第48話 EP8-8 三日目!
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
高い壁に、三日目の朝日が昇る。薄暗かった空に、澄んだ青が広がる。ぽつりぽつりと灰色だった雲が、真っ白に染まる。
荒れ果てた街には、ホワイトウルフの遠吠えが響く。太く、重く、濁って、耳に障る。音そのものは、狼のそれに似ている。
あちこちに、白い獣みたいな魔物の集団が見える。砂煙を撒き散らし、好き勝手な方向へと通りを駆ける。
アタシは、ハンターギルドの建物の屋上から、町を見おろす。
フェトが救助を約束した、三日目の朝だ。緊張して、早く目が覚めた。
景色は、三日目にして、何も変わらない。町を囲む壁はあちこちが壊れ、崩れた建物ばかりが並ぶ。北の大砦と呼ばれる大都市は、未だホワイトウルフの群れに占拠されている。
「お腹空いた。喉渇いた」
思わず、思考が口から出た。屋上の石の手すりに肘で凭れて、項垂れた。
地下室の宝石が確保できたから、千人三日分の水は確保できたのだ。
確保できたけれど、ぎりぎり三日を生き延びられる量である。ぎりぎりの量で三日目ともなると、喉が渇く。晴れた空に雨ごいしたくなる。
空腹は、もう、なんというか、いや、考えるのは、やめよう。
「そんなに気負う必要はないぜ、ピンクハリケーン。待ちに待った三日目の、ようやく日の出の時刻だ。今日ってぇ日は、まだまだ始まったばかりだぜ」
レフトオブゴールドが、屋上の床にある石扉を押しあげ、屋上へとあがってきた。ハゲ頭が陽光を反射して、眩しい。
ランクSの魔物ハンターで、巨漢のハゲマッチョ男である。袖なし肩剥き出しの黒革鎧を装備し、左腕には曲線的なフォルムの金色のガントレットを嵌める。ツルツルしていてテカテカしていてピカピカである。
「たとえ救助が間に合わなくても、後悔も要らねぇぜ。無謀な脱出を強行しようってぇ絶望に沈んだヤツラが、アンタのおかげで、救助ってぇ希望を持って三日を生きられたんだ。ここに避難してるヤツラ全員が、もちろんオレッチも、心の底から感謝してるぜ」
レフトオブゴールドが、右手の親指を立てて、男前に微笑する。
「助けるわよ。全員。絶対に」
アタシも、右手の親指を立てて、笑顔で応える。
カラーンカラーン……カラーンカラーン……、と教会の鐘が町に鳴り響いた。
◇
「朝の鐘? 教会にも人がいるの? 避難民?」
アタシは、町に教会を探した。特徴的な高い建物で、すぐに見つかった。レンガ造りの、大きな聖堂に高い鐘楼が突き出していた。
「教会の鐘とは、久しぶりに聞いたぜ。大きな音には、魔物どもが集まるからなぁ。鐘なんぞ鳴らして、大丈夫かぁ?」
ゴールドも、ツルピカおでこの高さにゴツい右手を翳して、教会の方を眺めた。
……いや、教会の天辺の鐘楼の、大きな鐘は動いていない。注意深く観察しても、人の姿も、動きもない。
再び、カラーンカラーン……カラーンカラーン……、と鐘の音が鳴り響く。
やっぱり、鐘は動いていない。そもそも、アタシは、この大砦に来てから、一度も鐘の音を聞いたことがない。教会の鐘の音も、他のどこかの鐘の音も、知らない。
さらに言えば、教会に避難民がいるかどうか、すら分からない。どこかで息を潜める他の住民の在所すら、一箇所も確認できていない。この町のどこにどれくらいの人々が生き残っているのか、隠れているのか、どんな状態にあるのか、一欠片の情報だって入手できていない。
あれが、鐘の音でないのだとしたら、何の音なのだろう。何が、大砦の隅々まで届く大音量で、朝の青空に高らかに鳴り響いているのだろう。
「あっ?! もしかして!?」
アタシは、手すりを両手で握り、身を乗り出し、町を見まわす。思い当たった可能性の一つを、必死に探す。
「まさか、つまり、そういうことかぁ?!」
ゴールドも驚きの表情で、単眼の遠眼鏡を取り出した。右目に当てて、周囲を見まわした。
「どうした? 何があった? なぜ、今、教会の鐘の音が聞こえる?」
屋上の床の石扉が押しあがって、ウネウネと硬く波打ち毛玉みたいに丸く膨らむ黒髪が出てきた。黒いプレートメイルを着た、帝国騎士のゾルドヌだ。肌は浅黒く、彫りが深く、背の高い、その割に肢体の細い、三十歳くらいの見た目だが実年齢はもっと若そうな気がする、男だ。
アタシもゴールドも、返す答えの持ち合わせがない。淡い期待を軽率に口に出すのは、今も恐怖に耐え続ける人々には残酷すぎる。
察したゾルドヌが屋上にあがる。鎧をガチャガチャと鳴らして手すりに駆け寄る。手をかけ、アタシたちとは別の方向を見まわす。
「いた! いやがったぜぇ! マジかよ、おいっ!」
ゴールドが歓喜を叫んだ。遠眼鏡を覗いたまま、少しでも近くで確認しようとするように、身を乗り出した。
「どこっ? どの辺り?」
アタシは駆け寄って、同じ方向を向いて探した。ゾルドヌも来て、三人並んで、同じ方向に目を凝らした。
「大門の一つだ。半壊しちまってるヤツだな。規模は、百人くらいかぁ?」
声が興奮している。籠城の果てに、絶望が希望に代わり、希望が現実になろうとしている。
「人数は、まあまあね。問題は、魔物ハンターたちの力量と、指揮官の手腕か」
アタシも興奮している。本番はまだここからだから、やったぁ!と手放しには喜べない。けれど、気持ちを抑えきれない。
「リーダーは、細っちぃ女だぜ。白いドレスローブに、白くてデカいハンドベルが武器みてぇだな。武器は悪くねぇが、見た感じが頼りねぇ」
「最強の魔物ハンターと評されるうちの一人、『清楚なる白百合』よ。最強の一人がリーダーなら、全体の士気は高いわね。アタシ以上の脳筋だから、指揮能力には不安があるけど」
「最強だと?! マジか! アンタ以上たぁ、凄ぇ!」
ゴールドが、いよいよ興奮する。アタシにも見せてほしい。きっとゾルドヌも同じ気持ちである。
「なるほどなぁ。だから、先頭に立って、踏ん反り返ってるだけなんだな。他のヤツらに指示を出してるのは、……子供? いや、ホビットか?」
「清楚なる白百合の相棒の、ソイユニね、たぶん。優秀な補佐役だから、指揮能力も信頼してよさそう」
ソイユニが指揮する百人の魔物ハンターなら、ホワイトウルフごときには負けない。清楚なる白百合が一緒なら、帝都周辺レベルの魔物が乱入しようとも、対処が可能だ。
アタシは、安堵した。嬉しくて、心の中で叫んだ。平らな胸の前に、強く拳を握った。
フェトが、やってくれた。言葉の通りに、三日で救助隊を寄越した。三日目の朝に、救助隊を間に合わせてくれたのだ。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第48話 EP8-8 三日目!/END
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