第64話 EP9-8 開戦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「いよいよ! 迎撃戦の開幕である!」
コルトルが拡声器を片手に、低く渋い声で、高らかに鼓舞する。
布陣を完了した騎士兵士たちが、そのままの姿勢で耳を傾ける。
「ここに集う千人は、選ばれし精鋭である!」
耐火マントが千枚しか調達できなかった、とフォートレスから聞いた。一回だけ火を防げるだろう性能だそうだ。
一回だけと聞くと、安物っぽく感じる。でも、飛竜の吹く炎を一回だけでも防げる、のは高額で高性能の魔法品である。
だから、耐火マント千枚で守れる千人が、主力の人数の上限だ。それ以上いても、最初の炎で焼き払われるだけだ。
最初の炎を耐えられれば、次の炎が来るまで敵と戦う権利が得られる。
竜といえども、火を吹くには燃料のチャージが要る。竜としては小型の飛竜は、チャージに比較的時間がかかる。
炎を一回防ぎ、次の燃料のチャージが完了して二回目の炎を吹く前に、飛竜を倒す。
それが、勝算を生むための最低条件となる。勝利は、果てしなく遠い。
「諸君であれば、必ずや、帝国を脅かす魔物どもを殲滅できる! 帝都にいらっしゃる皇帝陛下を、お守りできる! この世で最も尊い皇帝陛下のために、その命を捧げよ!」
帝国の将軍の演説だ。ありきたりで、マニュアル的だ。顔も知らない皇帝陛下とやらのために、どのくらいの力が出せるというのだろうか。
『うおーっ!』
コルトルの鼓舞に、騎士兵士たちが鬨の声を返した。
コルトルが、気難しそうな老将の顔で、口元の拡声器をおろす。
すぐに、老剣士の微笑で、拡声器を口元へとあげる。
「あー、しかし、魔物どもは、帝都より先に、この西の大砦を通るのであるな? ならば、已むを得ん、皇帝陛下の前に、ここに共に暮らす人を思え! 家族を、友を、大切な人を、そして自らの命を守るために、全力で戦い、足掻け!」
『うおーっ!』
騎士兵士たちから、一回り大きな鬨の声が返った。
「うおーっ!」
アタシも一緒に、声の限りに応えた。コルトルが帝国最強の将軍と呼ばれる理由が、少しだけ分かった気がした。
◇
「ねぇ、コルトル。アタシ、まだ、耐火マントを貰ってないんだけど」
偉ぶった騎士たちと最終確認をするコルトルに、横から声をかける。
「ユウカよ。お主は、軍属であるか?」
コルトルが、さも当然の表情で聞き返した。
「違うけど、協力するんだし、耐火マントくらい提供してよくない?」
「耐火マントはないが、喜べ。ユウカには、代わりに、あれをくれてやる」
コルトルが、あらぬ方向を指さした。
「あっちに、何が」
指さす先に、濃い土色の両刃の大斧があった。岩を彫ったみたいに、ゴツゴツとしていた。刃を下に、荒れ地に突き刺さっていた。
一目で、強烈な魔力付与武器だと分かる。将軍コルトルの腰の長剣と同等か、強い。
愛用の両刃の大斧は、ワータイガー最上級との戦闘で、たった一回の打ち合いで鉄屑になった。今は、武器なしだ。
アタシは、大斧に近づく。平らな胸の高さにある濃い土色の柄を握る。ゴツゴツとして、なんだかベタベタする。
「ユウカのために取り寄せた。帝都の近く、大地の大穴とも呼ばれた、超巨大アースワームの体内から」
「げげっ、アースワームじゃん! 要らない! 返す!」
アタシは大斧から手を放した。
「なぜだ!? 強力な魔力付与武器であるぞ!」
コルトルが驚くのは分かる。偉ぶった騎士たちも驚いている。
「だって、なんだかベタベタするし」
アタシは、意味不明な理由で断った。だって、なんだかベタベタするし。
「いいから、持っていけ。真に命懸けの戦場で、必ずや、ユウカの助けとなるのである」
老将の顔ではない。部下を心配する上司の顔である。魔物ハンターが魔物をよく知るように、軍人は戦争をよく知る。
「え~~~~~~~~」
だけど、アタシは駄々を捏ねた。アースワームは、生理的に受けつけない。だって、なんだかベタベタするし。
◇
「飛竜、来ます! 地上の魔物も、こちらに向けて加速!」
西の大砦の高い壁の上から、拡声器の声が響いた。
「迎撃準備! 炎を防ぐことに集中せよ! 炎を防いだのち、大型武器での反撃を開始する!」
コルトルが指示を飛ばした。
飛竜が来る。巨体で空を飛んで、あっと言う間に迫る。鋼よりも硬い鱗に覆われた胸部を赤熱させて、牙の見える口から炎を溢れさせる。
さしもの騎士兵士たちも、騒つく。見あげ、後退る。
屈強な背中にあるのは、恐怖だ。
きっと、誰でも脳裏を過ぎる。逃げ出したい、無理なら早々に燃え尽きて、一秒でも早く恐怖から解放されたい。
空から迫るのは、そういう、圧倒的な、押し潰されそうな恐怖だ。
「アタシは! 皆を! 信じてる!」
アタシは、微塵の迷いもない真顔で、濃い土色の両刃の大斧を、目の前の荒れ地に突き刺す。
大砦へと振り向く。その中央、高い壁よりも高く突き出た、城の一番高い塔の天辺を見あげる。頬の緩んだ笑顔で、両手を頭上に大きく振る。
前に向きなおす。微塵の迷いもない真顔で、堂々と腕組みする。
「最初の炎は、耐火マントが防いでくれる! 二回目の炎は、絶対に撃たせない!」
高らかに宣言した。絶対の自信があった。揺るがぬ信頼があった。
飛竜が頭上に到達した。炎に満たされた口を開けた。噴き出た炎が、視界を覆った。
◇
全てを焼き尽くしそうな炎は、数秒だけ吹き荒れて、消えた。
「状況! 被害報告、急げ!」
コルトルの声が聞こえた。帝国最強の将軍も、さすがに動揺していた。
見まわす。あちこちで、白い耐火マントが灰になって、吹き荒れる強い風に散る。人の被害は、たぶんない。
自分の手を見た。アタシも問題ない。ベタベタする凄い大斧の陰にいたから、炎を浴びずに済んだ。
「大型武器に被害あり! 損傷の軽微なものは、応急修理に入ります!」
壁の上から、拡声器の声が響いた。
やはり、竜の炎ってやつは強烈だ。最も小型の種の炎ですら、展開した千人を覆い、後方の壁まで届き、設置された大型武器を焼いた。
「修理、急げ! 敵、地上部隊が来るぞ! 乱れた布陣を整えよ!」
魔物の集団の砂煙が、もうすぐそこまで迫っている。大型なら、姿を視認できる。
「盾部隊! 左へと膨らめ! ザコどもを、一匹たりとも通すなよ!」
フォートレスの指示で、盾兵がアタシの前方にまで広がる。アタシのところに他の魔物が乱入しないように、守りを固める。
「腰抜け槍兵ども! あのお人好しより前線に布陣しなさい! 敵は全て突いて突きまくって、宝石の破片に変えてやるわよ!」
口の悪いノルトリア大佐が、槍兵の一番前に毅然と立って、臆することなく前進する。槍兵たちも続いて前進を開始する。
「ありがと! それじゃ、まぁ、こっちも頑張ってみますか!」
アタシはテンション高く、すでに目の前にいるワータイガー最上級を見据えた。白銀のハーフプレートメイルの留め具を外して、地面へと落とした。荒れ地に、ガチャンと鈍く鳴った。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第64話 EP9-8 開戦/END
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