第49話 EP8-9 戦う理由
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
フェトが、救助隊を間に合わせてくれた。
救助隊を構成するのは、百人以上の魔物ハンターだ。リーダーは、最強の一人、清楚なる白百合だ。指揮官は、超脳筋の清楚の優秀な補佐役、ソイユニだ。
戦力に、不安も問題もない。
となると、残る問題は、あと一つか。
「ねぇ、ゴールド。その中に、エルフの弓使いはいる? 大事なことなの」
アタシは、真顔で聞いた。深刻なほどに重い声だった。
「おう、いるぜ。エルフは目がいい、ってのは本当なんだな。こっちを見て、ずっと手を振ってやがる」
ゴールドが、珍しいものを見て喜ぶ声で、答えた。
「ええっ?! エルフの弓使いが、アタシに手を振ってるの?! 貸して!」
アタシは、ゴールドから遠眼鏡を奪い取った。右目に当て、救助隊がいるであろう方へと向けた。
救助隊が見える。先頭に立って踏ん反り返る清楚が見える。華奢で、胸が大きくて、腰は細くて、お尻が大きくて、スタイルの良さが、なんだか癇に障る。
「どこ? スピニースさぁんは、どこよ?」
焦って探す。思わずカワイイ声が出る。来てくれると信じていたけれど、アタシのために、危険を顧みず、こんなところまで来てくれるなんて、嬉しい。
スピニースさぁんは、アタシの好みのド真ん中の、華奢なイケメンエルフだ。フルプレートメイルの巨躯のマッチョの大男のフォートレス、遊牧民の日焼け半裸マッチョのロニモーと、即席パーティ四人でロック鳥を退治した。
スピニースさぁんは、信じられないくらいに、途轍もなく強い。最強の一人『ヘブンズソード』の元パーティメンバーでもある。スピニースさぁんの強さあってこそロック鳥を倒せた、と言っても過言ではない。
しかも、人間ができていて、他者に優しく、自分に厳しく、誇り高くて、強いのに強さを鼻にかけたりしない。口数は少なくて、何も言わずに気遣いしてくれる。素敵なイケメンなのである。
あ、でも、寡黙でストイックなスピニースさぁんが、ずっと手を振るような気さくな人とは意外だ。背を預け合って戦って、力を合わせて強敵を倒して、親密になった証拠だろうか。意外な一面を知って、ギャップ萌えで、いい雰囲気になるヤツだろうか。
「いたぁ!」
見つけた。エルフが手を振っていた。華奢で、美女よりは美形だけど、いや、まあ、なんというか、女エルフだった。
宝飾品みたいな小型の弓を、白い手に持っている。小砦ステンイから東へと向かう馬車の用心棒で、気位の高そうな澄ました口調のエルフ、と記憶している。
手を振っている。アタシの方を真っ直ぐに見て、無事の再会を喜ぶように、全力で手を振り続けている。
「あ、これ、返すわ」
アタシは失意した。目から光が、声から気力が失われていた。ゴールドに遠眼鏡を返して、手すりに凭れ、項垂れた。
エルフではあった。スピニースさぁん、ではなかった。テンションが一気にさがった。
「エルフの知り合いたぁ、さすがだな。やっぱり、世界は広ぇ。この町は閉じちまってて、退屈だ」
「乗合馬車の用心棒をしてたハンターよ。一回同乗した顔見知りってだけなのに、わざわざ駆けつけてくれたのは嬉しいけど。まあ、嬉しいっちゃあ、嬉しいけど」
項垂れたまま、ゾルドヌの方を見る。騎士の浅黒い顔には、強い決意が見える。
「ゾルドヌは、みんなに、いつでも脱出できるように準備してもらって。救助隊が大門のところまで来てる、って伝えて」
「分かった! 任せろ! 少し早いが、ここの皆の代表として、貴公の勇気に感謝するぞ、ピンクハリケーン!」
「あっ! ちょっと待って!」
石扉に向かうゾルドヌを呼びとめた。
「何だ? まだ時間はあるな。用があるなら、遠慮なく言ってみろ」
ゾルドヌが足をとめ、振り向いた。
◇
「ゾルドヌってさ、帝国騎士よね。どうして、将軍と一緒に脱出しなかったの? 身分とか、権力とか、命より大事なものが、ここにあったの?」
アタシは、ホワイトウルフを撃退し、人々を助けるために、これから激戦に向かうのだ。空腹と渇きに負けず、戦う力を得るために、テンションが跳ねあがるような何かが欲しいのだ。だから、無茶を承知で、決意を秘めるゾルドヌに聞いてみることにした。
毛玉みたいに膨らむ黒髪が、動揺に揺れる。浅黒い顔が、目に見えて赤くなる。
「おいおい、ゾルドヌの旦那。反応が最初っから全然変わんねぇなぁ。もう、人前で何度も話したじゃあねぇか」
腕組みしたゴールドが、マッチョな巨漢を揺らして、豪快に笑った。ツルツルテカテカした筋肉が、陽光を反射して光った。筋肉と一緒に、光も揺れた。
ゾルドヌが、チラリと横目にゴールドを見る。赤い顔のまま視線を戻して、アタシを真っ直ぐに見る。
「ま、まあ、そうだな。今さら照れることでもないから、貴公にも話しておこう」
コホンッ、と照れた咳払いをする。帝国軍の黒いプレートメイルには、似合わない。
「俺は、パン屋のビュフィさんが好きだ。ビュフィさんの焼いたパンが好きだ。毎日、毎食分、買いに通うくらいに好きだ」
ゾルドヌの告白に、アタシは項垂れた顔を跳ねあげる。瞳をランランと輝かせ、見つめる。希望の数百倍くらい、熱いストーリーの予感がする。
「確かに、俺は、大砦から脱出する将軍の護衛の一人として、作戦の説明を受けた。しかし、その際に、ビュフィさんの笑顔が浮かんで、軍服の階級章を千切り捨てた。すでに魔物が侵入して混乱する町におりて、ビュフィさんが避難していそうなハンターギルドに来てみたが、いなかった」
「で、アンタはどうするつもり、ゾルドヌ?」
「ビュフィさんは、別の避難所で、必ず、生きて助けを待っている。だから、救助隊に合流したら、俺はビュフィさんを捜しにいく! 見つけて、プロポーズすると決めている!」
ゾルドヌが、力強く、迷いなく、宣言した。浅黒い顔は、やっぱり赤かった。
「こんな個人的な理由で悪いな。軍とか、町とか、命とか、正義とか、そんな大義は、これっぽっちもないんだ。だが、人間なんてものは、そういう小さなも」
「ぃよっしゃぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
アタシは、ゾルドヌの言葉の途中で我慢できずに、雄叫びをあげた。テンションが、天井近くまで跳ねあがった。
誰もが、己の戦う理由のために、戦っているのだ。誰もが、己の大切な何かのために、力の限り、足掻き、藻掻いているのだ。
だから、アタシも戦おう。大切なものを守ろうとする人々の、助けとなろう。
「絶対に! みんなで! 助かるわよ!」
「頼りにしてるぜ、ピンクハリケーン!」
「ああ、当然、必ずだ! 結婚式には、千人全員、招待させてもらう!」
三人で、拳を突き合わせた。無事と再会を、約束した。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第49話 EP8-9 戦う理由/END
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