第96話 EP11-6 骸骨騎士
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
地下の遺跡に閉じ込められた。暗く埃っぽい石造りのフロアには、松明の明かりの届く範囲だけで、十体以上の甲冑が整列していた。
オレたちの前へと進み出た一体の甲冑は、フルプレートメイルで、帯剣し、盾を持つ。ヘルムのT字の隙間の奥には、人間の頭蓋骨の、目鼻の空洞と歯が見える。
「地上にいた骨とは、格が違いそうだな」
甲冑が、右の鋼籠手で抜刀した古い剣を、胸部装甲の前に立てる。
「いくぜ!」
オレは、両手で握る長剣を振りあげ、踏み込み、力任せに振りおろした。
ギィンッと甲高い音で、左の鋼籠手が構える盾で受けられた。そのまま盾が傾き、外へと受け流された。
「うあっ」
体勢が崩れる。前のめりの心意気に引っ張られて、体まで前のめりになる。
盾の向こうに、古い剣が振りあげられた。
「ぐがっ!」
右足を前に踏み出し、踏みとどまる。無理矢理に全身を左へと捻る。振りおろされた古い剣に、引っ張り戻した長剣を叩きつけ、弾き返す。
重い。硬い。鉄で鉄を叩いた衝撃に、手が痺れる。
間髪入れず、左上まで振りあがった長剣を引っ張り戻す。勢いのままに、甲冑のヘルムの側頭部へと、力任せに振りおろす。
ギィンッと甲高い音で、盾に受けられた。とめられた。
「くっ?!」
押される。盾で、鋼のフルプレートメイルの重量で、長剣ごと押し返される。渾身の力で抗っても、自分の長剣の刃が目の前にまで迫る。
ダメだ。舌打ちして、後方へと跳んだ。階段近くまで距離を空け、呼吸の乱れに息を荒くした。
◇
甲冑は追ってこない。古い剣と古い盾を悠々と構える。甲冑を装備した骨だというのに、威風堂々としている。
オレは考える。魔物相手の力押しでは、盾すら抜けない。鎧の中の骨までなんて、とてもじゃないが届かない。
アイツの動きは、人間だ。訓練し、武装した戦士の動きだ。
だったら、これしかない。
「ふぅっ」
一つ息をはき、呼吸を整える。長剣は右の片手で握り、半身で胸の高さに構え、剣先を甲冑の顔に向ける。エレノア師匠が得意とする、フェンシングに近いスタイルである。
振りまわし専門のオレの突きに、師匠ほどの鋭さはない。通用するのは、せいぜい、手の内の知られてない最初の攻防だけだ。
「ふぅっ」
一つ息をはき、心の焦りを抑える。腰のベルトから、左手に投げナイフを二本握る。甲冑に左手を見られないように、腰の後ろに隠す。
甲冑が悠然と身構える。
オレは師匠と真剣で稽古するから、剣を向けられるのには慣れている。でも、盾で間を塞がれるのは慣れない。戦いづらい。
「はっ!」
短く気合いを入れ、石の床を滑る低さで前に跳び、右足で踏み込んだ。鋭い突きを、ヘルムの中心目掛けて放った。
剣先を古い剣で防がれ、キンッと高く鳴る。長剣を素早く引き戻し、素早く突き出す。古い剣の小さな動きだけで、剣先を防がれ、受け流される。
「これなら! どうだ!」
左手に隠し持った投げナイフを、甲冑のヘルムに向けて投げた。
キンッ、と高く鳴って、古い剣で弾かれた。
同時に、素早く長剣の突きを放つ。盾に遮られ、ギンッと甲高く鳴る。
盾の湾曲に逆らわず、内へと受け流される。盾の叩きつけは、肩の金属板で受け、衝撃を堪え、踏ん張って押し返す。
体勢は崩し気味でも、盾をくぐって、甲冑の正面に立てた。好機だ。
「食らえ!」
ヘルムの顎の隙間を狙って、長剣の剣先を突きあげる。
古い剣で易々と受け捌かれた。刃こぼれや錆でボロボロだけれど、立派な剣だ。正統派の、修練を積んだ剣技だ。
突きの陰から放った投げナイフが、ヘルムのT字の隙間に突き刺さった。ガランガランと甲冑がバラけ落ちて、石床に激しく跳ね転がった。勝った。
「ふぅっ」
危うい勝利に、数歩を後退って、安堵の息をはく。正々堂々の斬り合いでは負けると判じて、自分の得意な手数勝負で勝てたのだが、ちょっと悪いことをした気もする。負けるわけにもいかなかったから、仕方ない気もする。
石のフロアに、ガチャガチャと甲冑が動いた。今度は、整列する中から三体一緒に、オレたちの前へと進み出た。
◇
終わった。一対一でギリギリ勝てたのに、三体同時とか無理だ。
「とはいえ、諦めるわけにはいかないよな」
オレは、覚悟を決めて、フェンシングスタイルで長剣を構える。後ろにいるハルシアとシャティエだけは、守ってみせる。命と引き換えにしてでも、甲冑全部を倒してみせる。
「リっ、リード殿! お待ちください! い、いえ、自分と代わってください!」
背後から、シャティエに肩を掴まれた。躊躇いの混じった、でも、力強い声で、力強い手で引っ張られた。
「この甲冑は、いいえ、あの方々は、遠い昔の王国の騎士です。礼儀作法も、剣の型も、剣筋も、王国の騎士のそれなんです。かなり古くはありますが、今でも基本は変わりません」
シャティエは断言して、オレの前に進み出る。
腰の長剣を右の鋼籠手で抜く。カツンと鳴らして、鋼のブーツの踵を揃える。剣先を上にして、柄を胸部装甲に当てる。
「我こそは、ミレリア王国ハルシア王女が忠実なる盾! 王国に仕える騎士、ドレドロス家が嫡子、シャティエランティ! 誇り高き騎士として、貴公らの将に、正々堂々の一騎討を申し込む!」
高らかに名乗りをあげた。堂々としていた。子供たちが憧れる、立派な騎士そのものだった。
応えて、整列する甲冑群の中から一体、古ぼけてはいても凝った意匠の甲冑が、前に出ていた三体を押しのけて進み出る。羨むように肩を手で突かれ、浮っき浮きの軽い足取りである。シャティエと同じポーズで、古い剣を胸部装甲に当てる。
シャティエの顔色が、みるみる悪くなる。
「どうしたシャティエさん? やっぱり代わろうか?」
「あの甲冑にあります紋章は、ところどころ削れていますが、ドレドロス家のもので間違いありませんわ。あの方は、シャティエの御先祖様ですのね」
「ああ。そういうことか」
シャティエと甲冑の一騎討が始まった。まあそんな気がした通りに、大人と子供、達人と初級者の戦いだった。剣術の稽古みたいに、あしらわれて、打たれて、転がされた。
「御先祖様、ごめんなさい! 参りました! 参りました!」
床に無様に転がされたシャティエが、無様に降参した。甲冑は、豪快に笑うみたいに、肩の装甲をガチャガチャと揺らした。
一頻り揺れた甲冑が、ハルシアに向いて、跪く。畏まり、頭を垂れる。
整列した甲冑群も、ハルシアに向いて、跪いた。畏まり、頭を垂れた。
ガランガランと、全ての甲冑がバラバラになった。石床に落ちて、転がった。
交じって、男の美声がフロアに響く。
「心置きなく安らかに眠りたまえ、王国の強き騎士たちよ。魔王との戦いに、また多くの騎士が崇高な命を捧げることになろう。次の守護者は、その者たちが喜んで後継となってくれようて」
パタン、と本を閉じる小気味いい音がした。
甲冑の転がるフロアではなく、古ぼけた本の散乱する書斎になっていた。何が起きたか分からないが、今さら驚く気にはなれなかった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第96話 EP11-6 骸骨騎士/END
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