第95話 EP11-5 森の遺跡
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
亡国の王女ハルシアと亡国の女騎士シャティエと、王国の時代から『死霊の森』と呼ばれる危険地帯に入った。草木に覆われ昼間でも薄暗く、夜には闇に包まれる不気味な森だ。
「シャティエさんはハルシアさんを守ってくれ。この骨は、オレが倒す」
長剣を抜き、両手で握って腰の高さに構える。
夜の森に、動く骨が現れた。人と、野犬らしき獣と、大きな鹿と、熊の骨だ。
「ぎゃーっ?!」
「きゃーっ?!」
二人の悲鳴が、闇に包まれた深い森の、小さな焚火の明かりに響いた。動く骨に驚いたのだ。
そう、動く骨だ。
死霊なんて実在しない。実在するなら、この世は虫の死霊だらけのはずだ、が研究者の一般的な見解らしい。何の研究者かは、知らない。
では、動く骨って何だろう。妥当な線は、そういう見た目の魔物、何かが骨を操っている、そういう幻を見せる何か、だろうか。
対処法は、単純に、骨を壊せばいい。幻術でなければ、それで消えるか動かなくなる。幻術なら、またそのときに別の対処法を考えよう。
「心配いらない。ただの骨だぜ」
長剣を頭上に振りあげる。カチャカチャと硬く乾いた音で飛びかかってくる野犬の骨に、真っ直ぐ振りおろす。
ガチャンと乾いた音で、砕けて落ちた。皮も肉もない骨だけの軽さで、長く野ざらしの脆さだった。
「ふうっ!」
次は、こっちから斬り込む。人骨の首を横一文字に斬る。鹿骨の立派な角を叩き落とし、熊骨の前脚を砕き折る。
所詮は、ただの骨だ。分厚い皮も強靭な筋肉もない。ただのザコだ。
「はぁっ!」
熊骨の頸椎を袈裟懸けに斬り砕く。横に踏み出し、返し振りあげる刃で鹿骨の頭蓋骨を割る。さらに上体を捻って、人骨の肋骨と背骨を両断する。
骨どもが崩れ、ガチャガチャと鳴った。乾いた草むらに散乱し、動かなくなった。
オレは一つ息をはいて、二人の方を振り返る。
「だから、ただの骨だって言ったろ? ザコだぜ、ザコ」
「お見事です! リード殿は本当に、凄腕の魔物ハンターです!」
シャティエが、興奮気味に声を高くした。
尊敬の熱い眼差しで、見詰められてる気がした。我ながら自意識過剰だ。
「わたくしも、同意します。ジラルドに勝るとも劣らない、力強く華麗な剣捌きでしたわ」
ハルシアも、ほわほわした微笑みで賛同した。
「いやー、まあ、これでも、割と真面目に腕を磨いてきたからな」
手放しで称賛されて、照れた。顔が赤くて、気恥ずかしくて、無意味に剣を回転させてから、格好つけて鞘に納めた。
◇
夜が明けて、薄暗い森を進む。地図を広げて、周囲を見まわす。
高い木と、太い幹と、密集する枝葉と、密集する下草と、凸凹だらけの地面と、地面を覆う湿った落ち葉だらけだ。視界を遮るものが多すぎて、ちょっと先も見えない。
「やっぱり、この辺りだと思うぜ」
オレは、根拠のない結論に達した。
「リード殿がおっしゃるなら、確実ですね! 無事に導いていただき、心より感謝いたします!」
シャティエが、尊敬の熱い眼差しで、声を高くした。
いや、気のせい、気のせい。我ながら自意識過剰だ。
「わたくしからも、感謝をさせてください。リードさんがいらっしゃらなければ、辿り着けなかったでしょう」
ハルシアも、神へ感謝の祈りを捧げるように両手を握り合わせ、尊敬のキラキラと輝く瞳で同意した。
いやいや。自意識過剰、自意識過剰。
そもそも、純真無垢に信頼されると困る。
というのも、地図の縮尺では、ビシッと正確な地点の特定はムリだ。大事なものの隠し場所を示すなら、むしろ盗掘対策でズレてる可能性が高い。
曖昧な地図で曖昧な地点を探す。地図だけでは限界がある。だから、決め手は地図ではなく、口伝や特別なアイテムといった、別の何かである。
「ハルシアさん。頼む」
胸元から、プリシアのペンダントを取り出した。ハルシアに差し出した。
「はい」
ハルシアは神妙な顔で受け取った。黒いシスター服の膨らむ胸元に手を入れ、自身のペンダントを取り出した。
滅びかけた王国を救う鍵、と王家に伝わるらしい二つのペンダントである。それぞれが一枚のコインを二枚に割った片割れで、模様が寸分の狂いもなくピッタリと合う。
ハルシアの華奢な手が、二つのペンダントを一つに合わせた。
「リードさん。あ、あれ……」
ハルシアが驚いて見つめる先、薄暗い森に仄かな光がある。
「大当たりだ。警戒を緩めるなよ、シャティエさん。どんな遺跡で何があるか、ほとんど何も分からないんだからな」
オレは、革の地図を丸めて、背中にある肩掛け袋に突っ込んだ。腰の長剣の鯉口を切り、格好つけて無意味に回転させながら抜いた。
◇
木々の太い幹の間を抜け、背丈より高い下草を掻き分ける。湿った土を踏み、幹の陰、下草の陰を警戒する。暑さのせいか、湿気のせいか、緊張からか、額を汗が流れる。
あった。濡れた枯葉に泥濘む地面が、仄かに光っていた。
ハルシアが、オレの前に進み出る。しゃがみ、光る地面に手を触れる。
「リードさん。開きましたわ」
安堵した声だった。開くか分からない扉が開いて良かった、程度の抑揚だった。ハルシアにだけ、そこに扉が見えるのだろう。
地面に、地下への階段が現れた。プレートメイルを装備した大人一人が通れるくらいの、壁も天井も石張りの、石造りの階段だ。
古ぼけて、埃が積もる。乾いた石の隙間に、森の泥水が流れ込む。階段をおりた先は、暗くて見えない。
「よし。オレが先頭でおりる。ハルシアさん、シャティエさんの順に続いてくれ」
警戒しながら、石の階段に一歩目を踏み出す。木の葉の隙間から差し込む細い光に埃が舞って、カツンと硬い音が鳴る。感覚を全方位に研ぎ澄まし、数秒を待つ。
罠も敵もない。そこから一段をおりる。感覚を研ぎ澄まし、数秒を待つ。
さらに一段をおりる。感覚を研ぎ澄まし、数秒を待つ。やはり、罠も敵もない。
繰り返して、数十段をおりた。床も壁も天井も古ぼけた石造りの、広いフロアに辿り着いた。差し込む光に、立ち並ぶ甲冑が見えて、すぐに真っ暗になった。
「リっ、リード殿! 上が、閉まりっ、閉まりました!」
シャティエが狼狽した。泣きそうな声音だった。
しかし、狼狽えるには値しない。魔王に対抗し王国を救う何かがあるのなら、相応の試練があって然るべきだ。試練を乗り越えずして、無事に出られるわけもない。
肩掛け袋を床に落とし、赤いマントを背中へと翻し、剣を鞘に素早く納める。腰のベルトから松明を抜き、使い捨てのマジックアイテムで火を点ける。瞬時に松明の先端に炎が燃え、前方が薄赤く照らされる。
「ぎゃっ?!」
シャティエの短い悲鳴が聞こえた。
「松明を頼む」
オレは前を向いたまま、松明を後ろに渡した。前方に並ぶ、古ぼけて埃を被った甲冑群に意識を集中し、再び長剣を抜いた。
甲冑は明かりの範囲内だけでも十体以上、全てフルプレートメイルで、ほぼ全身を覆う。帯剣し、盾を持ち、直立不動で、整然と整列する。ヘルムの隙間の奥には、人間の頭蓋骨が見える。
「地上にいた骨とは、格が違いそうだな」
ガランと鋼の音で、一体が動いた。自身に積もった埃を撒きながら、ガチャンガチャンと甲冑のパーツを打ち合わせ、オレたちの前へと進み出た。
「まあ、これくらいはないと、伝説級の宝探しって実感が湧かないか」
雰囲気が、威圧感が違う。剣の殺傷力と、盾の防御と、鋼の装甲と、甲冑の重量がある。守りは硬く厚く、攻めは鋭く重い。
甲冑が、腰の長剣を右の鋼籠手で抜いた。カツンと鳴らして、鋼のブーツの踵を揃えた。剣先を上にして、柄を胸部装甲に当てた。
その動きの意味は分からなかった。でも、強敵と戦えそうで、嬉しくなった。これも、戦闘狂の師匠に教わってきた、賜物だ。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第95話 EP11-5 森の遺跡/END
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