第51話 EP8-11 魔物ハンターの力
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
魔物ハンター百名の救助隊戦闘部隊に、数百頭のホワイトウルフの大群が、正面から突撃をかける。救助隊は半壊した大門の外に布陣する。雪崩にも似た敵の大群が大門を通過すれば、あっと言う間に衝突することになる。
「おっ、おい、あれ、いくら何でも、多すぎないか?」
「とめるも何も、あの数とぶつかったら、吹っ飛ばされるだろ?」
ハンターたちに動揺が広がる。怖気の声が聞こえてくる。
ホワイトウルフは、一匹一匹は強くない。大きさは人間の大人と同じくらいで、体重は半分ほどしかない。
しかし、数百頭が一丸となると、話が違う。個の強さに大きな意味はなく、速度、重量、士気、戦術とかの勝負になる。
「落ち着け! 問題ない! 今のうちに、前衛で盾を並べて、壁を作れ!」
ソイユニは、少年のガラガラ声を張りあげた。
「うっ、うわぁっ!」
誰かが、悲鳴に似た声を出して、矢を打ち始めた。
「弓矢は、もっと近づいてからだ! 号令を待ってくれ!」
ハンターたちに動揺が広がる。冷静さを欠いて、ほとんど誰も聞いてない。敵の大群の迫力に、呑まれている。
不慣れは仕方ない。これほどの魔物の大群と対峙した経験のあるものなんて、そうそういるもんじゃない。慌てるなという方が無茶だ。
だが、今ここで、その無茶を通せなければ、負ける。無理を覆せなければ、総崩れになって、かなりの被害を被る。
「魔物ハンターなら、魔物を前に臆するな! 守るべき人々を前に、我が身を惜しむな!」
ソイユニは、叫んだ。鼓舞の言葉は、しかし、いよいよ誰にも届かなかった。多くが慌てふためき、逃げ道を探すようにキョロキョロしていた。
無数の魔物の足音が、地面を震わせる。白い狼を思わせる魔物の大群が、白い塊となって迫る。重く濁った吠え声が、大音量の不協和音となって耳を劈く。
圧倒される。光景と音に、心を押し潰されそうになる。ソイユニでさえ、恐怖に囚われ、後退る。
こうなったら清楚を前に出して囮に、いや、脳筋の清楚に囮は務まらない。他に、他に手立ては、……ダメだ、考えが甘かった、ダメだ、このままでは、負ける。
「おーい、ソイユニさん! 魔法使いの爺さんたちが、取って置きの奥の手を使っていいか、ってよ!」
十文字槍に鋼のハーフプレートメイルの細マッチョ男に、大声で呼ばれた。その男は、その一団は、このピンチにも落ち着いていた。
「爺さんたちが合同で準備した大魔法らしいぜ。奥の手なら温存しとけ、って言ってはみたけど、今が勝敗の分かれ目だ、って聞かなくてよ。一応、指揮官の許可だけ貰ってこい、ってわけで使いっ走りさ」
細マッチョ男が、茶化すような笑みで肩を竦める。
そうだ。魔物ハンターってヤツは、この程度で揺らぐほどヤワじゃない。あの程度の魔物に負けるわけがない。
「やってくれ! 頼む!」
ソイユニは、声の限りに叫んだ。頭上に、両腕で、大きく丸を作った。
◇
半壊した大門の方で、大きな爆発が起きた。轟音と、炎と煙が広く、高く吹きあがった。
「始まった! こっちも動くわよ!」
アタシは、ハンターギルドの屋上の石の手すりに、片膝をかけた。
アタシはユウカ。『ピンクハリケーン』の二つ名で呼ばれる魔物ハンターだ。
「こりゃまた、派手におっ始めやがったぜぇ!」
ゴールドが、豪快に笑った。
レフトオブゴールドも、ランクSの魔物ハンターだ。左腕に曲線的なフォルムの金色のガントレットを嵌めた、巨漢のハゲマッチョ男だ。ツルツルテカテカピカピカだ。
アタシは、爆発の手前の、ほとんどの建物が崩壊した区画の中央辺りを指さす。
「アタシは、あの区画の真ん中の、瓦礫が山になってるとこだと思う。全体を見渡しやすいし、指示も出しやすいだろうし」
ゴールドが、金色のガントレットで、中央から右へと外れた方向にある、原形を留めた倉庫街を指さす。
「ホワイトウルフは勇猛じゃあ無ぇ。用心深く狡賢いから、あの辺りに隠れてると見るぜ。群れへの指示は伝令を使ってるはずだ」
「むぐぐっ……。さすがは、地元のランクSね。悔しいけど、素直に信用しておくわ」
アタシは、右手の親指を立てて微笑した。自分の予想が掠りもしなくて、ちょっと不服で、口の端が引きつった。
ゴールドが、右手の親指を立てて、男前の微笑で応えた。
「しかしよぉ、ピンクハリケーン。そいつぁ、本気かぁ?」
「本気も本気よ。救助隊が勝つに決まってるけど、こっちは時間との勝負、今日中にここまで救助に来てもらわないと困るんだから。勝負を一気に決めるために、ホワイトウルフどもを背後から撹乱してやるの」
「ソイツァ名案だがよぉ。単独で突撃は度胸ありすぎだよなぁ、度胸のあるヤツァ好きだがよぉ。屋上から壁面沿いに降りるってのも、度胸ありすぎだろぉ?」
「壁面の出っ張りを伝って降りるから大丈夫よ。一階の群れを相手にするのは、時間が惜しいし。あ、援護だけ、お願いね」
「援護は、任せときなぁ。オレッチにできることなら、何だってやってやるぜ」
右手の親指を立てるゴールドに手を振り、石の手すりを越える。垂直に近い壁面をブーツの踵で滑り、窓枠に靴底を引っ掻けて減速する。
この先は単純明快だ。魔物を相手に大斧を振りまわせばいい。大得意だ。
「いぃやっほぉぅーーーっっっ!!!」
アタシは、我慢から解放される歓喜を乗せて、高らかに雄叫びをあげた。
◇
屋上から地面へと、垂直に近い壁面を滑り降りる。石畳に着地し、膝を曲げてクッションにする。
「ガウガウッ!」
ホワイトウルフが二匹、アタシの着地の瞬間を狙って、襲ってきた。
「ギャンッ!?」
上から高速で飛来した石に打たれて、二匹とも消えた。石はそのまま石畳を穿って、突き刺さった。宝石が二個、石畳に落ちて、硬く高い音で鳴った。
「ありがとっ!」
アタシは前を向いたまま声を張りあげて、真っ直ぐ前へと全力で駆け出した。
荒れた石畳を踏んで、瓦礫だらけの大通りを駆ける。そこら中にホワイトウルフがいる。アタシに気づいて、追ってくる。
飛びかかってくるホワイトウルフを、両刃の大斧を振りまわして叩っ斬り、打ち落とす。減速せず、そのまま瓦礫の間を駆け抜ける。
十字路を右に曲がる。角にある崩れた建物から、ホワイトウルフが飛び出す。無視して走り抜ける。
にしても、ゲンナリするほどホワイトウルフの数が多い、多すぎる。全部を無視はできない。正面から突っ込んでくる三匹を見据え、両手で握る大斧を、頭上に構える。
「りゃっ!」
全力で走りながら、全身で振りおろした。
「ギャウッ」
三匹を纏めて両断した。宝石が三個落ちた。勢い余った大斧の刃が、石畳に刺さった。
石畳に突き立つ大斧を握ったまま、ジャンプし、前転する。空中で仰け反り、背筋と腕力で大斧を引き抜く。着地した足で地面を蹴り、減速せずに走りへと移行する。
走る。疲れていても、苦しかろうと、空腹でも、走る。襲いくるホワイトウルフどもを返り討ちながら、とにかく走る。
「……おっ? もしかして、あれ?」
こっちに来るヤツとは別に、一匹だけ逆進するのを見つけた。逃げる感じではない。離れていくのに、役目を果たそうとしている雰囲気がある。
ソイツを追う。気づかれないように距離を保つ。襲ってくるヤツは叩っ斬って、大きな瓦礫に身を隠しながら走る。
ソイツが、まだ形の残る倉庫に、レンガの壁の崩れた穴から入った。アタシは追って、同じ穴に滑り込んだ。
「うあっ……」
ビックリして、思わず声が出た。
広い倉庫の天井は崩れて、明るい朝日が射す。赤茶色のレンガの床には、他のヤツの五倍はデカいホワイトウルフが、眠る姿勢で伏せる。光をキラキラと反射する、白く長く美しい毛並みをしている。
「本当にアレが伝令で、アンタがボス? アタシの知識と経験は地元ハンターの足元にも及ばない、ってこと? まあ、アンタを倒せば終わりだろうから、いいけど」
アタシは、北の大砦を占拠する大群のボスらしき、デカいホワイトウルフを指さして見得を切った。
デカいボスらしきヤツは伏せたまま、片目だけを開けてアタシをチラ見して、退屈とばかりに欠伸をした。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第51話 EP8-11 魔物ハンターの力/END
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