第57話 EP9-1 ランクSS最初の依頼
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
「はぁ~~~~~……」
小砦ジフトのハンターギルドで、気の抜けた溜め息をついた。
一階フロアの隅の待合席で、ボロい木のイスに座って、ボロい木のテーブルに突っ伏す。顔だけ横に向けて、行き来する同業者たちを、ぼんやりと眺める。
「どうした、ピンクハリケーン? 食中りか?」
身長二メートルはあるマッチョの巨躯の大男が、重低音で豪快に笑った。
その巨躯を鈍い鉄色のフルプレートメイルで覆い、その巨躯すら隠す大きさのタワーシールドを背負う。ランクSハンターで、『フォートレス』の二つ名で呼ばれる。
アタシはテーブルに突っ伏したまま、横目にチラと見る。
「なんだ、フォートレスか。フェトがいなくて、やる気が出ないの。フェトロスなの」
気の抜けた声で答えた。フェトと別れてから、こんな声しか出ない。
フォートレスは、知り合いだ。活動範囲が被っているから、即席パーティを組む機会も多い。頼りになるけど口煩い先輩みたいな感じだ。
「近くに住んでおるのだろう? 会いに行けばよかろう?」
「近いっちゃあ近いけど、関係者以外立ち入り禁止の、魔物研究施設区画なのよ。アタシからは会いに行けないの。フェトも調査結果を纏めるまでは休めないって」
「なるほど、互いに忙しい身、というわけだな。会えぬ日々を寂しく感じるのも、若さゆえか。若者の特権だな」
フォートレスが、重低音で豪快に笑った。
大口を開けて笑っていそうな気はする。いつもフルフェイスヘルムを被っていて、見えない。アタシは、フォートレスの顔を見たことがない。
「おお、さて置き、ランクSSに昇格おめでとう、ピンクハリケーン! 友として、誇らしいぞ!」
「ん、ああ、ありがと。なったからって、まだ何もしてないし、実感ないけどね」
フォートレスのテンションの高い賛辞に、テンションの低い感謝を返した。
アタシ自身は、昇格を目指していたわけでも、昇格してまでやりたいことがあるわけでもないので、そこまで嬉しくはない。ほぼ全ての魔物ハンターにとって昇格は共通の活動指標であり、目標であり、夢であり、そんなことを口にしたら、たぶんほぼ全ての魔物ハンターに怒られる。
「これから、実績を積み重ねればよかろう。実感を得ればよかろう。ランクSSとなれたことを、いつか必ず感謝するときが来る」
フォートレスが、自信満々のアドバイスを豪語した。本人はまだランクSなのに、自信の根拠がどこにあるのか、謎だった。
◇
「ランクSSの魔物ハンター、ピンクハリケーン様に、御指名の依頼がございます。是非とも、ご覧ください」
ハンターギルドの受付嬢が、ニコやかな笑顔で席に来た。高く通る美声だった。
肩までくらいの長さの金髪さらさらストレートヘアを六四分けにした、化粧美人の大人の女の人だ。ギルドの事務的な紺色の制服が似合う、仕事のできる雰囲気だ。いつもの、ちょっと苦手な感じの人だ。
ランクSSとの呼びかけには、フロアのハンターたちが注目する。羨望の声も漏れ聞こえる。
アタシは、照れに頬を赤らめ、テーブルに突っ伏していた頭をあげる。イスに座るお尻の位置をずらして、軽く咳払いして、きちんと座りなおす。一応はランクSSになってしまったので、他のハンターたちの模範となりたい願望だけはある。
「どんな依頼?」
テーブルに載る依頼書の、表紙を捲る。
横上から、フォートレスが覗き込む。
「ふむ。未知の魔物の討伐か」
「帝都周辺レベルと推測される未知の魔物の討伐、ってデータ収集用の人柱よね?」
帝都周辺レベルの討伐は基本的に、最強の魔物ハンターと評されるうちの誰かが実行する。ただし、対象の魔物のデータがない場合は、数少ない最強の不測の損失を避けるために、先にランクSS以下の魔物ハンターにデータ取りさせる。
帝都周辺レベルなんて、凶悪な未知の魔物のオンパレードだ。よく聞く話だ。
「昇格後の最初の依頼が名指しで人柱って、もしかして嫌われてる?」
「いいではないか。期待されとるのやも知れんぞ。で、どんな魔物だ?」
フォートレスが興味津々だ。
「6ページにスケッチが掲載されております。触手を集めたような容姿でした」
「触手を集めたって、ローパーみたいな?」
6ページを開く。
「ふむ。これは、古き神々の方だな」
「うん。古き神々の方ね」
声のやる気がさがる。海の底から海上に現れる巨大な海神、見た目は無数の触手の集合体、って感じである。
「そうですか? 高さは、約二メートルとありますが」
受付嬢の白く細い指が、魔物のデータを指し示した。
「こういうヤツの強さは、見た目の大きさじゃないから」
アタシはドヤ顔で、お気楽な素人を牽制する声を出した。
◇
「で、どうして、この依頼がアタシに名指しで来たのよ?」
「はい。実は、この依頼は、とても複雑な状況にございます」
受付嬢が、白く細い指でページを捲る。
「討伐対象と共に、多くの魔物が移動しています。同種の群れではなく、複数種の、共同体とでも呼ぶべきものです」
魔物の共同体なんて聞いたことがない。魔物は人間と比べて知性が低いとされ、群れは作っても共同体は作らない。
「その帝都周辺レベルが賢いってこと? 他の魔物を力で従わせてる感じ?」
「そう推測されます。共同体の進行方向には西の大砦がありまして、帝国軍が迎撃することに決定しています」
受付嬢の流暢な説明に、アタシは首を傾げる。
「だったら、アタシの出番ってなくない? 西の将軍って、強いんでしょ? 任せればよくない?」
「そうも参りません。魔物の討伐に関して多くのデータを持つハンターギルドとしましては、帝国軍をサポートすべく、経験豊富で優秀な魔物ハンター様の派遣を決定いたしました」
「それがアタシってわけね」
褒められて、ちょっと気分がいい。平らな胸の下に腕組みして、ボロイスの背凭れに踏ん反り返る。
「先だって幾人か、百戦錬磨のベテランハンター様にお願いしたそうですが、西のコルトル将軍にことごとく追い返されてしまったとのことです。厳格な軍人で気難しい方らしく、民間組織の介入がお気に召さないのだろう、と」
「アタシが一番じゃなかったのね」
そんなことだろうと思った。ちょっとガッカリした。
「そのような折りに、ジフトの駐留軍から、ピンクハリケーン様の推薦状を書いてくださるとの申し出がありました。正直困り果てていた上層部が、同じ帝国軍の紹介であればコルトル将軍に快諾していただけるのではないか、と飛びついた次第です」
受付嬢が、満面の笑みで本音を口にした。
「まぁた、あのチョビ髭め。余計なことを……」
アタシは呟いて、依頼書をパラパラと捲る。受けてもいいけれど、自分には受ける理由も意味もない。
軍のアドバイザー役なら、アタシじゃない方がいいまである。先頭で戦う脳筋よりも、後方でパーティを指揮するサポーターの方が適任である。
結局は、帝国軍が受け容れてくれそうな魔物ハンターが現状ではアタシしかいない、という話だ。ギルドの体面のために、討伐に参加した体にしたいだけだ。
もしアタシが断って、帝国軍だけで魔物を迎撃しても、たぶん結果は変わらないだろう。本当に、受ける理由も意味もない依頼だ。
「う~ん。やっぱり、これは」
歯切れ悪く断りの言葉を選ぶアタシを、受付嬢の笑顔が遮る。
「ああ、そうでした、お伝え忘れていました。同行者は、ランクSまでの魔物ハンター様であれば、何人でも御指名が可能です。ピンクハリケーン様の御希望の通りに、ギルドの全力で交渉、御協力を取りつけさせていただきます」
「任せて。この依頼、喜んで受けさせてもらうわ」
アタシは、凛々しい微笑で、依頼書にサインした。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第57話 EP9-1 ランクSS最初の依頼/END
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでくれる人がいると、書く励みになります。




