第91話 EP11-1 進む路
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
「リードさん。エレノア御母様は御無事でしょうか?」
ハルシアが、祈るように両手を組んで、心配顔で聞いてきた。
ハルシアは、オレと同じ十六歳の、薄緑色の長い髪をして、お淑やかで、儚げに華奢で、おっとりして優しい少女だ。見た目は黒いシスター服の世間知らずの御嬢様で、中身は世間知らずの亡国の王女だ。
「師匠な」
ハルシアの天然のボケに、素早く正確なツッコミを入れた。
北の大砦を無事に脱出できたオレたちは、東の小砦ステンイに辿り着いた。そこから、エレノアはシュッツの足取りを探して、単独で東の大砦に向かった。リードたちは足手纏いだからと別行動で、ここ南部にある小砦ジフトにハルシアを送ってきた。
「エレノアさんは強いから、心配するだけ損だぜ。オレたちがいた方が不安要素だ」
エレノアは、三十歳手前の女で、赤い短髪で、ハスキーボイスで、オレの師匠で、かつては帝国の将軍だった、口の悪い戦闘狂である。
「まぁ、しばらくは、ここで潜伏して待つしかないさ。長旅だったから、休息にもちょうどいいだろ?」
オレは、日の差す窓から賑わう大通りを眺めて、大きく伸びをした。
ジフトは、今の時代に珍しく、治安のいい小砦だと聞いている。
だいたいどこの小砦も帝国役人が治安を乱し、自警団と対立しているものである。無法者も多く、ガラの悪い連中の喧嘩くらいは日常茶飯事に起きる。
でもここは、帝国役人が治安維持に尽力しているらしい。信じ難い。あり得ない。
平和だ。思わず表情が緩む。
「いかがなさいまして、リードさん? 何か見えまして?」
ハルシアが興味津々で横に並んだ。同じ窓を、横から覗き込んだ。
オレは照れ笑いで、横目にハルシアを見る。同年代の美少女が肩の辺りに寄り添う状況は、ちょっと照れる。顔が赤くなる。
「平和な町だな、って思ってさ。壁の外は魔物だらけで出歩くのもままならない、なんて嘘みたいだよな」
「ええ、本当ですわ。わたくしも、このような平和な世になってほしいと、常々願っています。今の帝国との戦いは、とても心が痛みますが、後々の平和のための礎ですのね」
ハルシアが、少し苦しげに微笑んだ。心優しく、責任感が強く、献身的な少女だ。
「平和、か。オレも、平和を守る魔物ハンター、みたいな生き方をしたいと思うときはあるぜ」
オレは、首にさげたペンダントを、上着の中から取り出す。
「でも、このペンダントを見るとプリシアの最期を思い出して、怒りが抑えられないんだ。幼馴染みと村の皆の仇を討たずには、前に進めないんだ」
ペンダントを、ギュッと強く握った。幼馴染みのプリシアが大事にしていた御守りで、プリシアの形見だ。半分に割れた不思議な模様のコイン、みたいな綺麗な金属板だ。
「そっ、そのペンダントは! まさか!」
ハルシアが、思いっきりビックリした。生涯を懸けた宿命に直面した、みたいな驚き方だった。
◇
「とても大切な御話があります」
ハルシアが、簡素な木の丸イスに、畏まって姿勢正しく座る。
一人用の木の丸テーブルを挟んで、オレも簡素な木の丸イスに座る。ハルシアの大切な話オーラに気圧されて、微妙に縮こまる。
「これを、ご覧ください」
ハルシアの細い指が、膨らむ胸元へと入る。何かを握って、取り出す。開いた華奢な掌には、半分に割れた不思議な模様のコイン、みたいな綺麗なペンダントがある。
「まさか?! そいつは!」
今度は、オレが驚いた。プリシアのペンダントにそっくりだった。それぞれが二つに割れたコインの片割れで、二つを合わせて一つになると、一目で分かった。
「わたくしには生き別れた双子の姉がいる、と聞いています」
ハルシアが、静かに語り始める。
「双子の姫は王国を裂く。王家に古くから伝わる言葉です」
気を落ち着かせるように、一つ呼吸を置く。
「王国の将来を憂えた父王は、双子のうちの一人を産まれなかったことにして、乳母に預けて辺境へと追放しました。そのとき、いつか迎え入れるための証として、王家に伝わる二つのペンダントの片方を持たせたそうです」
オレは恐る恐る、手にしたペンダントと、ハルシアの手にあるペンダントの縁を合わせる。模様がピッタリと合う。本当に、一枚のコインを二枚に割ったように、寸分の狂いもなく、合う。
「あぁ、まさか」
ハルシアが、一瞬、声を詰まらせる。苦しげで、つらそうで、嬉しそうでもある。
「リードさんが、わたくしの生き別れの御姉様でしたなんて!」
「男だけどな」
ハルシアの天然のボケに、素早く正確なツッコミを入れた。
「……? ……っ!? ……っっっ???!!!」
ハルシアの顔が、恥ずかしさに真っ赤になった。
◇
オレの過去を知ったハルシアが、丸テーブルに両肘をついて、祈るように両手を組む。
「そうでしたのね。リードさんは、そのように辛い目に御遭いになりましたのね。あぁ、それに、御姉様は、どこかで幸せに暮らしていると、いつかは会えると、信じていましたのに」
ハルシアの目から、悲しみの涙が零れた。
オレは泣けなかった。涙は、とっくに枯れた。泣くしかできない子供でも、なくなった。
華奢な手にあるペンダントが、再びオレの前に差し出される。
「このペンダントには、とても古い伝承があります。かつて、王族の一人が勇者と共に魔王に立ち向かった、と。再び王国が滅びかけるとき、二つのペンダントが揃い、王国を救う鍵になる、と」
オレは、戸惑いながら、自身の手にあるペンダントを見る。幼馴染みのプリシアの、形見である。急に、王国を救う鍵の片割れ、なんていわれても困る。
王国が滅びかけるとき、とは魔物の溢れる今なのだろう。帝国が魔王を復活させた結果こうなった、とも聞いた。
でもやっぱり、このペンダントは形見なのだ。プリシアの思い出で、オレを庇ったプリシアの背中、最期の光景なのだ。
「わたくしは、やはり、帝国と争うよりも、魔物のいない平和な世のために力を尽くしたいのです。突然にこのような話をして、困惑は重々承知しています。ですが、考えてみてはいただけませんでしょうか?」
ハルシアが、華奢な手にあるペンダントを、ギュッと握った。オレの手にあるペンダントも、オレの手ごとギュッと握った。
「わたくしは、王国の伝承に従って、王女の役目を果たします。リードさんには、本心では、御一緒していただきたいです。それが叶わないのでしたら、必ず御返ししますので、そのペンダントを御貸しいただけないでしょうか?」
「……ちょっと、考えさせてくれ」
オレは、答えられなかった。皆の平和のために何かできるのなら、できる限り協力したい気持ちはあった。でも、他の何より、プリシアの仇を討たなければ、他の何もできなかった。
今を生きるハルシアが大事なのか、過去に生きたプリシアが大事なのか、迷って、決めかねていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第91話 EP11-1 進む路/END
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