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九話

「よし、浅草観光しようか!」

「おー!」

「お前ら、よくあんな食べれてまだ何処か向かうのか、、、?」

怪訝そうに後ろを歩く咲真が腕を組む。

「何言ってんだ、咲真!まだ柚ちゃんの歓迎会が終わってないぞー!」

「あとでお前に請求してやる、、、」

「わー目が笑ってないよー」

など咲真と勇は言い合いながら、本日の目的地である浅草に向かう。本来なら人力車で移動するのだが、咲真が鬼の形相で「歩け」と言ったから三人は歩いていた。

「あ、柚ちゃん。街を移動する時は俥を使うんだよ、だけど怪しい感じの俥夫(しゃふ)の俥には乗らない方が良い。彼らは女性相手だと遠回りしたり金銭を騙し取るって聞くからなー。あと、日が落ちる頃までに帰ること。最近は何かと物騒だからねぇ、女性の一人歩きは、、、最悪補導されかねないから」

「え、でも、、、」

「まぁまぁ。あっ咲真、昨日頼んでいたやつ出来た?」

「出来ているが、もう仕事帰りに頼み込むなよ」

そう言って咲真は、着物の懐から布製の小物入れのような物を取り出し、そのまま柚へと手渡した。どうやら財布のようだ。

「咲真、一体何処でそんな特技隠し持っていたんだよー?」

「姪の着物の縫い直しをしていたら出来た」

「努力、、、」

手渡された深緑色の財布の端には、羊羹の刺繍がされていた。咲真の普段とのギャップに驚愕(きょうがく)し、財布と咲真の顔を交互に見比べる。

中を開けると小銭が入っていた。

「十銭入っている、何か欲しい物があれば買えば良い」

「いやいや、、、そんな、悪いですよ!!」

「安心しろ、勇の金だ」

「あ、なら大丈夫ですね!」

「おい!」

すぐさま勇のツッコミが飛んでくる。

 東京一の盛り場は新宿でも原宿でもなく、ここ浅草なのだと勇は言う。

芝居小屋や見世物小屋などが寄せ集められた浅草は、縁日のように夜も賑わっていたが昼間の明るい時間帯からも賑わっている。なんなら夜より昼間の方が客足が良いような。

歩いているだけでも気分が高揚(こうよう)していくのが分かる。

見るもの全てを珍しがる柚に、勇はそれこそ観光ガイドのような細さで街を案内してくれた。

そして二人の後ろで腕を組みながら、死ニカエリの情報はないかと周囲の人の声に耳を傾ける咲真。ここまでくると立派な職業病である。

 柚の前に劇場が現れた。劇場の前には鮮やかな色彩で描かれた人物画が並べられており、それを指差しながら女学生達がきゃぁきゃぁ声を上げている。

「勇さん、あれは何ですか?浮世絵みたいな、、、」

「浮世絵みたい、じゃなくて浮世絵だよ。錦絵(にしきえ)とも言うらしいけど、、、人気の役者の似顔絵を描き、あのように並べて売っているんだ。気になる役者でもいたの?」

勇は錦絵に群がる女学生達を微笑ましげに眺めながら説明した。

「いえ、少し珍しくて」

この時代の人々には別に珍しくもなんともないが、柚からしてみれば新鮮だ。写真が普及する前、芸能人のファンは『生写真』ならぬ『錦絵』を購入していたのだ。

それから玉乗りや道化師、飴工芸や小芝居などを楽しみ、時には勇が腹を抱えて笑って(むせ)たりなどのプチハプニングがあったが、時間を忘れて浅草を満喫したのだった。

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