第74話 EP9-18 英雄と裏切者
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「何だったの、いったい……」
アタシは困惑しながらも、勲章授与式の会場を見まわす。天井が遥か高く、太い石柱が一定間隔で並ぶ、石造りの大きな部屋である。広い室内は、帝国の騎士兵士たちで埋め尽くされる。
ノルトリアに礼を言う、は達成した。アタシの本命は、スピニースさぁんを捜ぁす、だ。
「おっ! キュートな新人最強見習いちゃんじゃん! こっちこっち!」
短い金髪を逆立てた、長身の細マッチョが、色男を気取った笑顔で手を振っている。金色の羽根を縫い合わせた金色の翼みたいな、派手派手な袖なしロングコートを臆面もなく着ている。
見た目同様に口調も軽い。チャラ男だ。あまり好きになれないタイプだ。
好きになれないタイプだが、アタシに手を振っている気がする。キュートで新人で最強見習いでキュートとなると、この会場にはアタシしかいない。うん、何度見まわしても、アタシしかいない。
「あっ、一目瞭然だけど、一応は自己紹介しとくっしょ。我は最強の魔物ハンター、『ヘブンズソード』なり、ね。よろしく」
軽い細マッチョ男が、人混みを擦り抜けて歩み寄り、軽い口調で自己紹介した。
アタシはビックリした。ちょっとショックだった。こんなのが、最強と評される魔物ハンターの一人、その中でも最強と噂される『ヘブンズソード』とは落胆、格好いいイメージが完全崩壊だ。
でも、まぁ、『清楚なる白百合』も大概、最強の一人のイメージ崩壊だったから今さらか。
「アタシは、ランクSSになったばかりの、『ピンクハリケーン』よ。こちらこそ、よろしく」
ヘブンズソードと握手を交わす。最強の剣士とも名高い男の手は、力強くはあってもゴツゴツはしていない。筋肉質で、しなやかである。
固定パーティらしき魔物ハンターを、三人従える。見た感じ、有名どころはいない。
最強の名に隠れて仲間は無名、なんてよくある。清楚の相棒のソイユニも、優秀なサポート役でありながら、全くの無名である。
ムキムキマッチョの重装男戦士と、アタシより年下のフリルローブの女の子、アタシより少し年上のシスターローブの眼鏡少女がいる。
パステルグリーンのフリルローブは、魔法使いで間違いあるまい。黒のシスターローブは、戦闘能力皆無の雰囲気だし、ヒーラーと見る。
さすがは最強、超高給取りのヒーラーを仲間に雇えるのか。富豪だ。
「ところで、スピニースさぁんがどこにいるか知らない? 昔、パーティを組んでたって聞いたわ」
とりあえず、聞いてみた。
フリルローブの女の子が、ヘブンズソードとの間に割って入る。アタシの平らな胸を指さし、口を尖らせる。
「スピニースきゅんを狙おうなんて、身のほどを知らない女ね! スピニースきゅんは、人間のお子様なんか相手にしないんだから!」
女の子特有の高い声で、喧嘩を売るような棘のある口調だった。
「何よ? アンタだって、人間のお子様じゃない」
恋のライバルの突然の登場に、アタシも思わず喧嘩腰で反論した。
客観的に見ると、俎板と俎板の不毛な罵り合いである。冷静に考えても、自分はダメだがお前はもっとダメだ、みたいな虚無な背比べである。
いや、やめよう。考えたら、悲しくなってきた。考えるのは、苦手だ。
「スピニース君なら、もう城を出ちまったっしょ。帝国軍人は亜人種を毛嫌いしてるからね。ふっ、俺は忌まわしき英雄のようだな、ってさ」
ヘブンズソードが、声や口調を真似た。軽すぎて、ストイックなスピニースさぁんには全く似ていなかった。
「それを早く言ってよ! じゃあね! 一緒に戦えて、良かったわ!」
アタシは短く感謝して、ヘブンズソードに背を向けた。廊下へと駆け出した。スピニースさぁんのいない城になんて、もう何の用もなかった。
◇
赤い短髪の女が、将軍の執務室の中央に立つ。帝国騎士の、黒鋼のプレートメイルを纏う。
執務室の主であるコルトルは、己のデスクに着いて、飾りのない木のイスに深く座り、女を見つめる。
かつてはコルトル同様に帝国の将軍だった、エレノアという女である。三十歳手前くらいになると記憶している。飾りっ気がなくて、眉が太く凛々しく、生真面目な性格である。
「御無沙汰しております、コルトル将軍。この度は、私めの突然の我が侭をお許しいただき、感謝いたします」
エレノアが、仰々しく頭を垂れた。
「互いに将軍、同じ階級である。一切の気遣いは不要である」
コルトルは、威厳ある真顔で、低く渋く答えた。
護衛の騎士はいない。石造りの殺風景な執務室に、コルトルとエレノアの二人だけがいる。
「同等などと滅相もございません。コルトル将軍は、この数十年、帝国を支えていらした帝国の武の象徴です。お飾りの皇帝のために命を投げ出す忠臣は数えるほどしかいないでしょうが、帝国軍人の大半が、将軍の御命令ならば死を恐れずに喜び勇んで戦います」
微笑するエレノアのハスキーボイスに、コルトルはしばし黙する。のち、最後の迷いを捨てた顔で、口を開く。
「エレノア将軍には、儂の後継として、その『帝国の武の象徴』となってもらいたい。特命の作戦行動中ならば、引継ぎを手配しよう。行方を晦まさざるを得ない理由があるのなら、将軍に返り咲く手伝いをしよう」
勿体ないほどの申し出だ。帝国最強の将軍が、その後を継いでほしい、ときた。
「将軍ならば、他に三人もいらっしゃるでしょう。私めの出る幕などありませんよ」
「領地を捨てて敵前逃亡したシュッツ、軍事費を宝石集めに浪費するハーシャーリア、責務を放棄して魔法研究に没頭するボネット。このうちの誰に、帝国の未来を任せられる?」
コルトルが、渋い顔で嘆息した。
エレノアは、大口を開けて爆笑する。
「あっはっはっ! 帝国も、たったの数年で落ちぶれたものですね。いやまあ、情報としては知っていたのですが」
笑うのをやめる。左手の親指で、カチリと、長剣の鯉口を切る。カチンと鳴らして、鞘に納める。
「そう思うのならば、なおさら、軍に戻ってもらいたい。正体を隠してまで参戦したのは、帝都を守るためであろう? 帝国の行く末を憂えたからであろう?」
「違います。お人好しの怪力トロール女に恩を返しにきただけです。私たちレジスタンスの不手際で危機に陥った北の大砦を、知らぬ間に、頼みもしないのに、救ってくれたので」
即答して、微笑する。腰の鞘から、ゆっくりと長剣を抜く。
刀身と鞘が擦れて、冷たく低い金属音が鳴った。空気を、鼓膜を、鈍く重く震わせた。
コルトルが、険しい顔でエレノアを見る。察し、理解し、無念と俯く。
「ええ、お察しの通りですよ、コルトル将軍。私は、魔王の復活を目論んだ帝国を見限って、裏切ったんです。ですから、この千載一遇の好機に、帝国最強の将軍、あなたの首を頂こうかと思います」
エレノアは、デスクの前に立って、剣を振りあげた。
「今さら、儂の首を取って何になる? 近づくこともままならぬ帝都、安否すら曖昧な皇帝陛下、国を守らぬ三将、この老いぼれを最強と祀る軍部。帝国は、放っておいても滅ぶのである」
「先ほど申しあげたではないですか。ちゃんちゃらおかしいですが、全盛期をとうに過ぎたコルトル将軍こそが、『帝国の武の象徴』なのですよ。あなたを失えば、帝国軍は勝手に崩壊します」
エレノアは、冷たく微笑する。冷え冷えとした視線を、コルトルに固定する。
「……よかろう。こんな老将の首で良ければ、好きに持っていけ」
コルトルが、覚悟を決めた。微塵の恐怖もない、潔い将軍の顔だった。
「さすがはコルトル将軍。最期まで御見事です」
剣先を、振りおろした。迷いなんてなかった。数多の迷いは、このときのために捨て続けてきたのだ。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第74話 EP9-18 英雄と裏切者/END
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