第92話 EP11-2 ジフトの依頼
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
「帝国南部の地図でございますね。用意いたしますので、しばらくお待ちください」
ハンターギルドの受付嬢が、ニコやかな笑顔で応じた。
肩までくらいの長さの金髪さらさらストレートヘアを六四分けにした、化粧美人の大人の女の人だ。ギルドの事務的な紺色の制服が似合う、仕事のできる雰囲気だ。
地図の価格表を見て、代金を揃える。宝石と金片銀片が通貨代わりなので、計算に手間取る。
「これで合ってるよな?」
受付カウンターに、代金を並べた。
「はい。ピッタリです」
背後から肩越しに覗くハルシアが、自信に満ちた相槌を打った。
ハルシアは、一人でも伝承に殉じると、人々のために魔王を倒す方法を探すと決めた。オレは、どうするか決めかねていた。でも、ハルシアの準備の手伝いくらいはいいか、と思った。
ハルシアと共に行く気になったら、行けばいい。共には行けなければ、ペンダントを渡せばいい。オレはもう、プリシアの思い出に頼らなくても戦える。
それに、プリシアも、自分よりも村の皆のために、みたいなヤツだったから、ハルシアの手にある方が喜ぶだろう。もともと、仇討ちなんて望んでいないのかも知れない。きっと、オレがそうしたいだけなのだ。
受付嬢が受付カウンターに戻ってくる。代金を確認し、丸めた革製の地図を差し出す。
「こちらが、帝国南部の地図になります」
「おう。ありがとな」
地図を握る。軽く引く。動かない。
「ところで、リード様は、ランクCの魔物ハンターとなっていらっしゃいますね?」
「ああ。ランクCだぜ」
強めに引く。抗う受付嬢の手がプルプルと震えるが、地図は放さない。
「失礼ながら、経歴を拝見させていただきました。ギルドの依頼をほとんど受けず、魔物退治を続けていらっしゃるとか。実力は、さぞ高くていらっしゃるのでしょうね?」
受付嬢が、もの凄く社交辞令な笑顔をした。ご機嫌を取る口調だった。
嫌な予感がする。とんでもなく難しい依頼の気配がする。困り果てた受付嬢に、厄介ごとを押しつける隙を窺われている。
「いや~、オレなんて、大したことは」
「リードさんは、とてもお強いです! 実力はランクAと同等と、御自身でおっしゃっていました!」
背後から肩越しに覗くハルシアが、誇らしげに力説した。
◇
ハンターギルドの閑散としたフロアの、隅のボロテーブルに着く。ボロい木のイスに座る。だいたい荒くれ者の魔物ハンターが集うハンターギルドの備品は、だいたいボロい。
「今現在、ここジフトには、ランクA以上の魔物ハンター様が滞在していらっしゃいません。周囲の小砦も含めて出払っている、との表現が正確でしょうか」
化粧美人の大人受付嬢が、テーブルを挟んで向かいの席に座った。テーブルに依頼書を置いて、オレの前に押し出した。
依頼書が不穏なオーラを放つ。ハルシアが、オレの横のイスに座って、依頼書を不用意に捲ろうとする。オレは、片手で遮って制する。
「大砦周辺レベルはムリだぜ? 一緒にハンターやってるエレノアさんもいないし。高ランクハンターの帰還を待った方がいいんじゃないか?」
「小砦周辺レベルですので、ご安心ください。戦力を整えてから討伐したいのはやまやまなのですが、すでに被害が出始めています。時間の経過に比例して、被害も大きくなるでしょう」
受付嬢が真顔で告げた。深刻と顔に出した。
依頼書を不用意に捲ろうとするハルシアを、片手で制する。
「あぁ、魔物が、壁の中、町に現れたと知る人々の不安は、いかばかりでしょうか。今はまだ、ゴミ捨て場となっている放棄地での目撃情報に留まっています。ですが、被害が町中まで広がるのも時間の問題です」
受付嬢が、さらに深刻な顔でダメ押ししてきた。
ここまで深刻な顔をされると、交渉を有利に運ぶための演技じゃないだろうな、と勘繰ってしまう。性格の捻くれたエレノアの教育の賜物である。
ハルシアがオレの肩を掴んで揺らす。正義感に輝く瞳で、依頼書を開くように促す。
ハルシアは、同じ十六歳の、純真な少女だ。見た目は黒いシスター服の世間知らずの御嬢様で、中身は世間知らずの亡国の王女だ。
「分かった、分かったよ。とりあえず、依頼書を読むだけだぜ?」
オレは仕方なく、依頼書を開いた。
討伐対象はヴォンヴァッド、人間の大人の半分ほどのサイズの、ネズミに似た獣型の魔物だ。単体は、ランクCハンターでも倒せるくらいに弱い。ホワイトウルフみたいな集団戦もしてこない。
数は複数。正確な数字は不明。前例から、一匹見かけたら十匹以上いると予想される。
「うわぁ……。よりによって、ヴォンヴァッドかよ……」
思わず、嫌がる声が出た。
横から依頼書を見ていたハルシアが、明るい声でハモる。
「ネズミにしては大きいネズミですね。リードさんでしたら、簡単に退治できそうですね」
お気楽な感想も、知らないのだから仕方ない。
「ネズミ系の魔物ってヤツは、劣悪な環境に棲息するせいで、全身が病原菌だらけなんだ。ザコのくせに、ちょっと引っ掻かれただけで重い病気になることだってある。特にヴォンヴァッドは、生活圏が劣悪すぎて、全身が毒塗れと言っても過言じゃあない」
オレは、自分でも知識を再確認しながら説明した。
「高ランクの魔物ハンター様を中心に、防御を固めた多人数で、罠と遠距離攻撃を駆使して討伐する魔物です。魔物としては弱くとも、非常に危険で、討伐依頼が敬遠されやすくもあります」
「危険が高いくせに、倒しても碌な宝石片にならないからなあ。棲息環境も汚くて臭い、ってのもある。強くてランクが高い魔物ハンターほど、受ける旨味がないから受けないヤツだな」
「接近戦をするなら毒消しや抗毒の薬が必須ですので、さらに人を選びます。せめて、流通が安定して、薬品の確保が容易であれば良かったのですが」
こんな末法の世である。世の中への愚痴なら無限に出せる。不都合の全てを世の中のせいにして余りある。
「はい!」
ハルシアが、嬉しげに、自らの出番とばかりに元気よく、手を挙げた。
「わたくし、毒消しの魔法も、抗毒の魔法も、使えますわ!」
「ええっ?! こちらのシスター様は、ヒーラー様でいらっしゃるんですか!?」
受付嬢が、寂れた森に希少動物でも目撃したみたいに驚いた。
オレも、驚いた。ハルシアが、ずっと護衛対象だったから、ヒーラーだと忘れていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第92話 EP11-2 ジフトの依頼/END
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