第73話 EP9-17 終戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
戦いは終わった。西の大砦を囲む荒野を、魔物どもが去り始めた。
大型も小型も、足並みはバラバラに、一様に疲れた背中で、引き摺るような足取りで、荒れ地を遠退く。
「アンタも、もういいわよね? たぶん、戦争は決着したわ。アンタだけ残っても、意味ないわよ」
アタシは、ネコ顔でキョロキョロするワータイガー最上級に、撤退を勧告した。
何というか、敵ながら憎めない感じがある。デカくて凶暴ながら、好奇心に満ちたネコみたいな表情をしている。どうにも、助けられた気もする。
「グルルル」
ワータイガーが、魔物側のボス、触手の集合体がいた辺りを凝視する。肉球を目の上に翳して、強い日差しを遮る。アタシの方を向く。
「ガウッ、ガウッ」
笑顔みたいなネコ顔をした。黒い模様の入った黄色の、長く美しい毛皮の腕を、白い毛皮の拳を握って、アタシの前に突き出した。
言葉としては、意味不明だった。魔物の言語なんて、ワータイガーの言葉なんて、ただの魔物ハンターの、人間のアタシに分かるはずもない。
でも、声音で分かった気がした。一度でも拳を交わした者同士に芽生える、絆みたいな感覚だ。
「いいわよ。アンタは、いつか、このアタシが倒す。それまで、他の誰かに倒されたりしないでよね」
アタシも笑顔で、拳を突き出した。きっと、ワータイガーも同じ思いで、同じことを言ったのだ。いつか、アタシとの決着を望むのだ。
「ガウッ!」
ワータイガーの拳とアタシの拳が、軽く打ち合った。
ワータイガーは、そして無言で背を向けた。長く美しい毛を強風に靡かせて、荒れ地の遠くへと、煙る砂埃の中へと去っていった。
◇
戦勝ムードというやつか。
「コルトル将軍、万歳!」
「我らが帝国に、栄光あれ!」
石造りの城内を、酔っぱらった騎士兵士たちが擦れ違う。誰もが誰かと肩を組み、無事を喜び、勝利を祝う。浮かれ、歌い、千鳥足で通りすぎる。
「おい、ピンクハリケーン!」
フォートレスに、重低音で呼びとめられた。
フォートレスは、鉄色のフルプレートメイルで全身を覆う、マッチョの巨躯の大男だ。戦勝ムードの城内でも、素顔はフルフェイスヘルムの中だ。
「授与式には行かんのか? 功労者には勲章をくれるそうだぞ」
「ん~。帝国の勲章なんて貰ってもねぇ。それに、アタシは、魔物の一匹も倒してないし」
結局、ワータイガー最上級の相手しかしていない。しかも、倒すどころか、傷の一つもつけられなかった。誇張なく、魔物退治数、無しだ。
「自軍の奥の手よりも先に敵の奥の手を使わせる。そういう勝負であった。その意味で、オヌシが勝ちを決めたも同然なのだぞ」
「そうなの? 何それ? ちょっと分かんないわ」
「やはり、作戦を聞いておらんかったか!」
フォートレスが、愉快愉快とばかりに、重低音で豪快に笑った。
アタシは、首を傾げた。自分が何を分かっていないのかも、分かっていない。
「いかな強者も、未知の能力の対処は難しい。実力が拮抗するならば、先に手の内の露呈した方が負ける」
「それくらい、アタシも知ってるわよ」
「帝国軍に先に奥の手を使わせるために、飛竜とワータイガー最上級がおったのだ。しかし、二体とも役割を果たせなかった。ゆえに、あの未知の帝都周辺レベル、無数の触手の塊は、先に奥の手、空間跳躍を使わざるを得ない状況に追い込まれた」
「ああ、うん。なるほど?」
飛竜を倒したスピニースさぁんは凄い!偉い!は、朧気ながら理解できる。理解したフリをする。難しいのは、苦手である。
「さては、全く分かっておらぬな! ピンクハリケーンらしいといえば、らしいか!」
フォートレスが、愉快愉快とばかりに、重低音で豪快に笑った。
よく分からないことで笑われて、釈然としない。でも今は、他に最優先事項があるから、いつまでもフォートレスと問答はしていられない。
「ま、まぁ、いいんじゃない? それより、スピニースさぁんを見なかった?」
アタシは、興味もないと曖昧に答えて、キョロキョロと周囲を見まわす。スピニースさぁんとは戦争当日に、飛竜は任せろ、と一言貰っただけである。その数秒以外は、顔を見てもいない。
「そう言わず、ノルトリア殿に感謝を伝えるくらいはしておけ。おおいに助けてもらったのだ」
「それは、そうね。あっ、スピニースさぁんも功労者だしぃ、会場にいるかもぉ」
考え至って、思わずカワイイ声が出た。アタシは緩んだ笑顔で、石造りの廊下を駆け出した。フォートレスが何か言いかけたが、気にも留めなかった。
◇
「ノルトリア大佐に、もう一度、称賛の拍手を!」
広い部屋に、ワッ、と歓声があがる。たくさんの拍手が合奏する。
石造りの、大きな部屋である。天井が遥か上にある。壁には、一定間隔で太い石柱が並び、大きな飾り窓から陽光が差す。
「うふふふ。皆様、ありがとうございます」
ちょうど、ノルトリアに勲章が授与されたところだ。
ノルトリアが、広い部屋を埋め尽くす騎士兵士たちの間を、誇らしげに歩く。勲章を見せびらかして胸を張り、歓声に応えて手を振る。貴族的で、上品で、可愛らしい令嬢の声をしている。
アタシは、ビックリした。ノルトリアの人物像が、戦場と違った。
帝国騎士の、黒鋼のプレートメイルを纏ってはいる。黒鋼のハーフヘルムは被っていない。腰まである長い青髪で、毛先が外向きに跳ねる。
アタシの知るノルトリアは、口が悪くて、ハスキーボイスで、赤い短髪の女騎士だ。自らの命すら勝つための手駒に勘定する戦闘狂だ。
でも、まぁ、礼は言っておきたいので、戸惑いながらも声をかける。
「やっ、ノルトリア。戦場で助けてもらったし、ありがとくらいは言っておこうと思って。それにしても、雰囲気が違っちゃ」
「しっ! ユウカ様! お話は、こっ、こちらでお願いします!」
ノルトリアが慌てふためいて、黒鋼のガントレットでアタシの口を塞いだ。手を引いて、石柱の陰へと連れ込んだ。
黒鋼のガントレットを押しのける。声が困惑する。
「急に、どうしたの? アタシ、何かマズいこと言った?」
「これは、内密にお願いしたいのですが。実は、あの戦場にいたのは、私ではありませんの」
「えっ?! そうなの?! ムグッ」
ビックリした。思わず大きな声が出た。慌てたノルトリアに口を塞がれた。
「本当に他言無用でお願いします。昔の上官がふらっと現れて、ずっと生死不明の行方不明でしたのに、本当にふらっと現れて、代われ、とおっしゃったのです。上官は私よりも遥かに優秀な指揮官でしたので、あっ、怖かったとか自信がなかったとかではなく、本当に優秀な指揮官でしたので、その方が良いと判断しましたの」
ノルトリアが手を放し、大扉へと足早に向かう。
「くれぐれも、くれぐれも、内密にお願いします」
念を押して、大扉から出ていった。
「何だったの、いったい……」
アタシは、困惑していた。何だったのか、分からなかった。今日は分からないことばかり起きる日だな、と思った。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第73話 EP9-17 終戦/END
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