第58話 EP9-2 西の大砦
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
ランクSSに昇格して初の依頼が決まった。帝都周辺レベルと推測される未知の魔物の討伐だ。最強見習いに相応しい、最高難度のミッションだ。
仕事のできる大人美人の受付嬢が、事務的に微笑む。
「では、さっそく、即席パーティのメンバーについて、御希望をお聞きしておきます。一人目は当然、フォートレスさ」
「スピニースさぁん、でお願い」
アタシは即答した。思わずカワイイ声が出た。
スピニースさぁんは、アタシの好みド真ん中の、華奢なイケメンエルフである。緑色の長い髪で、右目は前髪に隠れて、長身で、華奢な肢体をタイトな服が包んで、革鎧で急所だけを守る軽装備アーチャーで、ストイックで、途轍もなく強い。
「あっ、えっと、その、『天を貫く矢』、スピニース様は、依頼を受けていただけるか分かりません」
受付嬢が、気まずそうに答えた。
アタシは、受付嬢に食ってかかる。
「どうしてよ? ランクSまでなら誰でもいいって言ったわよね? まさかアンタも、スピニースさぁんを狙ってるの?」
「まあ待て、ピンクハリケーン」
血迷ったアタシと困惑する受付嬢の間に、フォートレスが冷静に割って入る。
「つまり、スピニース殿も、昇格したのだな?」
「は、はい。スピニース様は、ピンクハリケーン様の少し前に、ランクSSに昇格されました」
受付嬢が、困惑顔のまま答えた。
「スピニース様には元々、ヘブンズソード様の推薦がありました。これまで保留し続けていた昇格を、ようやくお受けになったと聞き及んでいます」
「そう、そうなのね。まぁ、スピニースさぁんなら、当然よね」
アタシは、右手を握って口元に当て、考える風にした。えっ、昇格って保留できる感じじゃなかったけど、って、まぁ、いいか、考えるのは、苦手だ。難しいのも、苦手だ。
「もちろん、スピニース様への依頼の打診と受諾の交渉は、誠心誠意させていただきます。ただし、同行を確約はできませんので、ご了承ください」
受付嬢が、慎ましく頭をさげた。
若干、後悔した。スピニースさぁんとまたパーティが組める、と勇んで即行サインしてしまったのは、早まったかも知れない。
◇
馬車団の蹄の音が、荒野に響く。強い風が、ビュウビュウと呻る。車輪が乾いた土を削り、土煙が後を追う。
西の大砦に着いた。乾いた真昼の晴れ空に、高い高い壁が鉄の色で照らされて、激しく舞う砂埃に煙っていた。
「壁、高い! 他の大砦より、高くない?」
「高いぞ。西の大砦を囲む壁は、他の大砦の二割増しだと言われておる」
壁を見あげてはしゃぐアタシに、フォートレスが物知り顔で答えた。
フォートレスはフルフェイスヘルムを被っているし、顔は見えないし、アタシはフォートレスの顔を見たことがない。
これまた高く大きな大門が、地鳴りみたいに重く地面を引き摺って開く。地面が揺れて、馬車も揺れる。
「凄い凄い! 大型の魔物でも、ここまでは揺れないわよ!」
楽しくて、声が弾む。理由あって、帝国西部での依頼はほとんど受けたことがない。ここは、見るもの全てが初めてで、目新しい。
速度を落としつつ、馬車団が大門を潜った。
大砦の中から見あげると、壁の上に、大型兵器が設置されているのが分かる。強弩とか、投石器とか、魔物を迎撃するためのものである。
当たり前でありながら、当たり前ではなかった。ここは、軍が魔物と戦うための大砦なのだ。帝国が国民を守るための大砦なのだ。
「コルトル将軍との面会の手続きをしてまいります。御二人は、ここでお待ちください」
痩身な中年男のギルド職員が、一人だけ箱馬車を降りた。
帝国軍との交渉役だ。薄い黒髪を七三に分けて、白髪交じりで、生え際が後退して、いかにも中間管理職な感じだ。
小砦ケルンの受付の華奢なハンサムエルフお兄さんだったら良かったのに、と正直に思う。
「はーい。ゆっくりでいいわよ」
アタシは、やる気のない返事をした。
同行者が、フォートレスとギルド職員の二人しかいない。顔馴染みで口煩い大男と枯れた冴えないオッサンとか、やる気の出る要素がない。
他にも同行者の希望は出した。依頼を受けてもらえれば、後日合流する予定だ。
来てほしい。特にスピニースさぁんには絶対に来てほしい。アタシのやる気と討伐の成否すら左右しかねない。
後で来るといえば、未知の魔物のデータ分析は専門の魔物ハンターがすると聞いた。数多の強い魔物と対峙し、数多の信じ難い能力を目の当たりにした、戦闘経験の塊みたいなスーパーハンターだそうだ。
さらには、最強の一人も遅れて来るらしい。西部の最強なら、ヘブンズソードか。
「御二人とも、軍の馬車に乗り換えをお願いします。将軍のいらっしゃる城まで案内していただけるそうです」
数分で、ギルド職員が戻ってきた。交渉に手応えを感じている、明るい表情をしていた。
◇
軍の馬車で城に到着した。たくさんの兵士を運ぶための、軍用馬車だった。
途中の街は、普通の街だった。大きな建物の並ぶ石畳の大通りを通った。人も多く、賑わっていた。
そして辿り着いた城が、要塞だ。水路に囲まれた、華やかさのない、重厚な城壁の、前線基地だ。
「訓練場だわ」
アタシは納得して頷いた。
大砦の中心に聳える前線基地だ。調度品の飾られた豪奢な応接室に案内されるはずもない。取調室みたいな殺風景な密室を覚悟していたら、土の広場で帝国騎士たちが戦闘訓練する訓練場に案内された。
「訓練場だな」
フォートレスが楽しげに同意した。
黒い金属の全身鎧を纏った騎士が、一対一で、刃の入った金属の武器で、実戦さながらの打ち合いをしている。加減しても、一歩間違えば大怪我しそうなハードさである。
「全体!」
よく通る低音の号令が響いた。
訓練中の全員が動きを止めた。
「コルトル将軍に! 敬礼!」
号令に合わせて、全員が敬礼した。敬礼の先には、五人の護衛騎士を連れた、黒い帝国鎧に赤いマントの騎士がいた。
赤マントの騎士が、敬礼を返した。黒鋼のヘルムで顔は見えないが、コルトル将軍だろう。
こちらに歩いてくる。ガチャガチャと鎧が鳴る。
帝国軍の騎士は、黒いプレートメイルで全身を覆う。胸部に、帝国の剣盾の紋章が入る。
将軍の鎧は、他の騎士たちよりも厳つく立派だ。角ばった装甲板や角や華美な装飾がいっぱいだ。
赤いマントを大仰に翻し、アタシの目の前で止まった。値踏みするように、ヘルムのスリットの奥の鋭い眼光が動いた。
「お主が、推薦状にあったピンクハリケーンであるか?」
低く、渋い男の声だ。背が高く、体格が良く、壮年の頑固者という印象だ。
「そうよ。よろしく」
アタシは、気持ちで負けないように、平らな胸を張って、踏ん反り返った。
帝国最強の将軍として、長年に渡って帝国を支える大人物らしい。そんな予備知識を事前に聞かされてしまって、少なからず緊張していた。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第58話 EP9-2 西の大砦/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




