第53話 EP8-13 脳筋二人
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
あちこち崩れた倉庫で、ホワイトウルフのボスに苦戦していたら、純白の清楚なドレスローブを纏った、二十歳くらいの華奢な美女が現れた。美女は両手に、百合の花を模して、花弁が重なるような特殊な構造をした、メイスや瓜錘に近い、白くて大きな鈍器ハンドベルを握っていた。
いや、まあ、どうしてこのタイミングでここにいるのか分からないが、清楚なる白百合だ。救助隊の先頭で踏ん反り返っていた、最強の魔物ハンターと評されるうちの一人、だ。
「道に迷いました!」
清楚なる白百合が、キンキンと高く響く声をあげた。
「ソイユニが、大砦周辺レベル以上の魔物がいたら倒せ、と」
言いかけて、キョロキョロと周囲を見まわす。
「スパイラルホーンは! どこですか!?」
清楚なる白百合が、キンキンと高く響く声で聞いてきた。
ソイユニがいないので、要領を得ない。同じ脳筋なので、言いたいことは、何となく分かる。
「あの咆哮って、スパイラルホーンなんだ?」
アタシは、質問に質問を返した。
「スパイラルホーンの咆哮は、ギュオオオオーーーン!、です」
似てる。咆哮の真似が上手い。さすが最強の一人と呼ばれるだけある。
「ロリ巨乳ちゃんに! 格好好いところを見せようと! 飛び出してきたのですが!」
「えっ!? フェトも来てるの!? 危なくない?」
「後方支援にいます。危険はありません。万が一、ピンチになっても、私が駆けつけます!」
清楚なる白百合が、キンキンと高く響く声で、興奮気味に鈍器ハンドベルを振りあげた。
「あっ! スパイラルホーンは、ホワイトウルフにぶつけてるヤツだから。まだ放ってていいわよ」
アタシも、フェトがいないから、要領を得ない。話が微妙に噛み合わない。
「困りました」
清楚なる白百合が、困り顔をした。解決案を求めて縋るような目で、アタシを見た。
「アタシも、困ってるわよ。どうすりゃいいのよ」
アタシも、困り顔をした。
◇
『ガウッガウッ』
ザコホワイトウルフが数匹、清楚なる白百合に襲いかかった。
清楚なる白百合が、白いドレスローブから露出した華奢な肩の前に構えたハンドベルを、華麗に振った。
百合の花を模した白いハンドベルが鳴る。カラァーンと、教会の鐘の音量で響く。永続付与された魔力が白く淡い光として認識できるほどに、強力な魔力付与武器である。
襲いかかったザコどもが、見えない何かにぶつかった。清楚の少し前で止まった。
相変わらず、見ただけでは何が起きたのか分からない。見えない何か、あるいは何だか分からないもの、あるいは見えない壁、あるいは空気の壁、あるいは音の壁に、ぶつかった。
巨体の突進すら阻む力である。ザコどもには勿体ないほど強い。
ザコどもが弾かれて、レンガの床に、壁に激しく衝突する。何匹かは消えて、宝石が落ちる。
間髪入れず、さらに数匹のザコが飛びかかり、襲いかかった。
清楚なる白百合が、鈍器ハンドベルの打撃と華奢な腕の振りで追い払った。
数秒遅れて、さらに数匹のザコが飛びかかり、襲いかかった。
ハンドベルが振られ、カラァーンと、教会の鐘の音量で響く。襲いかかったザコどもが、見えない何かにぶつかり、弾かれる。
さらに数秒遅れの波状攻撃で、数匹のザコが飛びかかり、襲いかかった。
清楚なる白百合が、鈍器ハンドベルの打撃と華奢な腕の振りで追い払った。
ここまで見れば、あの魔力付与武器の特性が、何となく分かる。子供でも予想できる。
「これは、勝負どころね……」
アタシは、独り言を呟いた。
あれが連続使用に不向きな武器だと、アタシは知っていた。ホワイトウルフどもも、弱点に気づいたような、全体の動きと、雰囲気の変化を感じさせた。
『ガウッガウッ』
数匹のザコが、清楚なる白百合に飛びかかる。
ハンドベルが振られ、カラァーンと、教会の鐘の音量で響く。襲いかかったザコどもが、見えない何かにぶつかり、弾かれる。
「グルゥァッ!」
ホワイトウルフのボスが動いた。低く重く濁った咆哮で、清楚なる白百合に飛びかかった。
清楚は、同時に襲いくるザコどもを、鈍器ハンドベルの打撃と華奢な腕の振りで追い払う。ザコどもで手いっぱいで、ボスにまで対処が間に合わない。
「清楚っ?!」
アタシは、慌てた声を出した。
ボスの大きな体躯が、しなやかな前脚が、長く鋭い爪が、清楚なる白百合の頭を捉えた。
◇
そんな気はしてた。
「困りました」
清楚なる白百合が、困り顔をした。
ホワイトウルフのボスの爪は、清楚の頭部に当たって、止まって、振り抜けずにいた。
ちょっとでも清楚の心配をしてしまって、損した気分だ。グランゲーターにぶん殴られて無事だった最強脳筋前衛が、普通サイズの五倍のホワイトウルフごときの攻撃で、どうこうなるわけがない。
「ソイユニの指示は、大砦周辺レベル以上の魔物がいたら倒せ、でした。ですが、この魔物は、それ未満です」
清楚なる白百合が、困り顔で、大真面目に、恨みがましく、ホワイトウルフのボスを見あげる。
ホワイトウルフどもは、動けない。身構えたまま、微動だにできない。
この場を支配するのは、恐怖だ。波状攻撃を一歩も動かずに捌き、ボスの一撃に傷の一つも負わない、清楚なる白百合というバケモノに対する恐怖だ。
「だぁりゃぁーーーっ!!!」
アタシは、助走をつけて、赤茶色のレンガをブーツで強く蹴って、高く跳躍して、ボスの背中に大斧を振りおろす。
恐怖に動けない相手を襲うとか、全体の意識が清楚に集中した隙を突くとか、背後から不意討ちとか、卑怯なんて負い目は必要ない。誰かを守るためなら、それがたった一人のためでも、あらゆる手を使って、自分の望む結果を手繰り寄せてこその魔物ハンターだ。
ホワイトウルフのボスは、恐怖に動けないまま、清楚なる白百合から目を逸らせず、ほとんど動かずに、背中に刃を受けた。消えた。大きめの宝石がレンガの床に落ちて、硬く高く鳴った。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第53話 EP8-13 脳筋二人/END
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