第63話 EP9-7 開戦迫る
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「作戦会議を始める。詳細は、各自、資料で確認せよ」
コルトルが、装飾のない素朴な木のイスに踏ん反り返って、開会を宣言した。
ここで最も偉い将軍が、実用性しかないイスに座っている。会議室も、石の監禁部屋みたいな、鉄扉と石の壁床天井しかない密室である。
密室の中央の、飾り気のない木の円卓に、偉ぶった騎士たちが並び着く。フォートレスと識ル者もいる。なぜか、アタシもいる。
フォートレスと識ル者がいる理由は、まだ分かる。二人とも、知識を武器とするタイプである。
でも、アタシが作戦会議に呼ばれた理由が分からない。経験と勘と本能で戦うタイプである。
アタシは、考えるのが苦手だ。難しいのも苦手だ。
「ふぁ~っ」
喧々囂々の議論を眺めながら、欠伸する。難解で意味不明な話し合いなんて、聞いても分からない。手元の資料は、読んでも理解できないだろうから、開く気にもならない。
朝に始まって、もうすぐ昼だ。昼食時までには終わってほしい。
「ユウカも、異論はないのであるな? 軍隊の常識を外れた布陣ではあるが、魔物の討伐には最善手と結論した。ワータイガー最上級を目の当たりにした騎士たちも、多くが賛同しておる」
コルトルが、なぜかアタシに意見を求めた。
「いいんじゃないの。話し合って決めたんでしょ」
アタシは賛成した。内容を知らないのに、反対する理由がない。
「さすがはユウカ。豪胆であるな」
コルトルが、低く渋い声で、痛快と笑う。
「さては、話を聞いておらんかったろう? らしいといえば、らしい」
フォートレスも、重低音で豪快に笑った。
アタシは、二人が、騎士たちが笑う理由が分からなくて、首を傾げた。
◇
時間は淡々と過ぎ去る。
ついに、魔物の討伐戦が始まる。
「西方に、多数の魔物を視認! 地上に、大型が約三十、小型が約三百! 空に、大型の飛竜が一!」
西の大砦の高い壁の上から、拡声器の声が響いた。
西の大砦の壁の外側には、果てまで荒れ地が広がる。強い風が吹き、砂塵を巻きあげる。
「敵、左翼、ペンタファングボアと小型の混成! 敵、右翼、ハンマージラと小型の混成!」
飛竜は、空高くに、すでに見える。かなり大きい。竜の中では最も小型で、前肢はコウモリ系の翼で、空を飛ぶ。
他は、まだ見えない。集団が移動する砂煙だけが見える。
「布陣を急げ! 敵は待ってくれんぞ! まだ遠いと油断するな!」
偉ぶった騎士が、拡声器で、偉ぶったオッサン声で指示を出す。大門の外側に、目を見張る早さと正確さで、騎士兵士たちが分かれて整列する。
騎士たちは、帝国軍の黒鋼のプレートメイルで全身を覆う。全員が、白い耐火マントを靡かせる。
兵士たちは、黒い革鎧に、急所を黒鋼の金属板で守る。こちらも全員が、白い耐火マントを靡かせる。
「……やられたっ!」
アタシは全容を知って、後悔した。
帝国軍は、籠城ではなく、壁の外側での迎撃を選んだ。
飛竜を相手に籠城しても、一撃離脱で火を吹かれれば被害しか出ない。
対して、敵の地上軍と乱戦になれば、広範囲の攻撃を受ける可能性がさがる。大門を背にして包囲を防ぎ、壁に設置した大型武器による援護が期待できる。
魔物との戦闘に不慣れな帝国軍にしては、的確な判断だと思う。
でも、まぁ、今さら後悔しても、始まらない。
アタシは、大砦へと振り向く。その中央、高い壁よりも高く突き出た、城の一番高い塔の天辺を見あげる。頬の緩んだ笑顔で、両手を頭上に大きく振る。
「敵左翼に相対する我が軍右翼は、盾兵五百! 指揮官はフォートレス殿! 魔物ハンターではあるが、指揮能力は、練兵を共にした貴様らが知る通りだ!」
『うおーっ!』
偉ぶった騎士の偉ぶったオッサン声の号令に、大盾を構えた騎士兵士たちが鬨の声を返した。
「敵右翼に相対する我が軍左翼は、長槍五百! 指揮官は、コルトル将軍直々の指名により」
偉ぶった騎士が、騎士の一人を指さして、言い淀んだ。戸惑っているようにも見えた。
「はっ! 私は、ノルトリア大尉であります!」
指さされた女騎士が敬礼して、ハスキーボイスで答えた。他の騎士たちと同じく、帝国軍の黒鋼のプレートメイルだ。黒鋼のハーフヘルムからは、口と赤い短髪が見えた。
「将軍の権限により、左翼の指揮は貴様に任せる。だが、ノルトリアの階級は大佐である。次は間違えるな」
コルトルが、低く渋い声で、横から口を挿んだ。
「はっ! あのボンクラが大佐とは、驚きであります! 帝国は、いよいよ人材不足の極みなのですね!」
将軍相手だというのに、口の悪い騎士がいたものである。言ってる内容も、どこかおかしい。なんだか、顔見知りの魔物ハンターに雰囲気が似ている。
その顔見知りは、部隊を指揮して魔物討伐が得意そうだったので、ハンターギルド経由で協力をお願いした。けれど、来てくれなかったようだ。まぁ、本当に顔見知り程度の仲なので、仕方ない。
「言われてみれば、本人が大佐に昇進したと誇らしげに主張しておりました。お前のような家柄だけの女がコルトル将軍のもとで出世できるわけないだろ、と笑い飛ばしましたが」
「儂の見立てでは、経験不足は否めぬが、実力と責任感のある良い騎士である。その話は後にして、いいから今は、左翼、長槍五百の指揮を命ずる! 他の者たちも、異論は認めん!」
『うおーっ!』
コルトルの号令に、長槍を構えた騎士兵士たちが鬨の声を返した。
おかしな会話に、騎士兵士たちの一人たりとも疑問を挟まない。動揺しない。士気をさげない。
指揮統制の徹底された軍隊だなぁ、と思った。自由奔放なアタシには、不思議な光景だった。
◇
「我が軍、中央は!」
偉ぶった騎士が、拡声器で高らかに叫ぶ。
いよいよ、アタシの番だ。
「ユウカ殿! 一!」
「うおーっ!、って、いや、だから、おかしいわよね!? 部隊よね!? 一人はないわよね!?」
抗議した。荒野に千人もいる軍隊の中、アタシの周囲にだけ不自然に人のいない空間を、腕を横振りして示した。
「ユウカ殿には、一人で、ワータイガー最上級を抑えていただきます」
偉ぶった騎士が、急に腰を低くして続ける。
「おかしいはおかしいのですが、作戦会議で説明したままでして。兵士を随伴させましても、足手纏いにしかならないと、将軍を含めました総意となっております。最も危険な死地を、娘と歳の変わらぬ少女一人に押しつけるようで、心苦しく、本当に申し訳ない」
アタシの親父と同じくらいの歳をして、繰り返し頭をさげる。威圧感のある黒鋼の鎧を、肩身が狭そうにガチャガチャと鳴らす。
「やはり、作戦会議を聞いておらんかったな、ピンクハリケーン」
フォートレスが、重低音で豪快に笑った。
「……やられたっ!」
アタシはもう一度、後悔を口に出した。
こんなことなら、作戦会議を真面目に聞いておけばよかった。……いや、真面目に聞いても、どうせ理解できなかったか。
「……やられたっ!」
アタシはもう一度、言葉にした。やるしかないと、覚悟を決めた。途中で何をしても足掻いても、この結果は変わらなかった気がした。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第63話 EP9-7 開戦迫る/END
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