第60話 EP9-4 アタシはアドバイザー
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「人間より大きく、強い魔物が多くいる!」
フォートレスが、訓練場の真ん中で、帝国軍の騎士たちや兵士たちを前に講習している。
「前衛として魔物を止めるならば、大盾を地面に固定する! 固定用に、底に突起があるもの、杭と一体化したものが一般的だ!」
アタシは、訓練場の端で、石塀に頬杖を突いて、講習会を眺める。
予想通りというか、アタシにできることはなかった。情報共有の会議に立つハンターギルド職員と、魔物戦の講習会を開くフォートレスの、単なるオマケだ。
分かっていたので、不満はない。むしろ、軍の食堂で食べ放題に満足している。
「う~ん。問題は、やっぱり、飛竜か~」
敵の全容が、ある程度は把握できているそうだ。
帝都周辺レベルと推測される未知の魔物は、触手を集めたような姿をしている。
大砦周辺レベル上位は、飛竜、ワータイガー最上級が一匹ずつ確認されている。
大砦周辺レベルは他に、ペンタファングボアが十数匹、ハンマージラが十匹前後、シクルガルーが二十数匹だ。
小砦周辺レベル、いわゆるザコは、ゴブリン、サンドリザード、カーブバックが各々百匹以上いたらしい。
「飛竜か~」
考える。考えても、何も浮かばない。考えるのは、苦手である。
飛竜は、魔物の中でも最強の種族といわれる竜の、最下位種だ。
巨大がデフォルトの竜の中では最も小型で、前肢はコウモリ系の翼で、飛行に特化している。竜なので、口から火を吹く。全身は当然、鋼よりも硬い鱗に覆われる。
空を飛び、火を吹き、鋼よりも硬く、デカい。アタシでは手も足も出ない。考えるだけ無駄、である。
ザコは、帝国軍が相手をする。普通の大砦周辺レベルも、帝国軍に任せる。
触手の塊は、後で最強の魔物ハンターが倒す。
消去法で、アタシが戦うのは、ワータイガー最上級だ。
◇
「ユウカ殿! 訓練にお付き合い願いたい!」
騎士が声をかけてきた。
「ん? いいわよ」
アタシは考えるのをやめた。
コルトル将軍の厳命で、軍の人は、アタシを名前の『ユウカ』で呼ぶ。敬称の『殿』が付いて、『ユウカ殿』となる。
フォートレスとハンターギルド職員は、二つ名の『ピンクハリケーン』の方だ。
もともと、魔物ハンターなら、アタシを『ピンクハリケーン』と呼ぶ。
呼び方で、帝国軍人かハンターか、即座に判別できるシステムらしい。
「おい待て、儂が先だ、ユウカ! 魔物の説明をしろ! ギルドから派遣されてきた輩は、資料にある情報を繰り返すだけで役に立たん!」
軍の人は、敬称の『殿』を付ける。将軍のコルトルだけは、呼び捨てにしてくる。『ユウカ』とだけ呼ばれたらコルトルだと分かるシステムでもある。
「いいけど。アタシの説明は、感覚的っていうか、玄人向けっていうか、難解っていうか、独創的よ」
アタシは、こちらへと大股で歩いてくるコルトルに、遠回しに断ろうとした。頭や口を動かすよりも、体を動かす方が好きだ。
コルトルは、厳つく立派な黒鋼の帝国鎧に赤いマントの騎士で、将軍だ。背が高く、体格が良く精悍な、白い短髪の初老のナイスミドルだ。
長剣を納めた鞘の中からは、魔力付与の輝きが溢れる。常に五人の護衛騎士を従える。帝国最強の将軍とも謳われるが、実際には、あんまり強くない。
「おい、ユウカ!」
黒鋼のプレートメイルをガチャガチャと鳴らすコルトルが、アタシの前に止まる。自身の鎧の胸部を親指で指し、帝国の剣盾の紋章が割れたままと示す。手合わせの際に、アタシの大斧が割ったものである。
「何故、この紋章が割れたままか、分かるか?」
「アタシへの当てつけよね」
アタシは迷いなく即答した。
「否! 己が浅慮を忘れず、繰り返さぬための戒めにするようにと、しばらく割れたままにしておくようにと、近衛どもに囲まれて長々と説教されたのである!」
コルトルも迷いなく即答した。
「それは、まあ、近衛の人たちが、正しいわ」
近衛の人たちが、全面的に正しい。最高司令官が荒くれ者に勝負を挑んで死にかけたのだから、全力で反省した方がいい。肝を冷やした部下たちに謝った方がいい。
アタシも、その勝負を受けた浅慮仲間なので、苦笑いした。石塀に腰かけて、コルトルを正面から見据えた。割れた紋章は、やっぱりアタシへの当てつけでもあるな、と思った。
◇
「ゴブリンは、兵士たちよりも弱いザコよ。でも、数が多くて、毒を塗った武器を使われて、森の中とかでゲリラ戦をされると、そこそこのハンターパーティでも負けるわ。この辺りは見晴らしのいい荒れ地だから、そんな心配はいらないと思うけど」
せっかく形だけでも魔物戦のアドバイザーとして来訪したのだから、いちおうは解説する。
「サンドリザードは、西部固有だから、アンタらの方が詳しいわよね? カーブバックは、背中の反った首なしの馬みたいな感じ。あぁ、頭も首もあるのよ、あるように見えないってだけで」
「ふむ。確かに本職ならではの、ただし不要な情報であるな」
コルトルが感心した。
「魔物の名称って、見た目を基準に決められてることが多いの。ペンタファングボアは、大型の猪っぽくて牙が五本突き出てる。二足歩行で黄色い毛皮に黒い模様が入ってたら、だいたいワータイガーだから」
「それも不要な情報であるな。資料にある、最上級とは、何だ?」
「そんな感じの見た目のヤツの中では、たぶん最も強いだろう、ってくらいかな。大砦周辺レベル上位、の方が情報としては正確ね」
アタシは、事情通ぶったドヤ顔で答えた。
「ふむ。どちらの評価も、曖昧すぎる。なるほど、感覚的すぎて役に立たないのであるな」
コルトルが、納得して頷く。
「ならば、必要な装備を教えよ。魔物ハンターは、この魔物どもを討伐するならば、何を準備するのであるか?」
「必要な装備ねぇ。えっとね」
アタシは考える。考えるのは、苦手である。難しいのも、苦手である。
でも、経験則で分かるものなら、分かる。
「ペンタファングボアは、突進で脆いものを大きく崩すのが得意だから、逆に人間が使う硬い盾が有効よ。ハンマージラは背が高くて首が長くて、頭上から頭突きしてくるから、傘に棘をつけたみたいな武器で対抗できる。シクルガルーは人間と同サイズで武器が鎌状だから、柄まで金属の長槍なら対処しやすいのよ」
この辺りなら、アタシも退治したことがある。伊達に子供の頃からハンターをしているわけじゃない。伊達に親父に連れまわされていたわけじゃない。
「それから、何が何でも、飛竜用に、耐火マント! これは必須よ。ないと、簡単に、負ける」
さすがに、飛竜と戦ったことはない。それでも、火を吹く魔物とはあるから、分かる。
アタシは、いよいよ得意げに、熱弁した。コルトルの目が敬意に満ちて、キラキラ輝いているのを、見逃さなかった。迂闊にも、この依頼を受けて良かったとまで、思い始めていた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第60話 EP9-4 アタシはアドバイザー/END
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