最近町に来た4人のC級冒険者が!」
「すぐ向かう!Q!」
「はい!もう馬は用意してマース!」
「お、おいジョー!」
手馴れた動きで受付のギルド職員は依頼の紙をジョー渡しギルドの外には既にQが馬と荷車を用意していた、紙の内容を確認したジョーはスグに席に置いていた荷物を取り外に出ようとした瞬間…さっきまで話していた冒険者が止める。
「気をつけろよ!」
「…あぁ、行ってくる…行くぞQ!」
「はいデース!」
ふっ…と笑みを見せジョーは外に出て荷物を荷車に乗せてQが乗ったを確認して馬を走らせる、目指すは救助ビーコンで救助を呼んだ冒険者の元へと。
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息を潜めながら1人の冒険者の男がそっと小さな穴から顔を出して周囲を見る…周囲は草原が広がっており夕日が見え始めたぐらいしか目新しいものが見えず男は泣きそうになりながら何かの生き物の巣だった穴へと戻っていく。
人が入るようには作られてない小さな小さな穴では身動きも難しく窮屈な思いをしながら何故こうなってしまったのか…男は頭を抱えてしまう。
「くそぉ…やっぱり入念に調べるべきだったんだよ…相手の方が長く住んでる場所で何も知らない俺達が勝てるわけないのに…」
夢を見て冒険者になって順調に力を付けてきた男と3人の仲間達、SからEまであるランクで中堅とも言えるCランクになって新たな町で次のステップへと行こうと焦り過ぎた結果が現状である。
仲間とははぐれ討伐対象から逃げ息を殺して身を潜めている…ギルドから渡された救助ビーコンという小さなボタンが付いている手のひらサイズの物、それを押してから数時間…もう限界が来ていた。
「も、もしかしたらもう居ないかもしれない」
隠れるだけの時間が恐怖が彼の背中を押す。
「そうだ、もう興味を失って…今なら逃げれるかも…」
確証はない…だが狭い穴の中にずっといる事によるストレスが限界を迎え男は這いずって穴の外を目指す、夕日があるうちに外に出て…そして…そして…
「ぎゃぁああああああああああああ!!!!」
「あ!いたいた!居ましたよジョーサーン!」
突如、穴から顔を出した瞬間に上から人の顔が逆さに現れ男は悲鳴を上げてしまう。
心臓が破裂しそうになりながら男は突然現れた女を見ていると遠くから走ってくる音が聞こえ音がした方を見るとデカいおっさんが全力で走ってきているのが目に入ってくる。
「ぎゃぁああああああああああ!!!」
「何故叫ぶ…?」
「ジョーさんが怖いからデース」
「何…?………覆面するか」
「そっちも怖いデース」
「あ、あんたら…もしかして救助屋か!?」
何処からか取り出した布で顔隠したりしてる2人組を見て男は思い出す、依頼を受けた町には何処でもすぐに助けに来る救助屋がいると…
男が聞くとジョーとQは頷く。
「その通りだ、怪我はあるか?」
「あ、足が少しやられてる…」
「そうか、他の3人は?お前達は4人パーティーだろう?」
「…ほ…他の3人は…多分…」
「……………そうか………すまん…もっと早く来れれば…」
「……あんた…」
「…ひとまずお前だけでも生きていて良かった、ひとまず穴から出すぞ…いいか?」
「あ、あぁ…」
救助屋、その名の通り救助を生業としている者達だが男はここまで救助者を想いもう生きてないであろう者達の死を悲しみながらも生きている男に心からの安堵の声を出す救助屋を知らずやっと自分は助かったのだと実感する。
穴から引っ張りだされた男は足の無数の傷跡がポーションによって治療されていくのを見ながらジョーを見る。
「あ、あんた達来る途中でグレボアを見たか?」
「いや見てはない…ビーコンを使ったのはグレボアによるもので間違いないか?」
「あぁ…舐めてた…グレボアの庭に足を踏み入れてこのザマさ、だがあんたらがここまで無事来れたなら帰りは安心だな」
「いや…むしろ今が危険だ」
「え…?」
「グレボアは縄張り意識が強い、そして鼻も良い…今こうして治療をしている際の微量の血の匂いやポーションの匂いに気づいて来る可能性が高い」
「そ…そんな…」
「本来は荷車に乗って来る予定だったが整備された道しか走れない荷車はやはり救助に使いづらいな」
「あのグレボアは危険だ、歩いて逃げれる奴じゃない…俺だってあいつが仲間を狙わなかったら今頃…お…俺のせいであんた達まで…」
「気にするな、救助屋の名にかけてお前を絶対町に…」
「ジョーサン!」
「…来たか」
男がいる穴があるのは道から外れた草原、そこから道には短くない距離があり戻るなら早く戻らなければならない。
男が治療されまだ痛む足で立ち上がりジョー達が乗ってきた荷車へと向かおうとしたその瞬間、Qが声を上げ指を向ける。
指を向けた先には沈んでいく夕日、そしてその夕日を背に立っている1頭の大きな大きな『イノシシ』…茶色の毛に長く太く育った牙に巨大な体には無数の傷跡があり歴戦の個体であるのがよく分かる。
「あ、あいつだ!あいつが俺達を….!」
「通常で観測されるグレボアよりも大きいな」
「ここ結構の数の冒険者通りますヨ!あれが気づかれないことありマス?」
「恐らく別の場所から来たんだろう、たまにいる」
「な、なんでそんな落ち着いていられるんだ!?あいつに俺達やられたんだぞ!くそっ!俺が気を引くからあんたらは…」
「バカを言うな、1度救助した奴を見捨てる救助屋が何処にいる」
「そうデース!救助屋ジョー&Qちゃんに任せるデース!」
「…もっとも、俺達は討伐が本業じゃないがな」
荒々しく涎を垂らしながらジョー達を見るグレボア…興奮しているのは間違いなく侵入者であるジョー達を始末するだけを考えていると言ってもいい。
ジョーとQは荷物を地面に置いてグレボアを見る、そんな2人を見て男はある事に気づく…
「あ、あんたら武器はどうした?」
「ん?」
「ンー?」
「いや…武器だよ!まさか丸腰なのか!?」
「馬鹿言うな、親から貰った立派な武器が2つもあるじゃないか」
「あるじゃナイカ!」
「拳じゃねーか!あぁ終わった!グレボアに無謀だよこの人達ー!」
「来るヨー!」
拳を見せて何言ってんだと言わんばかりの顔をするジョーとQ、そんな2人を見て男は頭を抱えると夕日が半分まで沈んだ瞬間…グレボアが一気に走り出しジョー達の方へと向かってくる。
その突進は猪突猛進で避けれそうに見えるがそう簡単ではない理由が存在している、ジョーとQは走り出したグレボアに向かって走り出しその拳を構えるが男には無謀にしか見えない。
「無茶だ!あんたらまで死ぬぞ!」
そんな声を聞こえいないのかジョーとQは尚もグレボアへと向かっていく、猪突猛進のグレボアと猪突猛進のジョーとQ…あと少しで衝突する…男はせっかく助けに来てくれた救助屋が死んでしまうと武器を手に取るが恐怖で足がすくんで動けずにいた。
そして…
ジョーとQは突然グレボアの目の前で左右に別れさっきまで目の前にいた敵が目の前からいやくなりグレボアは急停止する。
「グレボアは特殊な個体が存在する、それは魔力を使い毛に引き寄せる魔法を無自覚に使う個体だ…しかし逆に言えばその範囲に入らなければ引き寄せられる事も無いという事だ」
「ワオ!予習したところがでたヨ!流石ジョーさんネ!」
「そして予想外の事が起きた時にグレボアは脅威に感じた方を狙う…!」
左右に逃げられ挟まれた形になったグレボアは一瞬迷い…ジョーの方を向く。
「俺を狙うか、Q!」
「舐められたものデース!私の異世界転移時に貰ったチート能力をとくと食らうネ!」
体が大きく脅威になりうると感じたジョーの方を向くグレボアだったがその隙を見逃さずQは瞬時にグレボアへと走り出しそのトゲトゲの毛に触れる。
「『結合分離』」
「ブモッ!?」
触れた瞬間、奇妙な事がグレボアに起こる。
それはグレボアの1部の硬い毛がどんどんその肉体からポロポロと落ちていき剥き出しの肉が顕になる…まるで肉体から毛が分離したかのように。
自身の毛に何かされたのを感じ取ったグレボアは咄嗟に体を捻って牙でQを吹き飛ばそうとしたがその時にはQは既に距離を取っており空振りに終わってしまう。
あまりの手馴れた動きに男が驚いているとQはニヤッと笑う。
「ジョーさん!いまデス!」
「あぁ」
グレボアの注意がQへと向かれた瞬間、ジョーは回り込み毛が無くなった側へと移動して両手を合わせ人差し指と親指で四角を作る。
「グレボアの毛には魔力が流れている、そのせいで余計に固くなっている訳だが…身を守る鎧が無ければ俺の攻撃も通る…!」
「『キュウショット!』」
それはごく小さな魔力の塊、それがジョーの作った四角から放たれ瞬時にグレボアの肉体を貫く…一瞬体を痙攣させ数秒の静寂が場を支配して夕日が完全に沈むと同時にグレボアは体内から爆発されたかのように体が破裂して周囲に血と臓物が撒き散らされていく。
グレボアが爆死した、その光景に信じられず男は目を擦るが見えるのはグレボアだったもの…
「いやー!やっぱりジョーさんのは凄いネ!尊敬!」
「こんな救助に何の役にも立たない、戦闘にしか使えないものじゃなければ素直に喜べるんだがな」
「あ、あんた達…何者なんだ…?こんな…俺達4人がかりでも勝てなかったグレボアが…こんなあっさり…」
血と臓物を避けながら男の元に戻ってくるジョーとQに男は問いかける、グレボアをあっさりと倒せるお前達は何なんだ…と。
問われたジョーとQはお互い見合って…男を見る。
「「救助屋だ」ダヨ!」
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とある国のとある町にあるギルドの昼下がり…
今日も今日とて冒険者が集まり依頼を受けていく、貴重な将来の冒険者を守るために作られた救助屋の仕事は冒険者や救助を求める者がいる限り暇な時などない…救助した冒険者の記録を残しながら救助屋ジョーとQは隅の席で救助を求める声を待つ。
救助屋ジョーの異世界㊉救助記録
1人の男と1人の女の物語。
思いつきで書いたものです、本格的に書くかは未定。