第59話 EP9-3 帝国最強の将軍
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
「お主が、推薦状にあったピンクハリケーンであるか?」
「そうよ。よろしく」
初対面の挨拶を交わしたコルトル将軍を、睨む。帝国軍への悪印象が先行するのと、帝国最強の将軍と聞いて緊張しているのもある。
コルトル将軍は、厳つく立派な黒い帝国鎧に赤いマントの騎士だ。背が高く、体格が良く、壮年の頑固者といった感じの男だ。
将軍に張り合うような反抗的なアタシの態度に、交渉役のハンターギルド職員が狼狽える。どこまでも中間管理職である。
「ふむ」
コルトルの、黒鋼のヘルムのスリットの奥の鋭い眼光が、フォートレスへと動く。
「いい体躯をしておるな。帝国軍に入隊する気はあるか?」
「申し訳ないが、ワシには魔物ハンターが性に合っとる」
「そうであるか。気が変わったら、いつでも訪ねてこい。歓迎する」
勝手に二人の世界を作られた。無視された気がして、癇に障って、アタシは二人の間に割って入った。
「それで? 帝国軍は、ハンターギルドの協力を受ける気があるの? ないの?」
「ふん。お主が、推薦状にあったピンクハリケーンであるか」
コルトルが、低く渋い男の声で、鼻で笑った。
「っ?!」
頭に血が昇りかける。そりゃまぁ確かに、マッチョの巨躯の大男のフォートレスと比べれば、か弱くて華奢で可憐な乙女で美少女である。でも、ランクSのフォートレスよりも上の、ランクSSの魔物ハンターである。
「ピンクハリケーン様! どうか、抑えてください!」
思わず振りあげた腕に、ギルド職員がしがみついた。危ういところで、事なきを得た。
黒鋼のヘルムのスリットの奥で、鋭い眼光が動く。
「背負う両刃の大斧は、悪くない。そうだな、一度だけ、チャンスをやろう。その大斧で、儂と手合わせしてみせろ」
黒いプレートメイルのガントレットが、アタシの背負う大斧を指さした。
マトモじゃない。帝国の将軍が、見ず知らずの荒くれ者相手に実戦武器で手合わせなんて、正気の提案とは思えない。もしもマトモで正気ならば、この将軍は、まず間違いなく、生半可な強さではない。
「……いいわ。アタシの強さに、後悔しても知らないわよ」
アタシは、未だ狼狽えるギルド職員を振り払った。思わぬ好機に、堪えきれず微笑した。背負う大斧を両手で握って、平らな胸の前に構えた。
◇
コルトルが、赤いマントを外し、護衛の騎士に預ける。腰の長剣も、鞘ごと外して、護衛の騎士に渡す。代わりに、別の長剣の納まる鞘を受け取る。
理由は分かる。コルトルの長剣は、鞘の中でも魔力付与の輝きが溢れる、強烈な武器である。対して、代わりの長剣は、鋼を加工した、ただの長剣でしかない。
アタシの武器も、鋼を加工しただけの、ただの両刃の大斧である。将軍クラスの魔力付与武器では勝負にならないから、こっちの程度に合わせてやろう、という配慮である。
甘く見られたものだ。
こちとら大砦周辺レベルの魔物とだって戦ったことがある。武器の性能差なんて無意味な、本人の性能差ってやつを、思い知らせてやろう。
「儂を殺す気で来い。さもなくば、怪我では済まぬぞ」
コルトルが長剣を抜き、片手で腰の高さに構えた。軍用に量産したような、普通のロングソードだ。
「上等! 手加減はしないわよ!」
アタシは、勝負を受けた。声を弾ませた。強いヤツと戦うのは、嫌いではない。
大斧は、平らな胸の高さに、コルトルに向けて突き出す。この大きさの金属の塊が間にあれば、相手は容易くは攻めてこられない。
案の定、コルトルは半身で長剣を構えたまま、動かない。強そうな気配とか、威圧感は、ほとんど感じられない。本当に強いヤツって、こうなのだろうか。
「行くわよっ!」
アタシは、我慢は苦手なので、先に動いた。大斧を頭上に振りあげ、踏み込み、振りおろした。
コルトルが、一歩退く。大斧は、黒いプレートメイルに掠らないギリギリで空を切る。直後に、黒鋼のブーツで一歩踏み込み、長剣をアタシの肩口目掛けて振りおろす。
上手い。刃を寸前で躱し、重い大斧を振った直後の隙に反撃する。武器戦闘のお手本みたいに無駄がない。
でも、甘い。
「うぅっ! りゃぁっ!」
振りおろす途中の大斧を、両腕と背中と太腿の筋力で引っ張りあげ、振りあげる。どうせ、これも躱される。鎧を砕く勢いで、問題ない。
「って?! えっ!? ちょっ?!」
アタシは慌てた。踏み込んだブーツで、踏みとどまった。前傾した体を、振りあがる両刃の大斧を、全身の筋肉で無理矢理に引き戻そうと足掻いた。
刃が、黒いプレートメイルの胸部に掠る。ガチンッ、と硬く鳴って、帝国の剣盾の紋章が割れる。そのまま、コルトルも、アタシも仰け反り、土の地面に尻餅をつく。
「アンタっ! ちゃんと避けてよ! 危うく、お尋ね者になるところよ!」
アタシは、狼狽と動揺のまま、捲し立てた。頬を冷や汗が流れた。
危なかった。鎧どころか、中身まで裂くところだった。この強そうな将軍は、思ったほど強くなかった。
◇
「いや~、済まん済まん。これでも昔は、帝国最強の騎士と呼ばれたものだが、すっかり衰えた。寄る年波には勝てぬのであるな」
コルトルが、黒鋼のヘルムを脱ぐ。バツが悪そうに照れ笑う。精悍な、白い短髪の、初老のナイスミドルである。
思ってたのと違う。強そうでも、怖そうでも、厳格そうでもない。話の分かる老剣士に見える。
「あのねぇ。済まん、じゃないわよ。喧嘩は相手を選ぶものよ」
アタシは立ちあがって、座り込むコルトルに手を差し伸べた。白銀のガントレットを掴み返す黒鋼のガントレットを引いて、コルトルも立ちあがった。
「うむ、いいだろう。帝国軍による魔物討伐への、ピンクハリケーンの同行を許可しよう。役に立てとは言わぬが、ただし、邪魔だけはするなよ」
コルトルが、手を腰の後ろに組んで毅然とする。冷たい目で、アタシを見おろす。
「この状況で、そんな偉そうにする? アタシも他人のことは言えないけど、負けず嫌いね」
自然と、微笑した。コルトルは帝国の将軍だけれど、さっきの照れ笑いを見てしまったからか、怒る気になれなかった。それに、危ういところで事なきを得られたのだから、口調や態度なんてどうでもいい気分だった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第59話 EP9-3 帝国最強の将軍/END
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