第90話 EP10-16 ホワイトウルフ
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
「壁に開いた穴から出ます。近くに、仲間たちを待機させてあります」
レジスタンス副団長のシャティエが、興奮気味に説明した。
「そんなとこで合流するのか? ホワイトウルフが出て危ないと思うぜ?」
オレは、目を逸らし気味に聞き返した。
シャティエには、尊敬の熱い眼差しで、ずっと見られてる気がする。我ながら自意識過剰である。
「リード殿がいらっしゃれば、問題ありません! 凄腕の魔物ハンターが同行してくださって、とても心強いです!」
シャティエが、絶対の信頼を乗せたキラキラと輝く瞳で、オレを見つめる。そこまで信頼されると、ちょっと照れると同時に、ちょっと困る。
「ハァ、ハァ。リードさんも、エレノア御母様も、とても頼りにしています」
オレに手を引かれるハルシアも、息を切らせながら賛同した。
町中から、大砦を囲む壁の方へと、だいぶ走った。人は減ったが、まだまだ多い。ここでも、人々は混乱し、半狂乱の悲鳴で逃げ惑っていた。
おっとりしたハルシアが混乱に巻き込まれないように、はぐれないように、手を握り、引く。か弱く細く小さな手をしている。
「姉よ」
「師匠な」
エレノアの渾身のボケに、素早く正確なツッコミを入れた。
この辺りは、壁近くの、平たく言えば貧民街である。
人々は貧しく、裾のところどころ破れた麻布の服を着る。今日を生きるのが精一杯で、生活に余裕なんてないから、髪も肌も汚れる。
粗末な木板の家がゴチャゴチャと建ち並ぶ。乱雑に家を建てるから、道が狭く入り組む。
それでも、整備された町中と同様に、人々が混乱し逃げ惑うのだ。パニックの度合いは、こっちが上だ。
「衛兵相手に大門を突破するよりは楽かもね。どうせ、壁の外にはホワイトウルフがいるのだし」
エレノアが微笑して、近くにあがるドス黒い煙を見あげる。いよいよ、逃げ惑う人々とは逆方向に、人の流れを掻き分けて進む。
「イヤァァァァッ!」
ことさらに切羽詰まった悲鳴が聞こえた。
オレは、ハルシアの手を放して、悲鳴の方へと弾かれたみたいに駆け出した。
◇
誰もが、必死の形相で駆け抜ける。勢い余って転ぶ。倒れた誰かに躓いて転ぶ。
老若男女の悲鳴が入り混じる。後ろを向いて全力で走ってくる男を、横へとステップを踏んで躱す。
「……こりゃ、マズいな」
オレは、足をとめた。頭に被る土色の布を外し、捨てた。赤いマントを翻し、腰の長剣を抜いた。
「ガウガウッ!」
ホワイトウルフだ。見た目は白い狼の獣型で、単体じゃあザコだが、数体から千体以上が群れで動く、北の大砦周辺では最大勢力の魔物だ。
ボロ屋のボロい板壁に挟まれた、町の入り口みたいな広場である。足元は踏み固めた土で、道端にボロボロの茣蓙が並ぶ。
前方、道の終わりにホワイトウルフが五匹いる。その先は、町と壁の間の、安全確保用の空き地になっている。さらにその先には、大砦を囲む壁と、壁に開いた大穴と、大穴から次々に侵入するホワイトウルフどもが見える。
「マズい! マズい! マズい!」
思わず、声に出た。
ホワイトウルフどもは、獲物の様子を窺うようにウロつく。道には、逃げようとして転んで、逃げ遅れた人々が倒れる。あちこちに、何人も、倒れている。
オレは駆け出す。正面の一匹に斬りかかる。
こんなの、オレ以外が狙われたら終わりだ。守れるわけがない。オレ一人が狙われるように仕向けるしか、全員を守る手段がない。
「ふっ!」
気合一閃、長剣で袈裟懸けに斬りおろした。ホワイトウルフは避けようともせずに斬られ、消えて宝石が落ちた。
魔物は人を恐れない。一匹目は警戒せずに斬られてくれた。運が好い。
「ガウッ! ガウッ!」
大穴の方から駆けてきたホワイトウルフが四匹加わって、八匹になった。
倒れた人たちは、まだ何人も倒れたままだ。怯えて、立つこともできずにいるのだ。
マズい。ダメだ。ムリだ。
「このっ!」
次のヤツは、後ろに跳んで剣を避けた。空振った剣が、虚しく風切り音を鳴らした。
問題は、ここからだ。
ホワイトウルフ八匹が動き出す。空き地に散開し、獲物を逃がさないように包囲を広げる。完全に、連携する集団の動きである。
「リード! 右の二匹は私が倒す! 左の一匹は、シャティエに時間を稼がせるわ!」
エレノアが参戦した。包囲の右の端、ホワイトウルフ二匹に斬りかかった。
包囲の左の端には、シャティエが斬り込んだ。
エレノアは、二匹相手に互角に渡り合う。やっぱり頼りになる。
シャティエは剣を振りまわし、一匹相手に必死に身を守っている。時間稼ぎしかできないだろうけど、時間稼ぎくらいはしてくれると思いたい。
残る五匹が、オレに一斉に襲いかかる。
一匹が正面から飛びかかる。二匹が左側に回る。一匹が右側、もう一匹は右側から背後まで回り込む。
「たっ!」
正面のヤツを、剣を横薙ぎに斬り払った。消えて宝石が落ちた。
ほぼ同時に、左から一匹が飛びかかる。オレの首を咬み千切ろうと、白い牙の並んだ口を開ける。剣は右に振り抜いてしまったから、引き戻しても間に合わない。
ホワイトウルフは、一対一ならランクBの魔物ハンターでも勝てる、くらいのザコだ。でも、群れとなり、統率され、連携を取り、犠牲を厭わぬ強兵となれば、強いだけでは勝てない、人数が多いだけでも勝てない、凶悪な強敵となるのだ。
「ちっ!」
左腕を盾にして、咬ませる。鎧の板金の部分で受けたから、貫通はされない。鉄の板金が歪み、革鎧に牙が食い込み、骨が軋む。
「ぐぅっ!」
呻きながら、振り抜いた剣を逆手に持ち替える。背後から飛びかかってきたヤツに、音と気配を頼りに突き立てる。
「ガフッ」
どこか嘲笑うように吠えて、背後の気配が消えた。
間髪入れず、右のヤツが飛びかかる。白い牙で、オレの首を正確に狙う。左腕に咬みついたヤツが体を振って、オレのバランスを崩す。
終わった。オレ程度では五匹同時はムリだった。即死しなければハルシアの回復魔法で万一助かるかも、いや、この混乱の中ではないか。
「リード!」
二匹を相手に戦うエレノアが、手にした長剣を、オレの右のヤツに投げ刺そうと構える。
助けようとしてくれる気持ちは嬉しい。でも、それをやるとオレの代わりにエレノアさんが死にそうだから、やめてほしい。
「ギャフッ!?」
右から飛びかかってきたヤツが、戸惑うように吠えて消えた。宝石が落ちた。
一瞬だけ遅れて、ガツンッ、と土の道に握り拳大の石が突き刺さった。
何が起きたか分からなかった。誰かが助けてくれたことだけは、分かった。
大穴から入ってくるホワイトウルフが、次々と消える。踏み固められた土の地面に、次々と石が刺さる。
まさか、道に刺さる威力で投石してるのか。こんなバケモノ染みた所業は、本物のバケモノか、ランクS以上のハンターに決まっている。
「おい! アンタら、今のうちだ! ハンターギルドに避難するんだ!」
オレは、弾む声で、転んだまま怯える人たちに呼びかけた。高ランクハンターの強さを目の当たりにして、興奮していた。
さすがのエレノアも少し驚いた様子で、剣を鞘に戻す。
シャティエは露骨にビックリして、キョロキョロと周囲を見まわす。
「あ、ありがとう!」
「助かった! 助かった!」
逃げ遅れた人たちが皆、オレたちの横を通り過ぎて、入り組んだ道の奥へと走っていった。
オレは、遠くの高い建物の屋上の、やたらキラキラと陽光を反射する誰かに手を振った。あれが助けてくれた高ランクハンターだと、魔物ハンターの勘が告げていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第90話 EP10-16 ホワイトウルフ/END
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