第55話 EP8-15 昇格
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
小砦マキエタに戻ってきた。ハンターギルドは、今日も盛況だ。
北の大砦は、周囲の小砦から資金提供を受けて、本格的な救助と再建が始まった。先遣隊的なアタシたちは役目を終えて、解散した。ほとんどは、報酬を受け取って、各々の活動拠点へと帰っていった。
帝国軍も、西の大砦の将軍旗下の軍隊が動くそうだ。西の将軍は厳格な剛将と評判だから、魔物ハンターごときが心配する要素はないだろう。
今日も今日とて、アタシはハンターギルドの隅の席に座っている。他の魔物ハンターたちの行き来を眺めて、たまに欠伸をする。ハンターたちでごった返し、賑やかで、活気がある。
「あっふぅっ……」
北の大砦での数日間は、思い出しても、苦しかったけれど、最善に近い結果で、悪くなかったと思う。
「……ぶっふぅっ!」
思わず、思い出し笑いしてしまった。我慢しきれず、思いっきり吹いた。
近くの荒くれ者どもが、不思議そうにアタシを見ながら通りすぎる。
悪かったことというか、残念なことが、一つだけあった。
救助隊がホワイトウルフの大群を撃退した、あの夕方だった。アタシは、ハンターギルドの前で、荷馬車に座って夕焼け空を見あげていた。そこに、救助隊に交じってパン屋のビュフィさんを捜しに行っていた帝国騎士ゾルドヌが、絶望した目で、力なく項垂れて、帰ってきたのだ。
アタシは、何があったのか察して、声をかけられなかった。大切な人を失ったであろう相手に何と声をかければいいかなんて、分からなかった。
そんなアタシに向けて、ゾルドヌは、消え入りそうな、悲しげな声で、一言だけ呟いた。……フラれた、と。
「……ぶっふぅっ!」
またも思い出し笑いしてしまった。
いやでもまさか、あの状況で、あんなに自信満々に意思表明しておいて、まさかゴメンナサイされるとは思わないじゃん。絶対にヨロコンデされる相手だと思うじゃん。
「ユウカさん。そのように幾度も思い出し笑いなさっては、ゾルドヌさんに失礼でしてよ」
隣の席に座るフェトも思い出し笑いを堪えながら、窘めた。書類を持つ小さな手が、小刻みに震えた。
「ロリ巨乳ちゃんに! お話があります!」
人混みを割って、清楚なる白百合が現れた。キンキンと高く響く声を張りあげた。
アタシは、フェトと清楚の間に肩を滑り込ませて、ガードした。まだ、フェトの護衛なので。
◇
「違うぞ、清楚。ピンクハリケーンに、話がある」
清楚の後ろから、ソイユニが現れた。
清楚なる白百合が、デートを邪魔されたみたいに、悔しげに歯噛みする。深呼吸し、スタイルのいい胸の下に腕組みする。フェトに固定された視線を、鋼線でも引き千切るように必死に引っ張り、無理矢理にアタシへと向ける。
「ピンクハリケーンさん! あなたを! ランクSSに推薦します!」
キンキンと高く響く声で宣言した。
「……えっ? あっ……」
アタシは、ビックリした。
ランクSSというのは、もちろん、ハンターギルドが魔物ハンターを評価した等級の一つである。ただし、通常のランクとは、ちょっとだけ違う。
魔物ハンターは実績に基づき、ハンターギルドからランクC、ランクB、ランクA、ランクSの四段階に等級分けされている。その等級外に、例外的な等級が存在《そんざいする。
それが、駆け出しハンターやまだ子供のハンターを示すランクDやランクEと、最強と評されるランクSSSと、最強見習いとでも呼ぶべきランクSSである。
ランクSSになるには、ランクSSSの魔物ハンターの推薦、あるいは、ハンターギルド各方面本部の本部長の推薦が必要である。そこからランクSSSになるには、途轍もない実力と目を疑うほどの実績が必須だと聞いている。
「悪い話じゃないだろ。ランクSSになれば、大砦周辺レベルの依頼が優先的に斡旋されるぜ。強い魔力付与武器を紹介してもらえるし、買うなら補助金が出るし、装備を整えて強くなれば、最強と呼ばれるハンターたちと一緒に行動できる機会も増える」
ソイユニの言う通り、悪い話ではない。むしろ、魔物ハンターであれば飛びあがって喜ぶ、良い話だ。
「う~ん、でも、アタシは、魔物ハンターの後輩たちが、特に、ランクの低いハンターたちが、死なないように手を貸したいって考えてるのよ。ホトクの森で死んだと思ってた駆け出しハンターの少年が生きてて、北の大砦に後方支援に来てくれたの。再会して、感謝されて、嬉しくて、自分の進みたい道はそっちだって再確認したわ」
せっかくの申し出に、ちょっと申し訳なさはある。でも、自分で出した結論でもある。そっちの方が、性に合う。
「ふむ、なるほど。SSSを目指すよりも、後進を育てたいってんだな。アンタらしいっちゃあ、らしいか」
顎に毛むくじゃらの手を当てて考え込むソイユニが、清楚と顔を見あわせる。二人とも、困り顔に見える。
「ピンクハリケーンさん! あなたを! ランクSSに推薦しました!」
スタイルのいい胸の下に腕組みしなおした清楚が、キンキンと高く響く声で訂正した。
「いや、悪い。まさか断られるとは思わなくてよ。もう、ギルドに推薦状を出しちまった」
ソイユニが苦笑いで、両手を合わせて頭をさげた。
◇
フェトが、澄まし顔で口を挿む。
「昇格を受ければ、よろしいのではありませんこと? 斡旋されました高難度の依頼を、受ける義務がありますわけではないのでしょう? 補助金で装備を整えまして、後進の育成にお励みなさいませ」
小さな両手で、木のコップを小さな口に運ぶ。フェトには完全に他人事の、茶飲み話である。
「そうもいかないわよ。強い魔物を倒すための強い装備と補助金だもの。それを受け取っておいて頼みは聞かないなんて、薄情はできないわ」
アタシは困り顔をした。
「ユウカさんは、義理堅くていらっしゃいますのね。存じあげていましたけれど」
フェトが、微笑ましげに微笑した。
「お話し中に失礼いたします」
ハンターギルドの受付嬢が、アタシの傍らに立つ。長い水色髪をきっちりと三つ編みにし、金縁の眼鏡をかけ、気の強そうな目をした、三十歳手前ぐらいの女の人である。
「アンリナさん! 北の大砦からこっちに来たの?」
アタシは、再会を喜んだ。北の大砦のハンターギルドで避難民の纏め役をしていた、ギルド職員のアンリナだ。
「遮断された数年分の情報交換のために、書類の受け渡しに来ております。その一環として、業務の補助をしている次第です」
アンリナが、金縁眼鏡の縁を指先で摘まんで、軽く押しあげてかけなおした。
「では、早速、本題に入らせていただきます。ピンクハリケーン様、昇格おめでとうございます。こちらが、ランクSSの魔物ハンター証になります」
ボロい木のテーブルに、ランクSSの魔物ハンター証が置かれる。アタシの名前が記されている。ピカピカの新品である。
「えっ」
「ランクSの魔物ハンター証は、回収させていただきます」
アタシの雑な扱いでボロボロの、アタシのランクSの魔物ハンター証が、アンリナの手で回収される。
「あっ」
「重ね重ね、昇格おめでとうございます。これにて失礼いたします」
アンリナが、受付カウンターへと戻っていった。
アタシは、返答をほとんど口に出す暇もなかった。何の感慨もない、事務的な、呆気ない昇格だった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第55話 EP8-15 昇格/END
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