第77話 EP10-3 ハルシア
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
オレはリード。十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。
武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。帝国の北の端の森を拠点に、年上の女の魔物ハンター、エレノアさんと活動している。
その日のオレは、拠点の森で夕飯の獲物を探していて、魔物に襲われる少女を助けた。魔物はザコだったが、少女にプリシアの面影があって驚いた。プリシアが生きているはずがないのに、その少女はプリシアに似ているだけなのに、驚かずにはいられなかった。
「念のためだ、送ってやる。近くの小砦だろ? 帰り道は分かるよな?」
驚きを隠して、シスター服の少女に提案した。動揺があって、ぶっきらぼうな口調になってしまった。なんだか照れて、オレの顔はたぶん赤い。
「森の奥にある薬草が、トウダンの葉が必要なのです。一刻を争う患者さんがいらっしゃいます。苦しみに耐え、待ってくださっています」
少女が、真っ直ぐな瞳でオレを見あげる。真摯な口調が、本当だと告げる。
腰を抜かして座り込むのが惜しい。威風堂々の訴えであれば、不用心な少女と見縊ったことを謝罪している。勇敢なシスターだと称賛している。
「いいぜ、一緒に行ってやる。だいたいの場所は分かるか? オレはトウダンとやらの見た目を知らないから、護衛だけだぜ?」
少女に手を差し伸べた。
「まぁ! 感謝いたします! わたくし、ハルシアと申しますの、よろしくお願いいたします」
少女は喜び、ハルシアと名乗り、オレの手をとった。
しかしすぐに、動揺する。驚き、慌てる。
「……そ、そんなっ。こ、腰が抜けて、立てませんの」
ハルシアが、真っ直ぐな瞳でオレを見あげる。真摯な口調が、本当だと告げる。
「はははっ、そりゃそうか。一刻を争うんだよな? オレはリードだ、落ち着くまで抱えていってやるよ」
オレは笑って、ハルシアの手を握った。
◇
ハルシアをお姫様抱っこして、薄暗い森を進む。ハルシアは少し、申し訳なさそうな恥ずかしそうな顔をする。
「あ、あの、やはり、わたくし、自分の足で歩きますわ。リードさんの荷物になってしまって、心苦しいですし」
「魔物ハンターだからな。アンタくらいなら軽いもんさ。ただし、魔物が出たら、すぐに放り出すから覚悟しておいてくれよ」
笑って軽口を叩く。
背負わずにお姫様抱っこするのには理由がある。
魔物に遭遇したら、戦うために、ハルシア含めて余計な荷物は放り出す。背負った人を放り出すと、地面で背中や後頭部を強打する危険がある。しかし、お姫様抱っこなら、お尻を打って痛い程度で済む。
「はい。心得ましたわ」
ハルシアも、笑顔で答えた。
「あっ! あの、カンリンボクのところにお願いします。下草に交じって、トウダンが生えているはずです」
細く白い指が、森の中の、木々のうちの一本を指さす。オレには、他の木と見分けがつかない。同じに見える。
「おう。おろすぜ」
周囲を警戒しつつ、木に近づく。抱えるハルシアをゆっくりとおろす。地面に座り込んで一心不乱に草を掻き分けるハルシアの華奢な背中を見ながら、警戒を続ける。
帝国が王国を征服した頃から、国に魔物が溢れるようになった。
その前から、魔物自体は存在した。限られた地に、稀に出現した。
今は、国のそこら中に出没する。人々は、高く厚い壁で町を囲んで身を守る。壁の外は四六時中、襲われる危険が隣り合う。
「ありましたわ! トウダンです! 十分に採取できました!」
細く白い手が草を握って、オレの眼前に示した。他の草と見分けがつかない。似たような草に見える。
「よし。じゃあ、小砦まで送ってやる。帰り道は分かるよな?」
手を差し伸べる。
「もう、大丈夫ですわ。自分の足で歩けますもの。町までの護衛は、お願いいたしますね」
ハルシアが、ふらつく足で立ちあがった。オレの手に細く白い手を重ねて、微笑んだ。責任感があるけど自信はなくて、か弱くて、素直な印象の声だった。
オレは、この人はやっぱりプリシアではないんだな、と心のどこかで落胆していた。自信家で心が強くて意地っ張りのプリシアとは、正反対の少女だった。
◇
小砦の大門前に辿り着いた。森にほど近い、小さな小砦だ。
「ハルシア様! ご無事ですか!?」
大門横の通用扉から、金属鎧で武装した男が出てきた。二十代半ばくらいで、眼光鋭く体格もいい。
「あれほど! お一人で森に入ってはいけませんと!」
かなり動揺している。同時に、かなり安堵している。本当に心配したのだと、傍目にも分かる。
「トウダンを採ってきました。一刻を争います」
ハルシアが、凛とした瞳で、手にした薬草を示した。反論を許さない、力強い口調だった。
「心得ました。急ぎ案内を、手伝えるものは補助を! ハルシア様は、後ほどお説教させていただきます!」
男の指示で、ハルシアと数人が通用扉へと入っていった。
男は、残った。オレの前に佇んで、品の良い微笑だ。
「君が、ハルシア様を送ってくれたのだな? 自分は、自警団員のジラルドだ。仲間たちを代表して、礼を言う」
「いいってことさ。魔物ハンターの、リードだ。森で夕飯を探してたら、偶然手伝うことになっただけだぜ」
握手を交わす。男は、武器を持って戦う戦士のゴツい手をしている。かつては騎士か兵士だったのかも知れない。荒くれ者の多い魔物ハンターと比べると、礼儀正しいから、かつての王国騎士ってところか。
王国が帝国に敗れてから、まだ数年だ。かつては王国の騎士兵士だった民間人なんて、珍しくもない。
「もしや、森を魔物から守るハンターとは、君のことか。お陰で、少ない護衛で森の恵みを享受できている。病や怪我に苦しむ人々を多く助けられるのも、君のお陰だ」
「ああ、まあ、オレと師匠のエレノアさんの二人で、だけどな。面と向かって礼を言われると、照れるな」
握手する手をブンブンと、大きく振った。照れ隠しだった。
「アンタらと、あのハルシアさんって、病院でもやってるのかい?」
「少し違うな、壁近くの古い教会で、病院の真似ごとをしている。本格的な病院には負けるが、高額な治療費を請求することもない。リード殿も、困りごとがあれば、いつでも訪ねてくるといい」
ジラルドが、品良く微笑した。内容的には教会関係者だが、見た目も話し方も聖職者っぽくはなかった。やはり、位の高い厳格な騎士のそれだ。
要するに、エレノアさんの口の悪くない男バージョンだ。
「今は手持ちがないゆえ、後日、改めて礼に訪ねよう。ハルシア様も礼節を重んじる御方。治療が一段落すれば、正式に感謝を伝えたいとお考えになるはずだ」
「礼なんていらないって。それに、家は森の中にあるから危険だぜ。気が向いたらオレの方から教会に顔を出すから、そんときでいいさ」
オレは、夕焼けに染まり始めた空を見あげて、笑顔で答えた。
「そうか、楽しみにしておく。師匠の方も一緒に来ていただけると嬉しい。貧乏教会でも、歓迎の食事くらいは出そう」
ジラルドも、笑顔で応えた。欠片ほどの自虐も嫌味もなかった。
気品があって礼儀正しくて、やっぱりエレノアさんより遥かに育ちも性格も良さそうだと、オレは考えを改めていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第77話 EP10-3 ハルシア/END
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