第69話 EP9-13 求道
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
ピンクハリケーンの協力要請を受けて、スピニースは西の大砦へと辿り着いた。強風吹き荒ぶ空に飛竜が飛び、人間と魔物の戦争が今まさに始まろうとしていた。
◇
「おい、エルフ! こっちだ、早くしろ!」
横柄な帝国軍人の案内で、塔の屋上に出た。油断すれば吹き飛ばされそうな、強い風が吹き荒れていた。
すでに、魔法使いらしきローブを纏う軍人が数人いる。スピニースを見て、嫌悪の目をする。舌打ちも聞こえる。
「おい。コルトル将軍は本気で、このような輩に協力をお求めになったのか?」
「亜人種どもは魔物の眷属と聞くぞ。今まさに迫りくる魔物どものスパイかも知れんのだぞ。我らが帝国に仇なす前に、今この場で、我らの手で排除すべきだ」
「同意する。そもそも、魔物ハンターなどという無法者の介入を許すべきではなかった。帝国最強の将軍も、すっかり衰えられた」
嫌悪の目に、憎悪すら混じる。殺気が漂い、一つに纏まろうと集まる。
「やめぬか、愚か者ども。このエルフへの協力は、コルトル将軍直々の厳命である。将軍の御命令に私情を挿むとは、身のほど知らずが過ぎよう」
ローブの軍人の一人が、他の軍人たちを制した。帝国の剣盾の紋章の金の留め金をした、丸い片眼鏡の男だった。
プライドの高い学者風で、痩せて、背が高い。目には、他の軍人同様の嫌悪がある。他の軍人が黙ったのは、この男が、この中で最も高い地位にあるからだと見受ける。
実際、エルフを含む亜人種は、帝国では魔物の眷属と噂される。根も葉もない噂であっても、魔物に苦しむ人々には、怒りの矛先として妄信される。
迷惑な話だ。特に、鈍重な筋肉信仰のドワーフや、能天気で品性のないケモ耳どもと一括りにされるのが迷惑だ。亜人種は魔物の眷属などではなく、人間の亜種でもなく、亜人種という括りですらなく、エルフはエルフという種族なのだ。
「……ふぅっ。で、状況は?」
スピニースは、溜め息一つで怒りを消す。怒りで解決できる問題なら怒りもするが、怒りで好転する状況なんてありはしない。
まずは、聞かずに分かる状況を確認する。
ここは、西の大砦の中央、質実剛健なる重厚な城の、一番高い塔の屋上だ。
風が強い。高所、荒れ地に囲まれ、空気が乾燥、と条件がいい。
前方、まだ遠くに、飛竜が空を飛ぶ。最強の魔物ハンターの一人『ヘブンズソード』のパーティメンバーの頃に、戦ったことはある。あの頃は実力不足で、戦力になれなかった悔しさを思い出す。
飛竜の下方には、魔物の集団が見える。同一種の群れではない。複数種類の魔物の集団である。
「見ての通りだ。西の大門の前に布陣した帝国西部軍精鋭千人が、間もなく魔物の集団と開戦する」
金の留め金の男が、ローブの裾から指さす。その先を見る。大砦を囲む高い壁の向こうで、人間の布陣は視認できない。
「飛竜の炎の一撃目は、全員が装備した耐火マントで防ぐ。ただし、耐火マントには一回を防ぐだけの耐久力しかない。よって、我々の任務は、炎の二撃目から友軍を死守することである」
堅苦しい喋り方の男だ。立ち居振る舞いも堅苦しく、いかにも軍人らしい。
固い雰囲気に中てられて、こっちまで息が詰まる。騎士の暑苦しさがないだけマシか、とは思う。魔法使いの理屈っぽさが耳に障るから変わらないか、とも思う。
「分かった」
無表情に答える。大弓の状態を確認する。植物の蔓を模した装飾の、愛用の武器である。
「コルトル将軍の厳命ゆえ、我々、帝国西部軍魔法部隊が助力する。任務遂行に必要な要求であれば、遠慮なく言え。可能な限りの助力は惜しまん」
「あぁ、頼む」
金の留め金の男ですら、苦虫を噛み潰したような表情で、スピニースと話す。こんなにも、亜人種は帝国軍人に嫌われる。
奇異の目で見てくる町の人間はまだマシか、と思う。エルフのスピニースにとって、人間の生活圏は、まだマシ、に満ちている。普通に接してくるピンクハリケーンたちが、特殊なのである。
◇
「おい! 飛竜が動くぞ!」
ローブの軍人の一人が、屋上の石の手すりから、西の空を指さした。
全員が、西側の手すりへと急ぐ。ローブの軍人たちは、強い風にローブを煽られ手すりにしがみつく。
西の大門へと飛来する飛竜を、固唾を飲んで凝視する。
「あの距離で、あの巨体か! 計測と計算、急げ! 滅多にない機会だ、可能な限りのデータを取れ!」
慌ただしく、動き始めた。協力する気があるようには、見えなかった。
「ふっ」
微笑した。もとより、一人でも挑む気構えだった。問題はない。
エルフの視力であれば、見える。飛竜の、鋼よりも硬い鱗に覆われた胸部が、激しく赤熱する。爬虫類を連想させる口に炎が溢れる。
「火を吹くぞ! 全員、記憶に焼きつけろ! 細部まで観察しろ!」
遠くに見える西の大門の、さらに向こう側に巨大な炎が広がった。火を吹くなんて規模ではなかった。城よりも遥かに大きな炎が生み落とされ、高い壁すら呑み込んで荒れ狂い、設置された大型武器を焼いて、数秒で消えた。
「……」
静まり返る。強い風の音だけが鳴る。
「……何だ、あれは?」
「あれを、我々の魔法で、どうにかできるのか?」
絶望の声が漏れる。蒼褪めて、顔を見あわせる。
初見では妥当な反応だ。
最初は、誰でも絶望する。生存を諦めてなお、運良く生き残れば、抗う手段を考える権利を得られる。もちろん、権利を放棄して逃げてもいい。
対抗策の模索だけで一年は悩める相手だ。一年悩んで、対抗は不可能だと諦めるのが正常だ。
腰の矢筒を確認する。十本の矢を、一本ずつ確認する。
「あんなものが、魔物だと? あの常軌を逸した火力を、たった一体の魔物が振るうのか? あれでは、まるで、神話に語られる神ではないか!」
ローブの軍人の一人が、追い詰められた目で、声を荒げた。
「あれは、我々の魔法であっても太刀打ちできぬ。コルトル将軍に、即時の撤退を進言すべきだ」
「空を飛び火を吹く敵だぞ。どこに撤退すると言うのだ? この城であろうと、安全ではないのだぞ」
「火吹きの間隔は長くはない、と資料にあった。城まで後退する余裕などあるまい」
比較的年長と見受けるローブの軍人たちが、深刻な面持ちで議論を始めた。
悠長なことだ。火蓋は切って落とされた。一瞬の判断が勝敗を分ける戦場で、結論の出ない議論に何の意味があるのか。
「ふっ」
一本の矢を手に取り、微笑する。
初めて飛竜と相対し、自身の無力を思い知らされたあの日から、竜を倒す方法を模索した。退屈しなかった。模索の果てに、自分にその力はないと結論した。
だが、そこで諦められるほど、正常ではなかった。
「なぁ、あんた。この石の魔力を、発動してくれないか?」
スピニースは、金の留め金の男に、手にした矢を示した。この男に声をかけたのは、比較的に話が通じそうだと、単純な判断からだった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第69話 EP9-13 求道/END
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