第93話 EP11-3 決めた路
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「ヴォンヴァッドが潜んでるゴミ山を、杭と荒縄の簡易柵で囲む。なるべく大きく囲んで、二箇所のゴミ山を内側に入れる」
オレは、ヴォンヴァッド退治に協力してくれる自警団員たちに、作戦を説明する。
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
午前の太陽はまだ低い。ヴォンヴァッドが夜行性だから、朝のうちに準備をして、日が沈む前に退治してしまいたい。
「簡易柵は作業を進めてる。牧畜や農業で慣れた団員が多いから、昼前には完成できる」
自警団の団長が、得意げに答えた。廉価品ながら、腰に長剣をさげ、円盾を背負った、二十歳くらいの精悍な男だ。
「早くて助かるぜ。時間に余裕をもって退治できるな」
子供の落書き並みに簡略化された配置図に、人差し指の先を触れる。今回のターゲットとなるゴミ山二つを、指先でなぞって囲む。
「片方のゴミ山を襲撃する。ヴォンヴァッドは好戦的じゃあないから、もう片方のゴミ山に逃げるはずだ。そこを、オレが柵の中で、アンタらは柵の外から弓矢で、退治していく」
「聞いてる感じだと、簡単そうだな。専門家を疑うわけじゃないが、そんなに簡単に退治できるもんなのか?」
団長が、怪訝と首を傾げた。
「ヴォンヴァッドが弱い魔物ってのもあるけど、オレたちで退治しやすいようにするのさ。そこんとこも含めて、段取りを話しとくぜ」
オレは、後ろに控えるハルシアとシャティエに振り返った。ハルシアは正義感に瞳を輝かせ、シャティエは不安げにガチガチに緊張していた。
◇
ハルシアは十六歳の少女で、見た目が世間知らずの御嬢様シスターで、中身は世間知らずの亡国の王女だ。シャティエは、二十歳くらいのしっかり者で気の強そうな女で、亡国の騎士で、レジスタンスの副団長だ。
「ハルシアさんも、シャティエさんも、頼りにしてるぜ。ハルシアさんは三人の抗毒の魔法の維持、シャティエさんは体を張ってハルシアさんを守ってくれ」
オレは、柵の内側に立ち、同じく柵の内側の、後方に数歩の近くにいる二人に声をかけた。
「お任せください、リードさん!」
ハルシアが、両の拳を膨らむ胸の前に握り、やる気満々で答えた。
「いっ! 命に換えましへも! ヒャッ、ハャ、ハルシア様はっ、御守りひみゃす!」
シャティエが、キョドって噛みながら答えた。ホワイトウルフ相手に手も足も出なくて、完全に自信を喪失したそうだ。不安だが、立派なプレートメイルと長剣と大盾で完全武装してるから、まあ壁役くらいはしてくれるだろう。
「始めるぜ! 全員、気を引き締めろ!」
大きく叫んだ。
『おう!』
離れた簡易柵の外側、自警団員たちが大きく応えた。後方の女子二名も、高く応えた。
ニ十歩先に、大きなゴミ山がある。酷い悪臭がして、目にまで沁みる。鼻と口を、布を巻いて覆う。
なるべく周囲に障害物の少ない場所を選んだ。大きなゴミ山があって、毒々しいヘドロ溜まりが点在して、石垣の残骸が腰かけサイズに崩れ、比較的に見晴らしがいい。
松明を右手で握り、火を点ける。振り被り、ゴミ山に投げる。松明からゴミ山へと火が移り、燃えあがる。
オレは、腰の長剣を抜いて、両手で握り、腰の高さに構える。
「ギィィィッ!?」
鉄と鉄を擦り合わせるような、不快な音だった。悲鳴のように鳴いて、魔物がゴミ山から飛び出してきた。ヴォンヴァッドだ。
人間の大人の半分ほどのサイズの、ネズミに似た獣型の魔物である。単体はランクCハンターでも倒せるくらいに弱く、ホワイトウルフみたいな集団戦もしてこない。全身が毒塗れ、以外はザコである。
「きゃぁぁぁーっ?!」
後方の女子二名も、蒼褪めて、抱き合って、悲鳴をあげた。
◇
予想外だった。
ゴミ山から、ヴォンヴァッドが、たくさん飛び出した。十匹以上どころか、三十匹以上、ワラワラと駆け、分散し、視界中に広がった。
その数で毒や汚泥を撒き散らしながら駆け回られると、オレでも怯む。後ろに二人がいなければ、一時撤退して帰る言い訳を考える。
「盾を構えて踏ん張れ! ハルシアさんだけは守れよ!」
オレは力強い声で、シャティエを鼓舞した。意識は周囲に散ったヴォンヴァッドどもに、均等に広げた。
最初の一振りで、勝負は決まる。上体を右へと思いっきり捻り、長剣を右肩の後ろへと振り被る。全身の筋肉をギチギチと軋ませる。
「ギィィッ!」
魔物は人を恐れない。何匹かがオレに向かって飛びかかる。大きなネズミっぽい口を開け、四角く出っ張った前歯を剥き出す。
「うぉぉりゃぁっ!」
渾身の力を込めて、長剣で横薙ぎした。飛びかかってきたヴォンヴァッド三匹を弾き返し、地面に叩きつけた。三匹とも暴れるように跳ねあがって、消えて、汚泥色の宝石片が転がった。
人を知らないから恐れない、というのなら、人の恐ろしさを教えてやればいい。襲うより逃げた方がいいと、思い知らせてやればいい。
ただし、オレが失敗すれば、ヴォンヴァッドどもは『人間は恐るるに足らず』と認識する。オレだけじゃなく、二人も自警団員も攻撃対象になって、怪我人が出るだろうし、討伐作戦が苦境に立つ。
「くっ」
斬り漏らしたヤツに、膝横の革鎧の隙間を引っ掻かれた。服が裂けて血が滲んだ。でも、抗毒の魔法が効いてるから、この程度の傷は問題ないはずだ。
「キィィィッッッ!」
ヴォンヴァッドどもが耳障りに鳴いて、オレを避けるように散開した。人間を恐れて、大きく迂回し、駆け抜けた。
「よしっ!」
成功だ。逃げるヤツの横っ腹を狙って、踏み込み、斬りつける。汚泥色の宝石片になって、ヘドロ溜まりに落ちる。
ヘドロが、はねた。
汚い。汚いだけじゃなく、毒かも知れない。さすがに、一瞬、躊躇った。
「ギィィッ!」
逃げたヤツらがオレの躊躇を見逃さず、何匹か戻って襲ってくる。我ながら詰めが甘い。
「このっ!」
一匹斬り消す。
「きゃーっ?!」
「ぎゃーっ!」
ハルシアとシャティエの悲鳴が聞こえた。
二人の方にも、三匹向かっている。しかも、後ろから駆け寄る一匹に、二人とも気付いていない。ハルシアが危ない。
「後ろだ!」
オレは長剣を投げ刺して、その一匹を仕留めた。
一瞬たりとも迷わなかった。自身の危険を顧みなかった。迷うわけがなかった。
オレに飛びかかった一匹に、右腕を噛まれた。予備の短剣を腰のベルトから抜いて、突き立てた。消えて宝石片が落ちた。
別の一匹に左足を噛まれた。右膝を地に着きながら、短剣を突き立てた。消えて宝石片が落ちた。
さらに別のヤツに、背後から鎖骨の辺りを噛まれた。これはヤバい。短剣を両手で握り、ネズミ面の眉間に突き刺してやった。
「キィィィィィッッッッッ!!!!」
甲高い断末魔で、消えた。
残りのヴォンヴァッドどもも耳障りに鳴いて、再び逃げ出した。もう一つのゴミ山へと、遠ざかっていった。
これでもう安全だ。ヤツらは怯えゴミ山に隠れ、しばらくは出てこないだろう。
さすがに噛まれすぎた。抗毒の魔法が効いていても、毒と、出血と、激痛で、その場に倒れた。
◇
暗い意識で、考え至る。
こんなにも、答えは簡単だったのか。
オレにとって、『討つべき仇』と『守りたい人』のどっちが大切か。迷うのがバカバカしいほどに、結論は決まりきっていた。
「ハルシア様! 良かった、目を開けましたよ!」
シャティエの歓喜が聞こえた。
オレは目を見開いた。上体を勢いよく起こし、周囲を素早く見まわした。簡易柵の外側で、ゴミ山から離れて悪臭もない。
「リードさん!」
ハルシアが目に涙を溜め、無事を喜び、オレに抱きつこうと腕を広げる。
「あははははっ!」
オレは思わず、思いっきり笑った。ハルシアがビックリして、途中で動きを止めた。
抱きついてもらえなくて勿体ない気もした。でも、笑わずにはいられなかった。
一面の闇が光に照らされた気分だった。覆う霧が一気に晴れたような、清々しい心地だった。
「ハルシアさん! 決めたぜ! オレも一緒に行かせてくれ!」
オレは、爽快の笑みで、力強く頼み込んだ。ハルシアが、さらにビックリした。
オレには、過去の思い出よりも、今と共に生きる方が大切だ。仇討ちは、ちょっと寄り道するだけで、やめるわけでもない。きっと、あの世のプリシアも、笑顔で頷いてくれるだろう。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第93話 EP11-3 決めた路/END
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