第50話 EP8-10 清楚なる戦い
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
清楚なる白百合は、北の大砦の、半壊した大門の前に立つ。百合の花を模した、白く大きな鈍器ハンドベルの二刀流を構える。
ハンドベルを、純白の清楚なドレスローブから露出した、華奢な肩の上へと振りあげる。華奢な肩の前へと振りおろす。右手のハンドベルと、左手のハンドベルを、交互に振る。
カラーンカラーン……カラーンカラーン……、と教会の鐘の音に似た音が、町に鳴り響く。大音量で、町の隅々にまで響き広がる。
清楚なる白百合は、最強の魔物ハンターの一人である。二十歳くらいの華奢な美女で、聖職者を思わせる純白の清楚なドレスローブを纏い、銀色の柔らかく膨らむ長い髪をしている。
「もういいぞ、清楚! そんだけ鳴らせば、周囲のホワイトウルフは全部こっちに来るだろ!」
ソイユニが、変声期真っ只中くらいの、少年のガラガラ声で叫んだ。
ソイユニは、ホビットと呼ばれる亜人種で、外見的には、少し耳の尖った十歳くらいの子供である。掠れた茶髪で、分厚い布の服に分厚い布のマントで体を覆う。
「分かりました! 魔物の襲撃に備えます!」
清楚が、ハンドベルを振るのをやめて、キンキンと高く響く声で答えた。
◇
「よし! じゃあ、作戦を説明するぜ! 皆、聞いてくれ!」
ソイユニは、目の前に並ぶ百名の魔物ハンターに向けて、ガラガラ声を張りあげる。
ハンター百名は、なかなかに規模が大きい。最強の一人の相棒のソイユニでも、大砦直々の討伐依頼や、帝都周辺レベルの魔物の退治でしか率いたことがない。
「もう一度確認するが、ピンクハリケーンはハンターギルドにいるんだな? 間違いないな?」
「はい、間違いありません。屋上にいて、こちらに気づいて、手すりに凭れて俯いて、泣いて喜んでいました。こちらとしても、急ぎ駆けつけた甲斐があるというものです」
女エルフが、気位の高そうな、澄ました口調で答えた。美女よりは美形な整った顔が、感慨深げに嬉しげに微笑した。
「よし。作戦は事前に説明した通り、ここで迎撃戦から始めるぜ。まずは、ホワイトウルフの数を減らす」
ソイユニの指示に、ハンターたちが騒つく。目標がハンターギルドと分かっているのに、ここに留まるのは不可解との声のようである。
「先に言っておくと、こっちは、一人一人は強いが、集団としては寄せ集めだ。敵のホワイトウルフは、一匹一匹は弱いが、統率の取れた大集団だ。損害を度外視した削り合いを仕掛けられたら、負ける可能性もあると肝に銘じてくれ」
【ホワイトウルフごときに負ける? おれぁランクAだぞ、馬鹿にしてるのか?】
【最強の仲間のくせに、気の小せぇ奴だな。あの細ぇ女が最強ってのも、怪しいぜ】
ヒソヒソ声で聞こえてくるハンターたちの反発や疑念に臆することなく、ソイユニが続ける。
「こっちの主戦力は、多対多の苦手な清楚じゃあない。仲間との連係に慣れてる高ランカーの固定パーティ、要するにアンタらだ。特に、そこのエルフさんとこは、人数も高ランカーも多いから、期待してるぜ」
「普段は馬車団の用心棒ですから、纏まっての地上戦は得意ではありません。ですが、ハンターチーム『イーストチャリオッツ』の名に恥じぬ強さを見せましょう」
女エルフが、気位の高そうな、澄ました口調で答えた。
ソイユニは、不思議そうに女エルフを見る。その仲間たちを見る。
その一団は、フェトが信じた、情に厚い魔物ハンター、と呼べる存在だった。大砦近くを往来する馬車団に雇われる、ランクSも交じる、ランクA主体のパーティだ。そんな高ランカー集団なのに、十分とはいえない報酬で、もしかしたら最初期の雀の涙の時点で、北の大砦を目指したはずだ。
「ちょっとした疑問なんだが、アンタらはどうして、この依頼を受けたんだ? この依頼の報酬なんて、アンタらくらいになれば、全然足りないだろ? ああ、ちなみに、清楚とオイラは、縁あってピンクハリケーンを助けにきたんだ」
「似たようなものです。北部の魔物の最大勢力ホワイトウルフを撃退した実績、数千数万の住民を救った名声、ハンターギルドからの高評価、そして何より、せっかく知り合ったピンクハリケーンを助けたかったから、来たのです」
女エルフが、誇らしげに微笑した。
「胸が俎板ってところに、親近感が湧いたんだよな」
若い男のハンターが、笑いながら揶揄った。
「セクハラやめてください。リーダーに訴えますよ」
女エルフが、長く尖った耳の先まで真っ赤にした。
◇
「最前列は、中央を清楚、左右を高ランカーパーティで固める。敵は、正面と、左右から回り込んで挟撃してくると予想する。最前列の左右端が崩れたら終わり、くらいの覚悟で踏ん張ってくれ」
「ソイユニ! 私は、何をすればいいのですか?」
清楚が、キンキンと高く響く声で、急かすように聞いた。やる気満々だ。
「清楚は、出番がない方がいい。たまに流れてきたヤツを倒せ。あとは、ピンチの味方がいたら、可能な範囲でフォローしろ」
「それでは、地味です、目立てません! 後方支援にいるロリ巨乳ちゃんに! 活躍をアピールできません!」
清楚が、キンキンと高く響く声で、不満を叫んだ。
「いいだろ、地味で。後方支援部隊の方も、忙しいんだ。どうせ、こっちを見ちゃいない」
「嫌です! 私の強さを円らな瞳に焼きつけてもらうのです! 惚れなおしてもらうのです!」
「おいおい、相手がオマエに惚れてる前提かよ。まあいいけど、だったら、万が一、大砦周辺レベル以上のが出てきたら、行って瞬殺しろ。状況的に、ホワイトウルフ以外は出やしないだろうけどな」
ソイユニが、少年のガラガラ声で、雑に宥めた。完全に諦めた呆れ顔だった。
清楚の舌打ちと歯噛みが聞こえる。不機嫌に、荒れた石畳を踏んでいる。
ソイユニは、慣れた様子で無視する。
「敵が来る前に、陣形を組んでくれ! オイラの予想では、敵の第一陣は正面から大群で突撃してくる! 別の群れが時間差で挟撃してくるだろうから、正面衝突は絶対に勝つぜ!」
「ソイユニさん! 正面、ホワイトウルフの群れが向かってきやす! 数は、えっと、うあ、数百!」
周囲の警戒をしていた監視役が、大門の先の、瓦礫が散乱する大通りの残骸を指さした。
指さす先に、砂煙があがる。石畳を蹴る無数の足音が、遠く聞こえる。急速に近づいてくる。
「いよいよだ、絶対に死ぬなよ、オマエら! 負傷も、しないように気をつけろ! 大群相手だ、削り合いにさせずに、質で圧倒する、頼りにしてるぜ!」
『おぉーーーっっっ!!!』
前方に、ホワイトウルフの大集団が見えた。魔物ハンターたちが、各々の武器を構え、鬨の声をあげた。住民たちの命運を賭けた戦いが、始まったのだ。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第50話 EP8-10 清楚なる戦い/END
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