転生したら「おかんだった件」
おかんパワー!
「うおっ!なんだこれ!?」
目覚めたら、俺は森の中にいた。見慣れない木々、見慣れない空、そして何より見慣れない自分の体。鏡なんてないが、手を見る限り、どうやら若返っているらしい。しかも、着ているのはファンタジー感満載のローブだ。
「まさか、異世界転生……ってやつか?」
俺の名前は田中一郎、35歳。しがないサラリーマンとして、日々社畜生活を送っていたはずが、気がつけばこんな状況。流行りの異世界転生モノか、と頭を抱える。しかし、俺には特別な能力があるはずだ。だって、転生モノの主人公はみんなチート能力持ちって相場が決まってるだろ?
「ステータスオープン!」
思わず口から出た呪文のような言葉。すると、目の前に半透明のウィンドウが現れた。
名前:イチロー・タナカ
種族:人間
職業:無職(仮)
レベル:1
スキル:
* おかんの小言(Sランク): 範囲内の対象に精神ダメージを与え、数秒間行動不能にする。成功率と効果時間は対象の「反抗期度」に依存。
* おかんの愛情弁当(Aランク): どんな食材からでも栄養満点の手作り弁当を作り出す。食べた者はHPとMPが大幅に回復し、さらに「やる気」が向上する。
* おかんの探索(Bランク): 迷子になった子供や、隠されたお菓子を見つける能力。稀にレアアイテムを発見することも。
* おかんの説教(Cランク): 相手を正座させて説教する。説教が終わるまで相手は動けない。効果は相手の「反省度」に依存。
* おかんの家計簿(Dランク): 所持金と支出を自動で管理し、無駄遣いを厳しくチェックする。
「……おかん?」
俺は自分の目を疑った。スキルが全部「おかん」関連だと!?いや、確かに実家では母親に小言を言われ、弁当を持たされ、隠した漫画を見つけられ、説教され、お小遣いを管理されてきたが、まさかそれが異世界でスキルになるとは。「なんでオカンなんだよ〜」
「これ、どうやってバトルするんだよ……」
途方に暮れていると、ガサガサと茂みが揺れた。現れたのは、ゴブリンだ。緑色の肌に、ギョロリとした目。手には粗末な棍棒を持っている。
「グギャアアアア!」
ゴブリンが襲いかかってきた。俺は慌ててスキルを確認する。
「ええい、こうなったらヤケだ!おかんの小言!」
俺はゴブリンに向かって、ありったけの文句をぶちまけた。
「あんたねぇ!そんな汚い格好でウロウロしてんじゃないわよ!ちゃんと風呂入ってるの!?その棍棒も、どこで拾ってきたのよ!危ないでしょ!まったく、心配させないでちょうだい!あとねぇあんた、……………ーーーーー。」
ゴブリンは、ピタリと動きを止めた。そのギョロリとした目が、みるみるうちに潤んでいく。そして、次の瞬間。
「グ、グギャアアア……(うぅ、母ちゃん……)」
ゴブリンは、その場にうずくまって泣き出した。棍棒も手から滑り落ちている。
「え、マジで効いたの!?」
俺は呆然とした。ゴブリンの頭上には、「反抗期度:低」と表示されている。どうやら、純粋なゴブリンには俺のおかんの小言がクリティカルヒットしたらしい。
「よし、今のうちに逃げるか……いや、待てよ?」
泣き崩れるゴブリンを見ながら、俺は閃いた。このスキル、意外と使えるんじゃないか?
それから数日、俺は森でゴブリン退治に勤しんだ。もちろん、物理的な攻撃は一切しない。「おかんの小言」で動きを止め、「おかんの説教」で正座させ、そして最後は「おかんの愛情弁当」で懐柔する。
「ほら、あんたたち。ちゃんと食べなさい。栄養つけないと、ろくな大人にならないわよ」
俺が差し出した愛情弁当を、ゴブリンたちは涙を流しながら頬張る。弁当には「ゴブリンの肉じゃが」と書かれていた。どこから調達した肉なのかは、聞かないでおこう。
こうして、俺は「ゴブリンのおかん」として、森のゴブリンたちを更生させていった。彼らは次第に粗暴な行動をやめ、森のゴミ拾いをしたり、迷子の小動物を助けたりするようになった。
ある日、森の奥から不穏な気配がした。現れたのは、オークの集団だ。ゴブリンよりも一回り大きく、いかにも凶暴そうな見た目。
「グルルルル……!」
オークたちが唸り声を上げる。俺はゴブリンたちを背に、オークの前に立った。
「あんたたち、何しに来たの!?こんなところで暴れてたら、近所迷惑でしょ!」
「おかんの小言」を放つ。しかし、オークたちはびくともしない。頭上には「反抗期度:高」の文字。
「くそっ、やっぱりオークには効かないか!」
オークの一体が、巨大な斧を振り上げて襲いかかってきた。俺は咄嗟に身をかわし、次のスキルを発動する。
「おかんの説教!」
俺はオークの前に仁王立ちになり、指をさして説教を始めた。
「いい加減にしなさい!いつまでそんな乱暴なことしてるの!?あんたももういい大人でしょ!親が泣くわよ!ちゃんと自分の行動に責任を持ちなさい!」
オークは、斧を振り上げたまま固まった。その顔には、困惑と、そして少しの恐怖が浮かんでいる。
「グ、グルルル……(え、お、おかん?)」
「何よその目!反省してないでしょ!あんたみたいな子が、世の中を悪くするのよ!もっと周りのことを考えなさい!」
俺の説教は止まらない。オークは次第に顔を青ざめさせ、プルプルと震え始めた。そして、ついにその場で正座した。
「グルルル……(ご、ごめんなさい……)」
オークの頭上には、「反省度:高」の文字。どうやら、俺の説教はオークにも効果があったらしい。ただし、小言よりも説教の方が効くようだ。
「よし、この調子で全員正座させてやる!」
俺は次々とオークたちを正座させ、説教を続けた。オークたちは皆、涙目になりながら「ごめんなさい」と謝っている。
「まったく、手がつけられない子たちねぇ」
俺はため息をつきながら、正座したオークたちに「おかんの愛情弁当」を差し出した。
「ほら、ちゃんと食べなさい。説教の後は、お腹が減るでしょ」
オークたちは、恐る恐る弁当を手に取り、むしゃむしゃと食べ始めた。弁当には「オークのハンバーグ」と書かれていた。もちろん、どこから調達した肉なのかは、聞かないでおこう。
こうして、俺は「オークのおかん」としても名を馳せることになった。森は平和になり、ゴブリンとオークは手を取り合って、共に森の美化活動に励むようになった。
ある日、俺の元に一通の手紙が届いた。差出人は「王国騎士団メフェウス」。
「至急、王都へお越しください。魔王討伐の件で、貴殿の力をお借りしたい」
「魔王討伐!?俺のおかんスキルで!?」
俺は頭を抱えた。ゴブリンやオーク相手ならまだしも、魔王相手におかんスキルが通用するのか?不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで、俺は王都へと旅立った。
王都に着くと、俺はすぐに国王の元へと案内された。国王は俺を見るなり、深々と頭を下げた。
「おお、勇者イチロー殿!貴殿の噂はかねがね!森のゴブリンやオークを更生させ、平和をもたらしたと!ぜひとも魔王討伐の力を!」
「いや、俺はただのおかんでして……」
俺は恐縮しながら答えるが、国王は聞く耳を持たない。
「とんでもない!その「おかんの小言」と「おかんの説教」こそ、魔王を討伐する唯一の希望なのです!」
どうやら、俺のスキルは王国中に知れ渡っているらしい。そして、魔王は「親の言うことを聞かない」ことで有名だという。
「魔王は幼い頃から親に反抗し、家を飛び出し、好き放題に暴れまわっているのです!我々騎士団の攻撃は一切通用しません!しかし、貴殿の「おかん」スキルならば、きっと魔王の「反抗期」を終わらせることができるはず!」
国王は熱弁する。俺は半信半疑だったが、ここまで言われては断れない。
「わかりました。やれるだけやってみましょう」
こうして、俺は魔王討伐隊の先頭に立つことになった。騎士団の精鋭たちと共に、俺は魔王城へと向かう。
魔王城の玉座の間。そこにいたのは、いかにも悪そうな顔をした魔王だった。巨大な体躯に、鋭い角。手には禍々しい魔剣を握っている。
「よく来たな、人間ども!この魔王城で、お前たちの命は終わりだ!」
魔王が吼える。騎士たちは一斉に構えるが、俺は一歩前に出た。
「あんたが魔王ね。ちょっといいかしら?」
俺は魔王に向かって、にこやかに話しかけた。魔王は怪訝な顔をする。
「なんだ、貴様。いきなり馴れ馴れしいぞ!」
「あんたねぇ!そんな汚い言葉遣いしてたら、友達なくすわよ!それに、その格好!だらしないわねぇ!ちゃんと洗濯してるの!?その魔剣も、どこで拾ってきたのよ!危ないでしょ!まったく、心配させないでちょうだい!」
「おかんの小言」を最大出力で放つ。魔王の頭上には、「反抗期度:MAX」の文字が輝いている。
魔王は、ピタリと動きを止めた。その顔は、みるみるうちに青ざめていく。そして、その巨大な体躯が、ガタガタと震え始めた。
「な、なんだ……この声は……!まるで、母さんの……」
魔王は、魔剣を取り落とし、その場にへたり込んだ。
「おい、魔王!何をしている!」
騎士団長が叫ぶが、魔王はもはや戦意喪失状態だ。
「あんたねぇ!いつまでそんなところでうずくまってるの!ちゃんと顔を上げなさい!自分のしたこと、ちゃんとわかってるの!?」
俺はさらに畳み掛ける。魔王は、涙目になりながら顔を上げた。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、母さん……」
魔王は、まるで幼子のように泣き出した。
「よし、今だ!おかんの説教!」
俺は魔王の前に正座し、説教を始めた。
「あんたねぇ!どれだけの人に迷惑をかけたと思ってるの!?世界を滅ぼすなんて、とんでもないことよ!ちゃんと反省しなさい!そして、これからは自分の力で、みんなのために生きるのよ!」
俺の説教は、数時間に及んだ。魔王は、その間ずっと正座したまま、涙を流し、時には嗚咽を漏らしながら、俺の言葉に耳を傾けていた。
説教が終わる頃には、魔王の顔はすっかりやつれきっていた。しかし、その目には、どこか清々しい光が宿っている。
「……わかりました。私、もう悪いことはしません。これからは、母さんの言うことを聞いて、みんなのために生きます」
魔王は深々と頭を下げた。
「そうよ、それがいいわ。ほら、お腹減ったでしょ?おかんの愛情弁当よ」
俺は魔王に、愛情弁当を差し出した。弁当には「魔王のオムライス」と書かれていた。魔王は、涙を拭いながら弁当を受け取り、むしゃむしゃと食べ始めた。
こうして、魔王は更生した。魔王は、これまでの悪行を償うため、自ら魔王城を解体し、その資材で孤児院を建設した。そして、そこで子供たちの世話をしながら、第二の人生を歩み始めた。
俺は、勇者として英雄視されることになった。しかし、俺はただのおかんである。
「まったく、世話の焼ける子たちねぇ」
俺は、今日も森でゴブリンやオークたちに小言を言い、王都では魔王に説教をしながら、この異世界で「おかん」として生きていく。
これが、異世界転生したら、俺のスキルが「おかん」だった件の物語である。あ〜あ疲れた眠いので寝ようか
読んでくれてありがとう!