第56話 EP8-16 旅の終わりに
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
「マキエタも賑わってきたわね。人が多すぎて、前が見えないわ」
アタシは、小砦マキエタの大通りを、人混みに流されるように、フェトと歩く。逸れないように、手を繋ぐ。
フェトは、ロリ巨乳の魔物研究者である。見た目は女の子で、小柄で華奢で普段着の上に白衣を着て、長い金髪を上品に編み込んで、細い銀縁の丸眼鏡をかけ、薄化粧で小綺麗にして、胸が大きい。
「北の大砦の修復が、本格的に始まりましたのでしょうね。まだしばらくは、この活況が続きますわ」
フェトが、アタシを見あげて微笑した。
マキエタは、北の大砦に搬入される物資の中継点の一つである。人も物も大量に流れ込み、大量に出ていく。仕事を求めて、数多の魔物ハンターたちも集まる。
「アタシたちは、やっと軍の事情聴取が終わったんだから、宿屋でゆっくり休む? こんなに人が多いと、通りを歩くだけで疲れちゃうわよね?」
「わたくし、せっかく色々な小砦を巡りましたのに、魔物の現地調査しかしてきませんでしたの。ですから、本日は、町中を観光してまわりたいですわ。ここでしか見られません景色を、見たいですわ」
フェトが、瞳をキラキラと輝かせる。アタシの手を引く。はしゃぐ子供みたいな笑顔をする。
「いいわね! だったら、まずは、清楚に教えてもらったお菓子屋さんに行きましょ。ケーキってやつ、食べてみたい」
アタシも笑顔で、歩を早めた。
「ユウカさんは、いつでも食べもののことばかりですわね」
フェトが笑った。子供の見た目で、子供のように、楽しげに笑った。
◇
そして、ついに、この日の朝が訪れた。
「清楚なる白百合さん、ソイユニさん、たいへんお世話になりましたわ。お二人のご助力には、いくら感謝しても感謝しきれませんわ」
フェトが、ソイユニに、丁寧に頭をさげた。
馬車駅から、朝一の箱馬車に乗って、小砦マキエタを去る。夜間は途中の小砦で休息しながら、南部の小砦ジフトを目指す。ホワイトウルフの大きな群れが散って、北部の魔物の勢力図が変わって、魔物の動きが読めない現状、なるべく短い日数で帰りたい。
町を囲む高い壁から、朝日が顔を出す。清々しく晴れて、青い空に白い雲がポツポツと浮かぶ。
「こっちこそ、ありがとな。アンタらがいてくれて、助かったぜ。いなかったら、なんて考えるだけで怖い」
ソイユニの毛むくじゃらの手が、フェトの小さな手と握手を交わした。ホビットのソイユニも、ロリ巨乳のフェトも、見た目は子供同士だ。
清楚なる白百合は、フェトの細い首に抱きついて、泣いている。大泣きしている。
「嫌です! ロリ巨乳ちゃんと! お別れなんて嫌です!」
清楚なる白百合が、キンキンと高く響く泣き声をあげた。
「アタシも嫌だぁ~っ! フェトと別れるなんて嫌だぁ~っ! ずっと一緒にいる~っ!」
アタシも、フェトの細い首に抱きついて、泣いている。大泣きしている。
フェトが、泣く脳筋二人に抱きつかれて、迷惑そうに溜め息をつく。
「清楚なる白百合さんはともかく、ユウカさんはまだ、ジフトまで護衛していただきますのよ。それに、お二人とも、今生の別れでもありますまいし、またいつでも会えますわ」
フェトみたいな一般人に、魔物の徘徊する砦間の移動は危険だ。でも、ランクSSや最強の一人にとっては、容易い。その気になれば、本当にいつでも会えるだろう。
「ソイユニ! 活動拠点を変えます! すぐに荷物を纏めなさい!」
「あのなあ、清楚。他の最強との兼ね合いとか、色々と難しい制約があるんだ、簡単に言ってくれるなよ。それに、マキエタの皆が、悲しむぜ?」
「……ぐっ」
清楚なる白百合は、呆れ顔のソイユニに言い返せなかった。真正のロリ巨乳好きでも、やっぱり、小砦マキエタも、マキエタの人たちも好きなのだ。大切なのだ。
ああ、ついに、この日が訪れた。いつか来ると分かってはいても、いつまでも来ないでほしいと、心のどこかで願っていた。アタシは、泣くのは我慢しようと、笑って再会を約束しようと思っていたのに、清楚に貰い泣きして、泣いてしまった。
◇
馬車が、馬車駅を出る。大門の内側に停車する。馬たちが、今か今かと蹄を鳴らす。
アタシとフェトは、箱馬車の席に座る。狭い。
乗客も荷物も多い。ぎゅうぎゅう詰めだ。
隣に座る籐籠の荷物に押されて、フェトの巨乳に腕がめり込む。詰めたまま夕方まで馬車に揺られるのは、遠慮したい。
「ユウカさん。どうかいたしまして?」
アタシは、首を傾げるフェトの両脇に手を差し込む。抱えあげ、太腿に座らせる。両手を巨乳の下のお腹にまわし、抱くように右手と左手を重ねる。
「この方が、席が広いわよ」
笑顔で答えた。
「わたくしを載せて、脚が痛くなりましても、苦情は受けつけませんわよ」
フェトが、楽しげに、くすくすと笑った。
「窮屈よりは、マシよ。フェトは軽いから、一日や二日で痛くもならないわよ」
アタシも、楽しくて笑った。
「あっ、そうですわ。今のうちに、お渡ししておきましょうかしら」
小さな手が、小さなペンダントを差し出す。小指の先ほどの大きさの白い宝石が嵌められた、金の鎖のペンダントである。録音できる魔法品である。
「ユウカさんへの感謝を、面と向かいましては、恥ずかしくて言葉にしづらいことを、録音いたしましたの。わたくしと別れて、お一人になりましたら、聞いてくださいませ」
フェトが照れた。ロリな頬を、ほんのり赤くした。
「いいの? お母さんに貰った大事なものでしょ?」
「内容を上書きしてしまいましたから、厳密には違うものですわ。お母様には、また何か買っていただきますから、お気になさらなくてよろしくてよ」
「……それは、そうかも」
アタシは、言いくるめられた気分で、ペンダントを受け取る。掌に載せて、ジッと見つめる。
「ふぅん……」
ペンダントを見つめる。考える。
考えるのは、苦手だ。
「どれどれ?」
ペンダントを起動した。録音した音声を再生する操作だ。
『これを聞いていらっしゃいます頃には』
フェトの声が、ペンダントから聞こえてくる。
「ちょっと! ユウカさん、あなたという方は! 一人になりましてから聞いてくださいませ!」
フェトが、顔を真っ赤にして、ペンダントを取り返そうと手を伸ばす。
『わたくしは、ユウカさんと一緒に旅をしまして』
「いいじゃない。一人で聞いても、二人で聞いても、中身が変わるわけじゃなし」
アタシは、フェトの小さな手が届かない高さにペンダントを掲げる。
『ユウカさん。あなたは、わたくしにとりまして、無二の親友ですわ』
アタシは、急に恥ずかしくなって、再生を中断した。自分でも分かるくらいに、顔が真っ赤だ。
「ですから、一人になりましてから、とご忠告さしあげましたのに。わたくしも他人のことは申しあげられませんけれど、ユウカさんは、このようなやり取りは苦手でいらっしゃるでしょう?」
フェトが、諦め顔で溜め息をついた。
「だっ、だってぇ……」
アタシは、言い訳しようとした。思いつかなかった。
箱馬車の同乗者たちから、笑い声が漏れる。くすくすと、微笑ましげな笑みでこちらを見る。
見ず知らずの人たちから、そんな目で見られると、恥ずかしさも倍増だ。
◇
「馬車を出すぞー!」
御者の呼びかけが聞こえる。
小砦マキエタの大門が、地鳴りみたいに重く地面を引き摺って開く。開いた大門から、武装した馬車が出発する。
鉄板で武装した馬車を、鎧を着込んだ馬が引く。硬い蹄鉄が軽快に石を叩く。
「結構たくさんの人と知り合えたから、名残惜しいわね」
アタシは、箱馬車の窓を開けて、マキエタの高い壁を見あげる。フェトも、一緒に見あげる。
カラーンカラーン……カラーンカラーン……、と教会の鐘の音に似た音が鳴り響いた。町の方から聞こえた。
聞き間違えるはずもない。幾度も救われた。清楚なる白百合のハンドベルの、別れを惜しむ送別の音だ。
「清楚ーっ! また会いましょーっ!」
アタシは、大声で叫んだ。思いっきり手を振った。
こうして、アタシとフェトの旅は終わった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第56話 EP8-16 旅の終わりに/END
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