ゴブリンの死体を焼く底辺職について早5年、気がついたらめちゃくちゃ経験値が溜まりレベルがカンストしていた。
冒険者失格→死体処理職→なぜかレベルカンスト!?
無自覚に最強になっていた底辺職人の、異世界スローライフ(たまに戦闘)物語です。サクサク読めるギャグ寄り展開です!
「ーー今日も絶好のゴブリン死体焼き日和だな」
ゴブリン死体焼き職人の朝は早い。
爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、俺は大きく背伸びをした。
俺の名はルイ。王都第四処理課・ゴブリン死体焼却係に勤めて、早五年になる。冒険者をクビになり、拾われた先がこの処理場。誇り高き「ゴブリン死体焼き職人」である。
ここで、俺の仕事、ゴブリン死体焼き職人の仕事内容について紹介をしよう。
まず最初にやるのは、ゴブリン共の受け取りだ。
朝の八時になると、荷車に山積みにされた死体の群れが、冒険者やギルドの下請け業者によって運び込まれてくる。
「おはようございます! いつもゴブリン共を殺してくれてありがとうございます!」
俺は搬入担当の冒険者に、笑顔で元気よく挨拶をする。笑顔は社会の潤滑油だ。
次に、受け取った死体を焼却炉へぶち込む。
足を持ってスイングし、スポーンと炉の中へ。小さくて数が多いゴブリン共は、台車ごと突っ込む。大型個体は関節を折ってから丸めて投入。
ゴブリン共は炉に落とすと、案外いい音を出すので、それを聞くのが好きだ。
──時々、まだ微妙に生きてるやつがいるが、一切気にしない。
ゴブリン共に愛などない。人類に迷惑かける害虫共は炉の中で短い生涯を終えてもらう。
焼却が終わったら、掃除と片付けだ。
炉の中をモップで拭き取り、それが終わったら処理場の床を磨く。職場を綺麗にすると気分がいいし、何より仕事が捗る。
「ふぅ……今日もたくさん焼いたなぁ……」
これが俺の一日。俺の仕事。俺の日常だ。
正直、誰でもできる仕事ではあるが、俺は誇りを持ってこの仕事をしている。
冒険者ではレベルが低すぎて皆の足を引っ張りまくっていた俺が、今は生き生きと仕事ができている。
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「今日は、給料日だ」
月に一度の栄光。とはいえ薄給ではある。
焼いても焼いても金は貯まらない。しかし、ゴブリン共の死体を焼く好きな仕事だ。特に文句はないし、辞める気もない。
最寄りのギルド支部までは徒歩20分。
俺はそっとギルドの扉をくぐり、窓口へ向かう。
可愛い受付嬢が手続きを行ってくれた。眩しい笑顔でお金の入った小袋を渡してくれる。俺とのデートも受け付けて欲しい。
小袋の中身を確認すると、金貨数枚と、銀貨が数十枚。家賃と食費でほぼ飛ぶが、残りは好きなことに使うことができる。最近、ゴブリン用の死体包丁が磨耗してきたので、新調するとしよう。
と、そんな時だった。
「なぁ、今の……ゴブリンの死体焼いてるやつじゃね?」
「マジで? あんな仕事、よく続けられるな……恥ずかしくないのかな」
「戦えないから処理場送りだろ? 冒険者として終わってるってやつ」
後ろの椅子から、若い冒険者たちの声が聞こえる。こういう心無い声を聞くと、常識人の俺としてはとても心が痛い。
そんな時は、ゴブリン共と一緒にそいつらを焼却炉に沈める妄想をして心を落ち着かせている。変にストレスを抱えないのも、仕事を長く続けるコツだ。
妄想の中で、若い冒険者が親指を立てて焼却炉に沈んでいったところで、俺はギルドを後にした。
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ギルドを出ると様子がおかしい。ざわめき、叫び声、駆け足の兵士たち。通行人たちが同じ方向を見て、騒然としている。
「おい、聞いたか!? 超巨大ゴブリンが出たんだってよ!」
「王都からの連絡によると、町一つが壊滅したらしい……」
「マジかよ……この街にも来ないといいけど……」
耳に飛び込んでくる断片的な情報を総合するに、どうやら、普通のゴブリンとは一線を画す、規格外の超巨大ゴブリンが現れたらしい。
身長は10メートルを超え、腕力で家屋を粉砕、町をひとつ更地にして通過。犠牲者は数百とも。
冒険者ギルドは緊急召集をかけ、上位ランカーたちを派遣して討伐に当たっているという。全く、ゴブリン共は本当に人類に迷惑しかかけない害虫だ。
「ま、俺には関係ないかな」
冒険者じゃないし、戦地にも行かない。俺のフィールドは処理場。焼却炉の前だけが俺の戦場。
とはいえ、超巨大ゴブリンが討伐されたらさぞかし焼き甲斐があるだろう。俺は心が踊った。
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ギルドで給料を受け取った帰り道。小袋に入った金貨をポケットに突っ込み、俺はいつも通りの住宅街を歩いていた。
「……ん?」
周囲の景色が、おかしい。
人々が──逃げている。
老若男女が悲鳴をあげて走り回っている。荷物を投げ捨て、家から飛び出している。
「何?何なんだ……?」
しばらく歩くが、原因が分からない。
ようやく違和感を感じ、立ち止まってふと見上げると、視界の目の前に“異常な影”が入り込んできた。
──でかい。
見たこともないほど、でかい。
空を遮るほどの巨大な何かが、目の前にいる。
ギルドで聞いた話が、頭の中をフラッシュバックのように蘇る。
町一つを破壊した超巨大ゴブリン──あれがよりにもよって、俺の家の近所に出現した。
しかも運悪く、それが目の前にいる。というか、目の前に来るまで気が付かなかった自分は何なんだ。
ゴブリンの黄色い瞳が、俺を捕らえる。
こっちを見ている。間違いなく、こっちを“獲物”として見ている。
もう無理だ。逃げ場もない。武器もない。
そもそもあんな巨大生物から逃げ切ることはできない。
俺にできるのは──言葉による命乞いだけ。
「ま、待ってくれ……! 俺は……ただのゴブリン死体焼き職人なんだ!!」
叫んだ。咄嗟に出た言葉がそれだった。
数秒の静寂。
そして、ゴブリンは吃るような声で、「アァ?」と言った。
「俺はお前ら害虫共に一切危害を加えたことなどない! 本当だ!ただ、お前らが死んだあとの死体を、処理してるだけなんだ! ゴブリンの死体とかそのまま放置しても腐臭を放つし、邪魔だろ!? だから俺が焼いてるんだよ! 健康と衛生のためだよ! 立派な社会貢献なんだよ!!」
巨大ゴブリンの額にビキビキと青筋が浮かぶ。
「しかも俺は、ゴブリン共を仕事以外で殺したことは一度もない! 善良な市民であり、博愛主義者なんだ! だから──殺さないでくれ!!」
そう言った瞬間、ゴブリンの体がビキビキと震え始めた。
「ア”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!」
ブチ切れてた。一体俺は何を間違えてしまったのだろうか。
振り上げられる、丸太のような棍棒。
俺の身長の五倍はあるそれが、今まさに俺の頭上へと振り下ろされる。
もうダメだ。
俺は人生の終わりを悟った。
そのとき──
反射的に、手を前に突き出し、魔法を放っていた。
俺は冒険者をクビになるくらいのザコだから豆鉄砲くらいの威力の魔法しか使えない。使えないはずなのだが──
俺の掌から灼熱の魔力が爆発的に放たれた。
放たれた魔力は一直線にゴブリンへとぶち当たり、その巨体を──一瞬で、跡形もなく消し飛ばした。
それどころか、そのまま魔力は突き抜け、背後の山へ直撃。その山も吹き飛ばしていた。
「え?」
俺は呆然と空を見上げた。目の前には、吹き飛んだゴブリンの残骸と、その背後にあった焼け焦げた山の一角が広がっていた。
「……あれ、どうやって処理すっかな……」
冷静になった俺は、とりあえず明日、焼却炉の主任に確認することにした。
ご覧いただきありがとうございました!
気が向いたら続きを書きます。