第54話 EP8-14 穏やかな夕暮れ
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
木のコップで、水を飲む。ガントレットで握った硬いパンを、大口で齧る。
アタシはユウカ。まだ十六歳の可憐な少女で、両刃の大斧と白銀のハーフプレートメイルを愛用する魔物ハンターだ。ピンク色の長髪で、女にしては背が高く筋肉質で胸がなく、『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる。
三日の渇きと空腹が癒されて、生き返る思いだ。
荷馬車の縁に腰掛けて見あげる空は、夕焼けに赤く染まり始めている。周囲では、荒れ果てた街中を、魔物ハンターたちが忙しく往来する。武器を持ったり、救助物資を背負ったり、険しい顔をしたり、笑顔だったり、色々である。
「お疲れさん、ピンクハリケーン。ホワイトウルフのボスを倒したんだろ? お手柄だぜ」
少年みたいなガラガラ声に、振り返る。清楚なる白百合の相棒の、ソイユニが傍らに立つ。
「清楚なる白百合が倒したみたいなものよ。アタシは、たまたま、トドメを刺しただけよ」
アタシは、疲れ果てた顔で、疲れ果てた笑みを浮かべた。
「でも本当、清楚とソイユニが来てくれて、助かったわ。アタシ一人じゃあボスは倒せなかったし、生半可なリーダーじゃあ半日で大群の撃退なんてできなかったわ」
ボスを倒したことで、北の大砦を占拠するホワイトウルフの群れは散り散りに敗走した。時間が経てば、多くは壁の外に逃げていくだろう。
救助隊はハンターギルドの建物に拠点を置いて、ここを中心に安全圏を確保し、広げつつある。ハンターギルドの避難民には水と食料が配られ、必ず助けるとの約束が、ひとまずは守られる。
「オイラなんざ、凡庸で生半可なリーダーだったぜ。集まった魔物ハンターたちが凄かったんだ。感謝するなら、ハンターたちと、それから、フェトにしときな」
ソイユニが、子供っぽい笑みを浮かべ、立ち去る。指示出しに忙しい中、ちょっと挨拶に来ただけらしい。
フェトは、後方支援活動に励んでいるようで、まだ会えていない。ペンダントも返せていない。状況が落ち着いたら、ゆっくり話して、感謝して、返そうと思う。
◇
「アタシも、何か手伝おうか?」
アタシは、暇を持て余して、通りすがりの女エルフに声をかけた。
「これ以上、名声の独り占めはさせません。英雄さんは、大人しく座って休んでいなさい」
女エルフが、気位の高そうな、澄ました口調で答えた。なぜか、長く尖った耳の先まで真っ赤だった。
「はいはい。もう疲れたし、そうさせてもらうわ」
荷馬車の低い背凭れに両肘をついて、グッタリと凭れかかる。実際問題、アタシにできることは、もうない。
救助隊の魔物ハンターたちは、数人で即席パーティを組んで、残った魔物の討伐、避難民の捜索、誘導へと散った。岩の魔法が使える魔法使いがいるなら、大砦を囲む壁の応急修理もするはずだ。
残ったホワイトウルフどもは、敗走していても、適当なヤツをリーダーに小さな群れくらいは作る。壁の内側に留まろうとしたり、物陰に潜んだりもする。
隠れた魔物を探したり、隠れた住民を保護したり、魔物の急襲を警戒しながら大勢の護衛とか、脳筋のアタシにできるわけがない。むしろ、半壊した街中を歩いたりしたら、自分が迷子になる。他の人に迷惑をかける。
同じ理由で、清楚なる白百合も、ハンターギルドの壊れた入り口の前のボロい木のイスに、静かに座っている。誰かに声をかけては、強い魔物の襲来に備えて待機しておいてください、みたいな言葉を貰っている。きっと、ソイユニが皆に入れ知恵したに違いない。
「ありがとね、清楚。最強の一人って、やっぱり凄いわね。アンタ一人でも、ホワイトウルフの群れくらい壊滅できちゃうわね」
アタシは疲れた笑みで、冗談を交じえつつ、清楚なる白百合へと声をかけた。
清楚が、こちらを見る。目が合う。真顔である。
「ソイユニが言うには、私一人では、逃げるザコを追い駆ける間に、住民が全滅するそうです。住民を救えたのは、多くの魔物ハンターが集まり、協力し、ここまで来たからです」
「そりゃまあ、そうだけど。でも、清楚なる白百合の名前に力があるのは、間違いないわ。その名前があったから、集まって、戦って、勝てたんだもの」
アタシの称賛に、清楚が首を傾げた。柄にもなく難しいことを考えるように、混乱気味だ。同じ脳筋なので、表情で分かるのだ。
暫く考えていた清楚が、真顔で再び口を開く。
「それも、違います。この依頼を一番最初に受けたのは、ロリ巨乳ちゃん! です!」
急に力強く、キンキンと高く響く声を張りあげた。
「後方支援として最初に、そして、一番に依頼を受けたのは、依頼主の、ロリ巨乳ちゃん! 本人でした! ロリ巨乳ちゃんは、ロリ巨乳ちゃんでありながら、ロリ巨乳ちゃん自ら、危険に飛び込む覚悟を見せたのです!」
アタシは、ビックリした。フェトは、ロリ巨乳だし、魔物研究者、つまり、ただの一般人だ。魔物ハンターと違って、魔物と戦う力を持たないのだ。
それが、自ら出した依頼に、自ら最初に志願した。安全な場所から推移を見守るなんてせず、他の皆と一緒に、むしろ率先して、危険地帯へと踏み込んだ。
「ちなみに、戦闘員の最初は、私です! ロリ巨乳ちゃんと、同じ一番、お揃いです!」
清楚なる白百合が、自慢げに声を張りあげた。
「これほどの魔物ハンターたちを集めたのは、心を動かしたのは、ピンクハリケーンの知名度でも、清楚なる白百合の名声でもありません! ロリ巨乳ちゃんの、人徳です! 思い知り、感謝しなさい、ロリ巨乳ちゃんに!」
「……そう、そうね。感謝してるわ。やっぱり、フェトは、凄いわね」
アタシは、低い背凭れに背を凭れて、夕焼け空を見あげる。
オレンジ色に染まった雲が、赤い空にぽつりぽつりと浮かぶ。遠くに、家路を急ぐ鳥の鳴き声が聞こえる。
数刻前まで魔物が闊歩していた瓦礫の山に、どこかで救助された子供たちが燥いで登った。見ていた大人たちも、一緒になって笑った。場の空気が、平和な日常に早く戻りたいと訴えるように、穏やかに流れ始めていた。
アタシは、ああ、本当に、たくさんの人たちを救うなんて大それたことができたのだなあ、と夢見心地で微笑した。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第54話 EP8-14 穏やかな夕暮れ/END
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