第52話 EP8-12 ボスとの遭遇
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
アタシの目の前に、北の大砦を占拠する大群のボスらしきホワイトウルフがいる。ホワイトウルフは、見た目は白い狼の、獣型の魔物である。
ソイツは、ボスだけあって、他のヤツの五倍はデカい。アタシを目の前にしても、赤茶色のレンガの床に、眠る姿勢で伏せたままでいる。片目だけを開けてチラ見して、退屈とばかりに欠伸する。
いいだろう。余裕をかましているうちに、倒してやればいい。
両刃の大斧を、平らな胸の前に構える。ボスとの間合いを、一歩詰める。
「ガウッ」
周囲のザコホワイトウルフが、一斉に飛びかかってきた。
「りゃっ!」
体を軸にして、大斧を横振りに振りまわす。ザコが何匹か消えて、宝石が落ちる。
何匹かの爪と牙は、白銀の鎧に当てて流す。着地したザコどもが、素早く体勢を立て直して、再び飛びかかってくる。
大斧で叩っ斬る。弾き返す。叩き落とす。
「くっ」
ザコどもの猛攻を捌ききれず、一歩さがってしまった。ボスまで一歩遠退いた。
倉庫の外から、次々とザコが現れる。どいつもこいつも、躊躇なく、アタシに飛びかかってくる。
大斧を横振りに振りまわし、叩っ斬る。弾き返す。叩き落とす。
何匹消えて宝石になっても、間断なく、ザコどもが次々と飛びかかってくる。
「あ~~~~~っ! しつこいっ!」
思わず叫んだ。
ホワイトウルフなんて、単独であればザコだ。でも、ボスを守るコイツらは、死を恐れない強兵だ。作戦を迷いなく遂行する、冷徹な軍隊だ。
さらに、一歩遠退く。ザコを何匹も倒す。次々とザコが追加される。
さらに、一歩遠退く。久しく、体が重く感じる。一度に倒す数が減って、鎧に受ける爪牙の数が増えていく。
「疲れた! お腹空いた! 喉渇いた!」
思ってることを叫んだ。
困った。ボスに近づけない。
大斧が届く距離に近づきたい。せめて、ワンチャンスで駆け込んで一撃を狙えるくらいは維持したい。
背中がレンガの壁に当たった。ガチャン、と白銀の鎧が鳴った。
◇
ホワイトウルフのボスが、眠る姿勢で床に伏せたまま、退屈そうに欠伸する。
遠い。接近戦専門のアタシなんか警戒する必要もない、と余裕を見せてくるくらいに、遠い。
倉庫内には数十匹のザコがいる。外からも、まだいくらでも入ってくる。
『ギュオオオオーーーン!』
倉庫の外から、大音量で、謎の咆哮が聞こえた。たぶん魔物の、鈍重な響きだった。
ゴールドの援護だ。近くに別の魔物がいたら誘導してホワイトウルフの群れにぶつけるよう頼んでおいた。もちろん男前に快く引き受けてくれた。
予想外の事態と、ホワイトウルフどもの統率が乱れた。アタシを見るヤツらと、咆哮の方を向くヤツらに割れた。ずっと伏せていたボスが、頭をもたげた。
来た! ワンチャンスだ!
「ふぁっ!」
ボスへと一直線に踏み込む。踏み込んだブーツで、赤茶色のレンガの床を強く蹴って、跳ぶ。
大斧を頭上へと振りあげ、背中の後ろにまで振りかぶる。ザコどもが飛びかかってくるのは、無視する。
鎧に当たる爪牙は、どうでもいい。浅い傷なら、気にしない。ザコに深い傷を受けるほど、ヤワじゃない。
決める。このワンチャンスで、決めてみせる。
「っりゃぁーーーっ!!!」
ボスの頭を目掛けて、ザコどもの攻撃を身で受けながら、大斧を振りおろした。渾身の一撃だ。
伏せたボスが、後方へと跳躍した。体のデカさにしては、身軽で素早い。
大斧がレンガの床を穿った。外れた。避けられた。
「ちっっっくっっっ!」
跳び込んだブーツで、床を強く蹴る。離れたボスを追って、全身を前方へと押し出し、さらに跳ぶ。地面に振りおろした大斧を、勢いに逆らって、背中と肩と腕の筋力で無理矢理に振りあげる。
「ガウッ」
ザコが、ガントレットの手首部分に咬みついた。
魔物相手の手袋型だから、牙が通る隙間はない。白銀だから、ホワイトウルフごときの牙には貫かれない。
でも、食いついて、放さない。大斧を振りあげる腕を、邪魔しようと身を捩る。
「もうっ!!!」
ボスが、横へと跳んで逃れた。大斧の振りあげは、間に合わなかった。掠りもしなかった。
ザコが邪魔すぎる。集団になると急に強くなるザコとか、嫌すぎる。
アタシは、ガントレットに咬みつくザコを、大斧の柄尻で打ち落とす。ザコは怯みもせず、距離を空け、体勢を整え、低い姿勢で、再びアタシに飛びかかる機会を窺う。
一匹だけじゃない。そんなのが、周囲に何十匹もいる。何匹も、代わる代わる飛びかかってくる。
ザコどもを、大斧で叩っ斬る。弾き返す。叩き落とす。
ボスは、また遠退いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
疲れて、息が乱れ始めた。お腹空いた。喉渇いた。
背中がレンガの壁に当たった。ガチャン、と白銀の鎧が鳴った。ワンチャンスが、終わった。
◇
『ギュオオオオーーーン!』
謎の魔物の鈍重な咆哮が、大音量で聞こえた。もう、ザコの一匹たりとも、咆哮の方は見なかった。
ホワイトウルフの群れってヤツは、アタシの予想より強かった。このまま戦っても、ボスを倒せる気がしない。都合好くチャンスがまた来るとも思えない。
大斧が重く感じる。勝ち目の見えない戦いに、気力が落ち込む。最初から、無茶で無謀だったのかも知れない。
「うあ~~~っ! でもほら、避難所の人たちに助けるって大見得切っちゃったし、ゾルドヌの結婚式に出席しないといけないし、フェトにペンダント返すって約束したからね。魔物ハンターたるもの、無茶なら無茶を通すしかないし、奇跡が必要なら奇跡くらい起こしてやるわ!」
アタシは覚悟を決めて、両手で握る大斧を、頭上に構えた。アタシとホワイトウルフどもで、睨み合いになった。崩れた箇所から日の射す倉庫が、僅かの間、静寂に包まれた。
静寂に、ガラガラと、瓦礫の崩れる音がする。思わず、音のした方を見る。
倉庫の壁面の崩れた穴の前に、聖職者を思わせる純白の清楚なドレスローブを纏い、銀色の柔らかく膨らむ長い髪をした、二十歳くらいの華奢な美女が立っていた。目が合った。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第52話 EP8-12 ボスとの遭遇/END
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